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カテキョ  作者: 来城
31/32

lesson.31

 年が明けてすぐにあるのはお兄ちゃんの誕生日。

 プレゼントにはお兄ちゃんが欲しがっているものをあげたい。なにを欲しがっているのかはまだ聞いてないけど。それはおいておいて、なによりも資金だ。

 親からもらっているお小遣いじゃなくて、自分で稼いだお金で、お兄ちゃんにプレゼントしてあげたい。そんな思いから、私はお兄ちゃんに内緒でバイトをはじめた。

 おかげで、お兄ちゃんと会える時間が少し減ったけど、お兄ちゃんの喜ぶ顔を見るためだ。少しくらい我慢しないと。



「でもさー、それって亮くんからしたらもしや、浮気!?とか思っちゃうんじゃない?」


 私の決意を聞いていた奈津子がチュッパチャップスを口にくわえたまま言う。

 今はバイトの休憩時間。

 どうして奈津子がいるかというと、私がバイトを探していると奈津子が親戚の経営する喫茶店を紹介してくれたのだ。奈津子も金欠の時は手伝っているらしい。どうやら今月は金欠みたい。


「へ? なんで?」

「だって、これまでの亜美だったらメールもこんなに時間空けないし」

「バイト中にメールはできないからしょうがないじゃん」

「それに、電話の回数も減ってるでしょ」

「それは……疲れて眠っちゃうんだよね」

「極め付けに、デートの回数も減ってる!」

「……カテキョの時にイチャイチャしてるもん」

「甘い! 甘いね、亜美。男っていうのは妄想する生き物なワケ。亜美の様子がおかしい。連絡が取れない=浮気してるんじゃ? ってすぐ思っちゃうんだよ」


 お兄ちゃんに限ってそんな短絡的な思考にはならないと思うけど――奈津子があんまり自信たっぷりに言うのですこし不安になってきた。


「ってことで、伯父さん、今日は早めに帰らせてね」

「おう、いいぞ」


 話を聞いていたのか奈津子の伯父さんであるマスターはあっさり早退を認めてくれ「若いっていいよなぁ」と遠い目をして呟いた。


 っていうか、なんで早退する必要があるのか分からない。


 私がキョトンとしていると奈津子は呆れたように「不安の種は芽が出る前に摘みとらないと」と言った。


「どういうこと?」

「だから、亮くんに会いに行けばいいじゃん」

「今から?」

「グッと来るよ。夜中に、来ちゃった攻撃」

「突然だと迷惑になるんじゃない?」

「ラブラブなら迷惑じゃないね。あ、ラブラブな自信がないとか?」

「そんなことないよ! ラブラブだよ、私たちは!」

「じゃ、行っておいで」


 奈津子はニカッと笑い、マスターは微笑ましくこっちを見ていて、私はそれらに後押しされてお兄ちゃんに会いに行くことにした。

 お兄ちゃんに浮気してると思われてたら嫌だしね。



********



 寒さに身を縮こまらせながら、お兄ちゃんの住むアパートへ急ぐ。

 時刻は8時を回ったところ。

 まだまだ人通りはあるけれど、やっぱり一人は不安で、自然と足は速くなる。おかげでお兄ちゃんの部屋の前に辿り着いた時、私の体はもうポカポカになっていた。


 小窓から零れる明かりはお兄ちゃんが部屋にいる証拠。

 私はホッと息を吐く。驚かせようと内緒で来たから少しだけ気がかりだったのだ。

 さて、と――まずはバッグから鏡を取り出して身だしなみをチェック。乱れた前髪を丁寧に直して、私はインターフォンに手を伸ばした。


「……はい?」


 ガチャっとドアを開けたお兄ちゃんは私の姿を見て目を丸くした。


「ど、どうしたの、こんな時間に?」

「お兄ちゃんの顔が見たくなって」


 えへへ、と笑うと「そっか」とお兄ちゃんの顔がほころんだ。でも、その顔はすぐに心配そうなものになる。


「……でも、危ないよ、こんな夜遅くに一人で歩いちゃ」

「大丈夫だよ。まだ8時だし」

「そんなの分かんないって。今の日本は危ないんだから」

 

 変な奴に襲われたら大変だ、とお兄ちゃんは続ける。

 言われてることは分かるけど……折角、会えたのにお説教はちょっと。


「お兄ちゃん」


 呼びかけて、抱きつく。

 突然の行動にお兄ちゃんは驚いたみたいだけど、ギュッと私を抱きしめてくれた。


「お兄ちゃんに会いたくて、カテキョの日まで待てなかったの」

「……亜美ちゃん」

「ごめんね、最近忙しくて」

「い、いいよ、そんなこと。部活なんだし。無理しないでね」

「……うん」


 バイトのことは内緒にしているから、もうすぐ試合があるということにしている。優しく頭を撫でられて、ちょっとだけ罪悪感。


「……あんまり遅くなるといけないから、送るよ」

「うん」


 本当は泊まっていければ一番いいんだけど、明日も学校があるし、今からお母さんにお伺いを立ててもまずムリ。名残惜しいけど、お兄ちゃんと一緒に駅へ向かって歩き出す。


 ゴメンね、お兄ちゃん。あと一週間だから。

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