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カテキョ  作者: 来城
25/32

lesson.25

 勉強は勉強。休憩は休憩。

 つまり、だから、そういうわけで。休憩中はべったりいちゃいちゃ。それは私にとって嬉しいことなんだけど。……それにしたって。


「ぅ……ん、んっ…」


 音楽もかかっていない私の部屋。お兄ちゃんに触れられているため、自然と零れる熱い吐息が響く。


「お、お兄ちゃん……ちょっと」

「んー?」

「もうダメ……や」

「な、なんで?」

「もうすぐ休憩時間終わるから!」


 はだけられてた制服のブラウスのボタンを留める。それからまだ名残惜しげに彷徨っているお兄ちゃんの手を下へ落として。


「ホント、エッチすぎるよ、最近のお兄ちゃんは」

「……そう、かな」

「じ、自覚ないの?」

「……少し、ある」

「よかった」


 これだけ触っておいて自覚がない、なんて言われたらえらいことだ。

 ついさっきまで、私の胸を触ってた手を見つめて「ごめんね」と、お兄ちゃんがシュンとなる。なんだか可哀想になってきちゃう。


「ほどほどに、ね」

「うん……じゃあ、勉強始める前にキスだけでも」

「……うん」


 私が頷くと、お兄ちゃんはホッとしたように顔を綻ばせて、ゆっくりと私に近づいてくる。

 最近、気づいたけど、私が思うキスとお兄ちゃんの思うキスは少し違ってて。どちらもキスはキスなんだけど、私の場合は、唇が触れ合うだけの、優しいキスで。お兄ちゃんの場合は、舌が絡み合う激しいキス。嫌いじゃないんだけど、勉強の前にされると頭がボーっとなっちゃって、少し困る。



