第十一話:琥珀色の世界、終章
来場人数100人記念です。……といっても99人で止まってじれったくなったので自分で無理やり100人にしましたが。それが何か?(自棄)
……冗談です。見捨てないで(泣)
これにあわせて「番外編:大樹が枯れたその後に……」を開設しました。
こちらの来場人数が切りよくなった所で、登場人物の名前のついた話が載る、予定。
誰の話がいいか、リクエストしていただければそちらにあわせて書くかもしれません。今のところ評価もまったくないので、おそらくこれからもないんじゃないかと思っています。ですからこのリクエスト企画もないでしょうね(自棄)
まぁそんな事はともかく、そんな感じで琉樹ちゃんがやっと上手く動いてくれてきます。そろそろ話が進むかもしれない……でもそれは琉樹ちゃんの機嫌しだいでしょう。振り回されてます……。
ではではごゆるりとどーぞ。甲崎零火でした。
そして、世界は廻る。廻る。
私は繰り返す既視感を、……世界を見ないフリする。気づかないフリをする。
私は夢の中で眠る度に、自分が夢を繰り返し見ている事に気づく。そしてまた夢の中で目覚める度にそれを忘れる。
それでも再び来る、世界の終わりで視るのはいつも貴方。
最も愛しくて、最も憎い貴方。
貴方は何て言っているの?
そう思いながらも、私は何処かで気づいてる。
貴方の声が、世界を繰り返す度に鮮明になっている事に。
私は聞こえないフリをする。
その言葉に、予想がついているから。
あんなにも願っていながら、聴きたくなかった言葉だから。
「…は今………前が…く…堪ら…いよ」
段々と夢が鮮明になっていく。聞こえなかった樹の声が聞こえてくる。
私は聞こえなかった樹の言葉に安堵し、次に巡る世界の終わりで、樹の言葉が聞こえてしまう可能性に怯える。
もう分かってる。もうあの偽りだらけの天国で地獄な日々は終わってしまった。
大樹はもういない。もう何処にもいない。
私は現実から目をそらした。樹は逃げなかった。
愛しい樹。でも、貴方に本当の事を知られてしまうよりも、大樹に私の偽りを知られる事の方が本当は、ずっと怖かったの。
大樹は神様みたいに優しくて美しかったから。その美しさの前に、私の醜さを曝け出すのは何よりも怖かった。
「俺は今………前が…くて……ないよ」
世界が廻る。廻る。
そしてまた、この記憶に辿り着く。
「あ、ほら。今日は随分と紅い」
文化祭前夜。準備に追われて、いつもより帰りが遅くなった。
周りはもう暗くて、紅く光る車のライトが映える。
何故、車のライトは紅なんだろう。不吉な感じがする、この暗い紅。
この色を見ると、理科の教科書に載ってた、血液を含まない「新鮮じゃない血」を連想する。
そんな物思いにふけっている時、大樹の声で夜空を見れば、満月から裂け逝く月があった。
紅い血に塗れたような、それ。
私の隣で樹もまた、ぼんやりと月を見ていた。
……樹が、この先も私の隣にいてくれるなら。
大樹を愛しく思う時間よりも長く強く、私を憎んでくれるなら。
私はどんな嘘でも吐く。貴方を傷つけ続ける。
ほら、あの月も私達の心と同じように血塗れ。
私か吐いた嘘で血塗れ。
……紅月の、綺麗な夜だった。
「しかし随分時間かかったねー」
大樹がわざとらしく溜息を吐いた。
「……大樹は仕事引き受け過ぎ」
ぼそぼそと樹が返す。
今日は文化祭前日で、ひたすら朝から準備をしてた。
「?そんなに引き受けてないよ」
「大樹は引き受けてるんじゃなくて、自分で増やしてるから質が悪いのよ……」
こう見えて、生徒会長なんてやってる大樹は日頃からよく雑用に追われている。
ちなみに樹は副会長で、私は会計だ。領収書なしでは予算から支払わない鬼会計として知られている。
でもそれも明日の文化祭で終わりだ。私達の学校では、文化祭三日目の後夜祭で、生徒会の引継ぎが行われる。
忙しかったが、幸福な日々。
文化祭が終わったら、私達も否応なしに来年の高校受験に備えなくてはならない。
私達は志望校が同じだ。都内でもトップクラスの高校。失敗したら離れ離れ。
この三人の中では、一番危ないのは私だろう。
私だけ落ちたら。
樹と大樹だけが同じ高校に行ったら。
そんな想像をしてしまう。
「ねぇ、琉樹……」
