lesson.26
お兄ちゃんがエッチじゃなくなった事件から一週間。今日も変わらずお兄ちゃんはエッチです。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
「んー?」
「どっか、行こうよ」
「んー」
「んっ……もう、ダメだってば」
お兄ちゃんの部屋で一日中イチャイチャして過ごすのもいいけど、今日はなんとなく外を歩きたい気分。
悪戯なお兄ちゃんの手を胸から引き離す。お兄ちゃんは少ししょんぼりした顔で体を起こした。
「亜美ちゃん、どこか行きたいところあるの?」
「ないけど、お兄ちゃんとプラッとしたい」
「外寒いよ」
そういえば、昔からお兄ちゃんは寒がりだった。冬になるにつけ、外へ出たがらなくなる。でも、冬は冬の楽しみ方があると思う。例えば――
「くっついたらあったかいよ」
とか。
私の言葉にお兄ちゃんは少し考えて、にこっと笑った。
※
とは言ったものの、くっついても寒いものは寒い。だから、私たちは近場のショッピングモールに入って、ウィンドウショッピングを楽しむことにした。
ぐるぐると色んなお店を回っている間に、買う気もなかったのにすっかり荷物が増えてしまった。
気がついたら、お兄ちゃんは荷物持ちみたいになっている。
「自分で持つから平気」と言っても、いつの間にかお兄ちゃんの手に荷物がいっている。
お兄ちゃんは、私が気を遣わないようにとさりげない言葉回しで荷物を持ってくれてた。そゆとこ、かっこいいな。大人だな、って。
「……お兄ちゃん、優しいね」
「え? どうしたの、いきなり」
「だって、優しいもん」
えへへと笑い、空いている方のお兄ちゃんの手を取り、繋ぐ。ぎゅっと握り締めたら、ぎゅっと握り返された。
一通り見て回ったし、そろそろ帰ろうかということになって、手を繋いで歩いていると、雰囲気のいい露店が見えてきた。
「あそこ見ていい?」
「いいよ」
お兄ちゃんの了解を取ってから並んでいるアクセを見る。
可愛いのやらクールなのやら。色々手に取ったりして、二人で見ていると
「二人、仲イイネ」
レゲエが好きそうなドレッドの外人さんが気さくに話しかけてきた。
「カップルさん、コレ、オススメ」
そう言って、見せてくれたのはお揃いのブレスレット。
友達同士でのお揃いはあんまり好きじゃないけど、相手がお兄ちゃんとなると、すっごく欲しくなる。そんな気持ちが顔に出ていたのか
「これ、いくらですか?」
お兄ちゃんがドレッドさんに言った。
「1つ700円、デモ、2つで1000円でイイヨ」
「じゃ、それください」
お兄ちゃんは即決。
騙されやすそうだなぁ、って思ってる場合じゃなくて。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「私、半分出す」
「いいよ、これくらい」
「いいから。お兄ちゃん、500円で」
「いや、でもさー」
お兄ちゃんは、なにか言いたそうだったけど、私が少し口を尖らせると「分かったよ」と渋々頷いた。
ドレッドさんにお金を渡して、別々にブレスレットを受け取る。
お兄ちゃんはなんだかなぁといった感じで頭をかいている。
「お兄ちゃん」
「なに?」
私は自分で買ったブレスレットをお兄ちゃんに差し出す。
「……え? なに?」
「プレゼント、交換」
「……?」
「私が買ったやつ、お兄ちゃんに。でぇ、お兄ちゃんが買ったのは」
「亜美ちゃんに」
「そ」
「それで、割り勘にしたんだ」
「そういうこと」
えへへ、と笑って、照れくさそうなお兄ちゃんからのプレゼントを受け取る。
早速、それを手につけてみる。お兄ちゃんも同じように手につける。
「……なんか、いいね」
お兄ちゃんが自分の手と私の手を交互に見比べながら、しみじみと口にする。
「うん。なくしちゃ、やだよ?」
「なくさないよ」
お兄ちゃんが笑う。
二人、お揃いのブレスレット。
「なんか、いつも一緒って感じするね」
「え? いつも一緒に居るじゃん」
「毎日じゃないもん。お兄ちゃんに会えるのは、大体、カテキョの時と土日ぐらいだし」
「まぁ、そうだけど……」
「あ、でも、無理して会うのもよくないよね。今くらいでいいのかも……」
「んー」
お兄ちゃんは同意してるのかそうじゃないのか、よく分からないような調子で唸って、私の手をぎゅっと握った。
「毎日は会えないかもしれないけどさ、なにかあった時はちゃんと言いなよ? 俺、飛んでいくから」
夕日のせいか、言葉のせいか、頬を少し赤く染めながらお兄ちゃんが言う。私は返事の代わりにお兄ちゃんの腕に抱きついた。




