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カテキョ  作者: 来城
20/32

lesson.20

 お昼休み。奈津子と学食でご飯を食べて教室に戻ると、一人の子の机を囲って、数人がワーワーキャーキャー盛り上がっていた。


「なにしてんだろ?」

「行ってみよ」


 不思議に思って近付くと、仲の良い女子数人達が「おかえり~」と迎えてくれる。


「なにしてるの?」

「これこれ、チョーおもしろいから」

「なになに?」

「『あなたの彼氏の浮気度チェック!』」

「この子なんか、80%でボロクソだったんだよ、マジうける!」

「あんたね、人事だと思って……」


 人の不幸さえ笑い話に出来るのは、女子高生ならでは。

 私たちも輪の中に入り、奈津子が早速浮気度チェックを始める。

 チェックの方式は、イエス・ノータイプ。最終的に何タイプかに分かれ、彼の性格と浮気の心配のパーセントを出してくれるという優れもの。

 っていうか、奈津子がチェックしているのは菊池さんになるのかな? どことなく真剣な横顔に興味をそそられる。


「うわっ、最悪」

 

 やがて、全ての項目をチェックし終えた奈津子が苦々しい顔で言った。


「ってか、奈津子、早すぎじゃん?あたしたちに問題言わせてよ」

「いいじゃん、そんなの。で、どうだったの?」


 興味津々で聞かれた奈津子は「浮気度90%」と呟いた。最高指数に一気に場が盛り上がる。


「えーっと。90%は……あなたの彼は機会があれば浮気をしたいと考えています。彼の精神は浮気病にむしばまれていますだって……ご愁傷様」

「うっさいよ。あんただって80%だったくせに」

「10%も違うじゃん」

「たった10%でしょ」


ギャーギャーと言い争いを始める二人を尻目に


「亜美もしてみなよ。彼氏いるっしょ?」

「……う、うん」」

「じゃあ、私が問題読んであげるー」

「うん」


 さっきは奈津子が勝手にチェックを始めちゃったから不満だったのか、問題は友達が読んでくれることになった。


「ええと……『彼が急に優しくなった』」

「んー……前から優しいから、ノーかな」

「ノーね、はいはい」

「いいなぁ、前から優しいんだ?」

「うん」

「私のカレシなんか、超冷たいよ」

「あんたが熱すぎるからちょうどいいんだって」

 

 きゃははは、と笑い出すみんな。いつの間にか、奈津子と言い争ってた子も一緒に。それより、次の問題を。


「『身体をすぐに求めてくる』」

「…………ど、どうだろ。最近ちょっとエッチィから、イエスかなぁ」

「マジで? あの亮君が?」


 奈津子がくいついてくる。亮君って誰? と一際盛り上がって……

 求めてくるっていう表現は、ちょっと違うかもしれないけれど。……すぐ触りたがるのは、間違いじゃないし。


「『思っている事が態度や行動に』」

「イエス」

「うぃー。じゃあ次」

「うん」

「『携帯はデート中、常にバイブしている』」

「ノー」

「『彼は、人から物を頼まれたら断われない性格だ」

「……うーん」


 そうかな。私が言った事は、大抵聞いてくれるし。なんだかんだで菊池さんの頼みも聞いてたし。奈津子のお願いも聞いてたし。


「イエス、かな」

「『好きという言葉を口に出してくれない』」

「照れながら言ってくれるよ?」

「じゃあ、イエスでいいよね」

「うん」


 それから、いくつかの質問に答えて、最後の問題も終えた。


「えーと、何々……」

「あ、結果出たんだ?」

「うん」


 ワクワクと、ただの診断テストなのに楽しみになってくる。はやる気持ちを抑えて友達の解説を待った。


「えーとね、『あなたの彼の浮気度は30%。優しい彼はついつい周りに流されてしまいがち。強引な相手がいたら盗られてしまうかも! 注意して!』……だって。当たってる?」