********



 今日は休日。なのに、お兄ちゃんと待ち合わせではなく、奈津子と待ち合わせをしている。

 恋愛も大事だけど、友情も大事だし、それはいいんだけど……半ば、ムリヤリ呼びつけておいて、時間通りに来ないのはどうかと思う。

 おかげで色んなことを考えてしまう。色んなことっていうか、最近、とみにエッチなお兄ちゃんのこと。


「はぁ……」


 愛されてる実感はあるものの、エッチすぎるのも考えものだ。拒めない自分も考えものだけど。

 でも、お兄ちゃんの気持ちの尊重したいし、あんまり嫌がってばかりだと可哀想だ。

 でも、でも――


「悩んでるわね、亜美ちゃん」

「……うん、そう、悩んで……って、え?」

「こんにちは」

「菊池さん……」


 てっきり奈津子だと思ったのに、目の前にあった顔は綺麗な菊池さんの顔。


「あの、奈津子は?」

「なっちゃんは少し遅れるって。代わりに亜美ちゃんの相手してあげてって言われたから」

「……そ、そうですか」


 遅れるなら遅れるとメールしてくれればいいのに。っていうか、菊池さんをよこすことはないと思うんだけど。なんか申し訳なくなる。


「すみません、奈津子が」

「いいのいいの。ちょうど、近くにいたから」


 菊池さんは本当に気にしてなさそうに気持ちのよい笑顔を浮かべる。やっぱ大人って感じだ。


「それで、亜美ちゃんはなにを悩んでるの?」

「え? あ、えっと……」

「片瀬君がなにかした?」

「え、な、なんでお兄ちゃんのことだって分かるんですか!?」

「ん? なんとなく」


 菊池さんがクスッと笑う。

 か、顔に書いてるのかな? 私、お兄ちゃんのことで悩んでますって……


「あ、別に無理に話さなくてもいいからね。なっちゃんの方が話しやすいだろうし」


 私が黙っていたからか、菊池さんが言う。

 奈津子に相談……は、ないなぁ。絶対、からかわれるし。恥ずかしいけど、ここは一つ、大人の意見を聞いてみるべきかもしれない。


「あの、菊池さん」

「ん?」

「奈津子には秘密にしてほしいですけど」


 そう断りを入れて、菊池さんが頷いたのを確認してから、私は最近のお兄ちゃんのことを打ち明けた。



「はー、あの片瀬君がねぇ……それだけ亜美ちゃんに魅力があるってことね」


 話を聞き終えた菊池さんは感心したようにそう言った。


「魅力なんて、そんな、ないです」

「ふふ……でも、勉強の妨げになるのは少し問題ね」

「そ、そうなんですよね。嫌じゃないんですけど」

「要はメリハリってやつよね」

「はい」

「分かった。私に任せて」

「え?」


 なんだかよく分からないけど、菊池さんは自信満々な様子で、お兄ちゃんを呼び出した。

 この強引なところ、少し奈津子にも似ている。似たもの同士だから上手くいってるのかな……?





「……一体、なんの用だったの?」


 菊池さんに解放されたお兄ちゃんは不思議そうに首を捻った。

 お兄ちゃんが到着すると菊池さんは「亜美ちゃんはちょっと外してて」と言い、丁度、遅れてきた奈津子がやってきたので私は奈津子と少し話をしていた。

 その間に、菊池さんとお兄ちゃんの会話が終わり、今に至るわけだけど――本来、奈津子と遊ぶ予定だったのが、なんだか分からないうちに、お兄ちゃんの家に行くことになったのはよしとする。


「え? さ、さぁ……私もよく分かんない」

「ふーん」

「お兄ちゃん、忙しかったんじゃないの?」

「ん? ああ、ちょっとレポートまとめてただけだから、平気。亜美ちゃんと一緒の方が楽しいし」


 またサラリと嬉しいことを言ってくれる。思わず、笑顔になりながらお兄ちゃんの部屋へ続く階段を上る。


「私が鍵開けるね!」


 先に部屋につくように、私は早足でお兄ちゃんよりニ、三段上にいった。

 その時、強い風が吹いて――ふわっと捲れあがる私の、スカート。


「わっ!!」


 慌てて押さたけど、絶対に見えたはずだ。恐る恐る、お兄ちゃんを振り返る。

 って、あれ?


