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カテキョ  作者: 来城
24/32

lesson.24

 お兄ちゃんと結ばれた翌日。お互い学校があるので、二人でまったりなんて時間は取れなかった。それでも、二人して一緒に顔を洗って、簡単な朝ご飯の準備をして。

 トーストとバターにカリカリベーコン。カリ、と噛んだトーストは、家と味が違う気がする。目の前にまた少し寝惚け眼のお兄ちゃんがいるだけで、私には家以上にトーストが美味しく感じた。


「……おいしいね」

「う、うん」


 そして、その気持ちはお兄ちゃんも同じだったらしく、パンを齧りながら、笑って私に微笑んでくれた。

 以心伝心みたいで、ものすごく嬉しい。まだ、少し色んなところが痛いけど、それさえも幸せに感じる。


「……お兄ちゃん、今日、大学何時から?」

「えっと……今日は結構早いから、一緒に出よう」

「うん」


 お兄ちゃんと一緒に登校。嬉しくて私が笑うと、同じように、嬉しそうにお兄ちゃんが笑ってくれる。

 なんだか愛しくってたまらない。する前とした後じゃ、なにもかもが違って感じる。私自身の気持ちはもちろんだけど、これまで以上にお兄ちゃんの優しさや、お兄ちゃんが私を大事にしてくれてることが実感できる。




「あ、そういえば」

「ん? どうしたの?」


 朝ご飯を終えて、そろそろ家を出ようとした時、お兄ちゃんが思い出したように、タンスから小さな箱を取り出した。ピアスの時と違って、不器用にラッピングされた箱。


「……なに?」

「あ、いや、なんていうのかな……その、誕生日プレゼントのおまけっていうか……いらなかったら捨てちゃっていいんだけど」


 なんだか要領を得ないので、受け取って開けてみる。

 中に入ってたのは、何かの鍵。


「お兄ちゃん、これ」

「あ、ここの、なんだけど」

「え?」

「ほら、俺が携帯忘れたりして、亜美ちゃん家の前で待ってる時とかあったじゃん。だから、なんていうか、そういう時使ってほしいって言うか……単純に持ってて、ほしいから」

「……いいの?」

「う、うん」

「……私、勝手に部屋に入っちゃうよ?」

「うん、いいよ」

「そしたら、お兄ちゃん、浮気とかできなくなるよ」

「しないよ」


 お兄ちゃんが笑う。

 なんか嬉しすぎて、涙が勝手にポロポロと流れてしまう。そんな私をみてお兄ちゃんが目を丸くした。


「ど、どうしたの?」

「だって……うれし、んだもん」

「え? そ、そっか」

「うん、ありがと……」

「……ほら、泣かないで。ね?」


 お兄ちゃんが私の頭をくしゃくしゃ撫でる。

 私の涙がおさまるまで、お兄ちゃんは優しく頭を撫で続けてくれた。



※※



「あっ! アダルトな夜を過ごした神田亜美さん発見!」


 お兄ちゃんと駅で別れて、学校に向かっていると背後からそんな声が聞こえた。

 振り向かなくても分かる。こんな馬鹿な事を朝一番に言うのは、奈津子くらいしかいない。シカトして通り過ぎようとしたら、すかさず前に回り込まれた。


「ちょっとー、スルーしないでよ。寂しいじゃん」

「……はいはい、おはよ」

「おはー」


 にやにやしちゃって。

 どうせ遅かれ早かれ、質問攻めにあうだろうとは予測してたけど。なにも登校中に遭遇させなくてもいいじゃん、神様。


「……で、どうだったの?」

「……何が?」

「うわっ、白々しー。昨日の、誕生日よ、誕生日!」

「別に、フツーだよ、フツー。奈津子の期待してるようなことなんてありませんから」


 私はそう嘘をついた。

 だって、馬鹿正直に答えたら、一日中、からかわれるのは目に見えているもん。みすみす、そうなってたまるもんか。


「へー、ふーん、ほっほー」


 奈津子はにやにやとしたまま、私を見るけれど、徹底的に無視。まともに目が合ったら、なにかのきっかけで顔が赤くなったりしてしまいそうだし。


「ほら、早く行こ。のんびりしてたら遅刻しちゃうよ」


 ろくすっぽ前を見ず歩いているので足取りが遅くなっている奈津子を急かすと「それもそうだけどさー、亜美」と奈津子が私の首筋に意味ありげに目を留めた。


「な、何?」

「そのキスマーク見せっぱなしで学校行くつもり?」

「えっ!?」


 思わず、首筋に手をやる。

 今朝、ちゃんと確かめたはずなのに。っていうか、お兄ちゃんは首筋にそんなに強く吸い付いたりしないし……どっちかっていうと胸に……いやいや、そんなことは今はどうでもいいんだけど。

 大体、もし、首筋にキスマークがついてたとしたら、お兄ちゃんがなにか言ってくれるはずだ。言わなくても、真っ赤になったりして分かるし。

 そこまで考えて私は気づいた。


 しまった! こんな手に引っかかるなんて……


 奈津子の顔を見やるとしてやったりといった満面の笑顔。


「……奈津子の嘘つき」

「ただの冗談じゃん。亜美がマジになるからビックリした」


 奈津子が白々しく驚いた顔をつくる。さっきまで笑ってたくせに。


 それから、教室につくまでの間、奈津子から繰り出される数々の質問を、私はしどろもどろになりながらもなんとか誤魔化して切り抜けた。


 昨夜のことはお兄ちゃんと私だけの秘密なんだから。

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