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カテキョ  作者: 来城
27/32

lesson.27

 昨夜から私はあることについて悩んでいた。





 カテキョの時間。

 必死に問題を解いている私を尻目にお兄ちゃんは珍しくうとうととしていた。

 問題はそんなに難しくなかったし、なにより、疲れているんだろうな、と思って、私はお兄ちゃんを起こさなかった。


 お兄ちゃんが目を覚ましたのは、授業が終わる数分前。

 その頃にはもう問題も解き終わってお兄ちゃんの寝顔を堪能していたのだけど、なんだかその顔がやけに幸せそうだったので、私は目を覚ましたお兄ちゃんに「いい夢見てたでしょー?」と笑いながら聞いた。

 すると、お兄ちゃんは「いや、全然、そんなことないよ、なにも見てない!」と、ぶんぶん首を振って否定した。


 どう見ても嘘を吐いている様子のお兄ちゃん。


 私はじと目でお兄ちゃんを見やりながら「今日は先生が寝ちゃったから、全然勉強した気分じゃないなぁ」とチクリ。

 お兄ちゃんはギクリと肩を竦め「ご、ごめんね」と頭を下げた。


「別にいいけど。なーんか幸せそうだったなぁ、お兄ちゃん」

「そ、そう?」

「うん。もしかして、浮気する夢とか見てたりして?」

「み、見てないよ、そんなの」


 鎌をかけてみると、お兄ちゃんはムキになって否定した。怪しい。


「じゃ、なんで教えてくれないの?」

「……えっと、だって、亜美ちゃん、怒りそうし」

「夢のことくらいで怒んないよー」


 浮気した夢見てたんだったら怒ってたけど、という言葉は飲み込んで笑顔を見せる。お兄ちゃんは逡巡して、やがてポツリと言った。


「……その、亜美ちゃんが……エッチ、しよって……誘ってくれた、みたいな」





 私の悩みはこれだ。

 夢っていうのは、その人の願望が現れるという。つまり、お兄ちゃんは私からエッチに誘って欲しい……ってことになる。


「ム、ムリムリ! 絶対ムリ!」


 恥ずかしすぎる。自分から、なんて。

 だけど、夢を見てたお兄ちゃんは凄く幸せそうで、お兄ちゃんのあんな顔をもっと見たいと思う。お兄ちゃんが幸せだと私も幸せだし。

 やっぱり少しは私からなんか、こう、した方がいいのかな?

 今はお兄ちゃんがエッチモードに入らないと、そういうあれにはならないし。でも、だからって――うぅ、どうしよう? 


 昨夜、お兄ちゃんから夢の内容を聞きだしてから私は、ずっとそのことばかりを考えていた。

 おかげで寝不足。

 ヘロヘロな頭のまま、学校に着くと「おはろー」と私よりも眠たそうな顔をした奈津子に声をかけられた。


「おはよぅ、奈津子」

「……亜美、顔赤いよ? 大丈夫?」


 私の顔を見るなり奈津子が心配そうに顔を曇らせる。


「だ、大丈夫。なんでもないから」

「……あやしい」

「は? な、な、なにが?」

「亜美のことだから、亮くんと電車で痴漢プレイとかしてきたんじゃないの?」

「はぁっ!? ないよ、ない! っていうか、そんなのするわけないじゃん!」

「冗談でしょ。そんなムキになんないでよ」


 奈津子はカラカラと笑う。

 人の気も知らないで、まったく。


「で、ホントはなにがあったの?」

「え?」

「私の目は誤魔化せないよー。亜美、あんた、なんか悩んでるでしょ?」


 ズバリと言い当てられて、私はそっぽを向く。

 奈津子はにやにやとお得意の笑みを浮かべ、私のほっぺをつついた。


「ほらほら、隠さずに言ってミソラシド。ズビシッと解決してあげるからさー」

「うーん」

「ほらほらー」


 奈津子のしつこさに負けたわけじゃないけど、一人で考えてても答えは出そうにないし、話してみようかな……

 今は菊池さんの手の平の上で転がされまくってるみたいだけど、奈津子は私より色々経験してるから、参考になる話が聞けるかもしれないし。


「……あのね」


 私は思い切って奈津子にお兄ちゃんが見た夢の話を打ち明けた。




「なるほどねー、それで亜美は悩んでたわけだ」


 話を全て聞き終えた奈津子は少しだけ呆れたような顔でうんうん頷く。


「そうなんだけど……奈津子、なんかちょっと呆れてない?」

「まあちょっと、だいぶね」

「う……」

「だってさー、もうやることやっちゃってんのに、そんなことでフツー悩む?」

「悪かったね、こんなことで悩んで」


 口を尖らせると奈津子は「怒らない怒らない」と笑った。


「で、実際問題、亜美って一回くらいは亮くんに迫ったことあるんでしょ?」

「ないよっ!」


 恥ずかしくて無理だって言ってるのに、人の話聞いてないんだから。

 睨むと、奈津子は外人がOh,NO!と言うようなジスチェーをして首を振る。


「ダメじゃん、それじゃぁ」

「……なにが?」

「エッチっていうのは、二人で協力するもんなんだよ。ギブアーンドテイクってね」

「……ギブアンドテイク」

「そ。与えたり、貰ったり。ラブの基本」


 なんだか雑誌の恋愛特集にでも載ってそうなことを言う。


「だからさぁ、亮くんばかりじゃなくて、たまには亜美から迫ってみるのも必要なんじゃない?」

「で、でも」

「迫るのが恥ずかしいなら、そういう雰囲気? とかつくって、その気にさせてあげるとか、あるじゃん」

「雰囲気、かぁ……」


 それなら、なんとかなるかもしれない……あんまり自信はないけど。


「ありがと、奈津子」


 なんだかんだで相談してよかった。

 私はお礼を言って、頭の中でお兄ちゃんと二人きりでいる場面を想像する。


 雰囲気作り。

 雰囲気作り……


 いくら考えても想像の中の私とお兄ちゃんはちっとも動き出してくれない。


 うぅ……ダメだ。

 エッチな雰囲気ってどうやってつくればいいの?

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