前を歩いていた大樹が、振り返って私に声をかけた。暗さと、大樹の後ろから射してくる明かりで表情が見えない。
「今日、ちょっとこの後話があるんだけど……」
「何?あらたまって……」
私の隣を歩いていた樹が、物言いたげな顔をする。
樹が言いたいのは、自分の目の前では出来ない話とは、何か、という事だろう。
「うん。ちょっと、ね……」
その時、派手な音がした。
ちょうど隣を走っていたトラックが、急ブレーキをかけた。
何でかなんて知らない。そのトラックに後続の車がぶつかる。ぶつかる。
トラックに積んであった、何だか良く分からない重そうな鉄の柱が、私達めがけて落ちてきた。
一番最初に反応したのは、樹だった。
樹は大樹と私めがけて、咄嗟にタックルをした。
私はそれで鉄の直撃から逃れた。
でも、それでは樹は転んで鉄の下敷きだ。
慌てて顔を上げると、私の前に樹が飛んできた
大樹はぶつかってきた樹を捕まえて、思いっきり私の方に向かって投げたのだ。
大樹は、目の前で、鉄の下敷きになっていた。
足下に、広がって来る液体。
紅い、それ。
「大樹!」
私は叫び、走り寄る。
大樹は笑っていた。明らかに右腕と右脚が鉄の柱の下敷きになっている。
大樹が何か言おうとした。聞こえない。
「何?何て言ってるの?」
私は大樹の口元に耳を当てる。
「琉樹……もういい………嘘はもういい……分かってる。分かってるから」
私は自分の目が見開いていくのを感じた。
大樹は何を言っているの?
「琉樹が好きなのは……樹でしょ?……全部、知ってる……」
うそは、もういらない。いつきに、すきだって、いってよ?
大樹は吐息のような声でそう呟く。
おれは、おうえんする。こんな、うそつくほど、にくまれることをのぞむほど、るきはいつきがすきなんでしょ?
私は信じられなかった。こんな自分の血の池の中で、何故、大樹は私にこんな事を言うのか。
こんな神様みたいな笑顔で。
普段と何も変わらないような目で。恨み言も、苦痛も口にせずに。
「でも、でも樹は大樹が好きで、大樹は樹が好きだから……」
おれは、いつきがすき。でも、るきもだいすき。
そう言って大樹は笑う。動くわけない腕を上げて、私の頭を撫でる。
ねぇ、くるわないで、るき。しあわせになって。いつきをしあわせにしてあげて。
おれは、さんにんのかんけいが、こわれるのがこわかった。こわさないですむなら、るきのうそにつきあうのもよかった。
でも、それでも、おれたちのかんけいが、こわれるなら、おれはいつきを、しあわせにしたい。るきを、しあわせにしたい。
そこで、ふらふらと、樹が近寄ってきた。
私には分かった。大樹の笑顔が、樹に向けるためだけの、愛おしくて堪らない者を見るものに変わるのを。
それは樹が大樹を見ていない時にのみ、大樹が樹に向ける視線だった。
大樹はずっと我慢していたのだ。隠し続けていたのだ。
自分の恋情を樹に気づかれぬようにする為に、その視線を隠していたのだ。
本当はもう喋る力もないのに、最期に残った命の灯火を燃やして、大樹は言葉を発した
「い、つき……るきをたすけて」
大樹はきっと言いたくて堪らないだろう、自らの恋情を伝える事はしなかった。
「るきをたすけて……るきをよろしく」
この人は、神様だろうか。
その大樹の言葉を誤解したであろう樹は、私の目の前で驚愕と憤怒と絶望に瞳孔を開いていた……
最後の記憶が途切れた。
また白い部屋。
また貴方の言葉が鮮明になる。
私は耳を塞ごうとする。
それでも身体は動かない。
この牢獄のような白い部屋の中で、私の受ける罰は貴方の声を聞き続ける事。
これは、単なる現実だ。
贖罪のない代わりに慈悲もない、そんな現実。
「俺は今でもお前が憎くて堪らないよ」
お久しぶりです。甲崎零火です。
今回でやっと過去編が終了です。……挿入のはずの過去編の方が、長いのは……何故だろう。
次回からまた、樹君視点の本編に戻ります。
もうすぐ(予定では後4話位、のはず)で話が終わります。
結末は決まっておりますので、また日もそれほど経たずにお送りできると思います。
どうか、最後までお付き合い下さい。
次は、番外編に「大樹編」を載せる、予定です。
載せられると、いいなぁ……(苦)
では、また近い内にお目にかかりましょう、甲崎零火でした。