「風強いねぇ」


 お兄ちゃんは赤くなりもせず、動揺を隠している様子もなく、あくまで冷静な調子で言った。


「お、お兄ちゃん?」

「ん?」

「……い、今、見え……ううん。やっぱりなんでもない」


 もしかしたら、見てない振りをしてくれているのかもしれないし、だったら、蒸し返さない方がいいかな。恥ずかしいし。

 そう考え直して、私はスカートに気をつけながら、残りの階段を上りきった。




 部屋に入ってから数十分。私たちはテレビの前に座っている。

 いつもなら、お兄ちゃんはテレビを見ている私を後ろから抱きしめてくるんだけど、今日はどうしてか離れて座ったまま。妙な違和感を感じる。

 そういえば、さっきも見えてたはずなのにやけに冷静だったし。


「あー、俺、このギャグ理解できない。面白くなくない?」

「え? そ、そうだね」


 その違和感は


「そうそう、次のカテキョの時に使うプリントなんだけど――」

「……うん」


 時間が経つごとに


「あ、亜美ちゃん、そろそろ帰らないと遅くなるんじゃない? 俺、送ってくよ」


 強くなって――


「……お兄ちゃん、どうしたの?」


 私はとうとう聞いてしまった。お兄ちゃんがキョトンとした顔になる。


「へ? なにが?」

「なにがって……なんか今日、よそよそしくない?」

「え? そう?」

「だって、いっつもくっついてくるのに、触ったりとか……」


 私がダメって言ってもしてくるのに。

 二人きりで、しかも、誰の邪魔も入らないこの部屋でなにもしてこないなんて絶対におかしい。

 私の言葉にお兄ちゃんはポリポリと首筋をかきながら「んー」と唸った。


「そういうことする気がなくなったっていうか……なんか妙にすっきりしてるし」

「な、なにか変なもの食べたんじゃない? おかしいよ、お兄ちゃん」

「心当たりないけどなぁ」

「……わ、私のこと嫌いになったとか?」

「そんなことない、大好きだよ」

「でも……」


 私は言葉を失う。なにを言ってものれんに腕押しって感じだ。

 お兄ちゃんは落ち込んでしまった私の頭を優しく撫でてくれる。けど、それだけだ。

 そういえば、今日はまだキスだってしていない。


「お兄ちゃん……本当にどうしちゃったの? なにか怒ってるの?」

「お、怒ってないよ」

「私が、いっつもエッチってお兄ちゃんのこと怒るから、嫌になっちゃったの?」

「ち、違うって。な、泣かないでよ、亜美ちゃん」


 そう言われて、私は自分が泣いていることに気づいた。

 お兄ちゃんはおろおろと私の頭を撫でて抱きしめて、どうにか宥めようとしてくれてるんだけど、ぽろぽろ零れる涙は止まらない。お兄ちゃんを困らせたくないのに、どうしてこう涙は言うことを聞いてくれないんだろう。

 そう思った矢先、この場に似合わない軽快なメロディが流れた。私の携帯だ。

 反射的に取り出して、相手を確認する。菊池さんだ。メロディは途切れることなく鳴り続けている。


「出ないの?」

「……出る」


 私の答えにお兄ちゃんは少しだけホッとしたような息をついた。


「……もしもし?」

『あ、亜美ちゃん? よかった。片瀬くんの様子どう?」

「どうって……変です。お兄ちゃん、全然私に興味なくなっちゃったみたいで」


 私の答えに菊池さんがまいったというふうに大きく嘆息した。


『ご、ごめんね、亜美ちゃん。ちょっとやりすぎちゃったかも』

「なにをですか?」

『ちょっと片瀬くんに代わって』


 私の問いかけを無視して言う。

 私は素直にお兄ちゃんに携帯を差し出した。お兄ちゃんは不思議そうに首をかしげながら、菊池さんと話し始めた。

 その様子をじっと見つめる。


「はぁ? 催眠術?」


 催眠術? 聞き慣れない単語がお兄ちゃんの口から飛び出る。

 ――あ。なんか今、全ての点と線が繋がったような。

 確か私がお兄ちゃんがエッチで困るって相談をしたら菊池さんは「任せて」って言ったんだっけ……そのあとに、お兄ちゃんが呼び出されて、そしたら、お兄ちゃんの様子が変になってて……やりすぎたってことは、つまり


「亜美ちゃん」

「え?」


 考えている間に話は終わっていたらしい。お兄ちゃんがどこかバツの悪そうな顔で私に携帯を返してくる。


「菊池さんの話、なんだったの?」

「あー、なんか、催眠術がどうとかこうとか」

「催眠術……お兄ちゃん、かけられてたの?」

「あー、うん。ぜんぜん気づかなかったけど……俺、おかしかったよね」


 やっぱり、菊池さんはお兄ちゃんにエッチじゃなくなる催眠をかけてたんだ。だからって、マンガとかじゃあるまいしかかりすぎだよ、お兄ちゃん。


「……ご、ごめん」


 私の呆れに気づいたのか、お兄ちゃんが謝ってくる。


「別に、謝らなくても、いいけど」


 私がお兄ちゃんのことを菊池さんに相談しちゃったのがそもそもの原因なんだから。


「いや、でも、エッチじゃなくなって、泣かせちゃったからさぁ」

「……極端すぎるよ、お兄ちゃんは」

「だよね」


 ハハ、とお兄ちゃんは乾いた笑いを漏らす。


「もうかかっちゃダメだよ?」

「う、うん」

「……」

「……ねぇ、亜美ちゃん」


 少しの沈黙の後、お兄ちゃんが窺うように口を開いた。なにが言いたいのか目を見れば分かる。


「……いいよ」

「え?」

「私も、お兄ちゃんと、キスしたい」

「あ、亜美ちゃん……」


 私の言葉にお兄ちゃんは顔を綻ばせ、ゆっくりと顔を近づけてくる。

 キスだけじゃ終わりそうにない雰囲気。

 でも、いいや。エッチじゃないお兄ちゃんよりエッチなお兄ちゃんの方が好きだから――

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