「ご、強引な相手!?」

「え、う、うん。そう書いてるけど」

「ととと盗られてしまうって……」

「や、亜美、落ち着いて。これ占いみたいなもんだし」

「そそ。こういうのはイイことだけ信じればいいの。あたしなんて80%だしさー、気にすることないって」

「そうそう。90%の悲惨な人だっているし」


 動揺する私をなだめるように皆が言う。

 っていうか、いつもだったら気にもしない内容なのに、それがお兄ちゃんの事となると……どうも、冷静でいられない。

 携帯をポケットから急いで取り出して、お兄ちゃんメールを送る。


『強引な人に注意!』


「……よ、よし!」

「よしって、何がよしなの…」


 メールを一緒に覗き込んでた奈津子に突っ込まれた。





 浮気度チェックの結果は、昼休みが終わっても、部活がはじまっても頭の中から離れない。くだらないと分かっているのに色んなことを考えてしまう。

 優しくて周りに流されやすいとこは当たってるし。だったら、強引な相手がいたら盗られてしまうかも……という予想も、当たるかもしれない。

 部活中、悶々とそんなことを考えながら過ごしていたら、休憩をしにきた奈津子がやってきた。


「うわっ、まさかあんたまだ昼休みの気にしてんの?」


 私の顔を見るなり、呆れたように言う。


「だってさー」

「いいじゃん。30パーなんだから。あたしなんて90パーだっつーの」


 奈津子がやってらんないという風に天を仰ぐ。

 そういえば――


「あれって、菊池さんで診たの?」

「そうよ」

「……最近、菊池さんとどうなの?」

「……発展途上のお付き合いしてる感じ?」

「マジで?」

「マジで」

「なーんで教えてくれないのー?」

「手玉に取られすぎて悔しいから話したくない」

「……へー」


 いつも私を手玉に取ってる奈津子が逆に手玉に取られる姿なんて想像もつかない。

 でも、私たちなんか、菊池さんから見たらお子様なのかもしれない。お兄ちゃんはあんまり大人っぽくないから参考にならないけど、菊池さんは大人っぽいし。

 そんな事を考えていると、奈津子が暗い顔で大きな溜息をついた。


「なに? 菊池さんとなんか問題でもあるの?」

「ないけどさー。90%が引っかかってるワケよ」

「占いみたいなもんだって言ったの奈津子じゃん」

「そうだけど……ぶっちゃけ、菊池さんって浮気性っぽくない?」

「し、知らないよ、そんなの」


 惚れっぽくはありそうだけど。


「亜美はいいよね。亮くん、絶対浮気しそうにないから」

「そ、そうかな?」

「そうでしょ」

「菊池さんも浮気はしないと思うよ?」

「だといいけどねー」


 間延びした声でそう言うと、奈津子は「さーてと、そろそろ練習に戻ろっと」と伸びをした。


「じゃ、私も」


 とにもかくにも、奈津子と話した事でさっきより少しだけ軽くなった心、さぼってないで真面目に部活に取り組む事にしよう。





「そういえば、亜美、もうすぐ誕生日っしょ?」


 部活が終わって、一緒に駅まで向かっていると奈津子が思い出したように言った。


「まだ1ヵ月もあるけどね」

「何歳になるんだっけ?」

「……はい? あたし達、同級生なんだけど?」

「そかそか。17歳ね」

「う、うん」

「ごめんごめん」

「……い、いいけど」


 これって、わざとなの? ジョークなの? どっちなの? わからない。素だったら怖いし、ジョークだと微妙にひどい。たまに奈津子の思考が読めなくなる。

 ……ま、いいや。気にしないで置こう。なにはともあれ、誕生日は覚えててくれたみたいだし。


「去年は私と二人だったね」

「そうだね」

「今年は亮くんと二人だね」

「……そ、そんなこと、まだ分かんないよ」

「いや、なにもなくても二人だし、決定でしょ」


 奈津子はなんだかにやにやしながらそう言うと、前方を向いた。不思議に思ってその視線を追ってみると――


「え?」


 どうしてここに? 今日は雨じゃないし、迎えに来てなんてお願いしてないし。嬉しいのと同時に、そんな疑問もわいてくる。

 私がポカンと立ち尽くしていると「旦那さん待たせちゃダメじゃん」と、奈津子がポンと背中を押してくれた。

 よろけて一、二歩。そのまま私は校門の方へ駆け出す。


「どうしたの、お兄ちゃん?」

「ん? いや、ちょっとこっちの本屋に辞書買いにきたから……時間的に亜美ちゃんいるかなと思ってさ」

「そ、そうなんだ。嬉しい」

「会えてよかった」


 にこぉっとお兄ちゃんが顔を綻ばせる。私も多分、同じ様な顔。


「はいはい。二人だけの世界作らないの」


 奈津子が私とお兄ちゃんの間に割ってはいる。


「あぁ、ごめん。奈津子ちゃん」

「謝んなくていいよ、お兄ちゃん」

「ああ、うん」


 お兄ちゃんは困ったように頷く。

 そんなことお構いなしの奈津子は「ねぇ、亮くん。強引な人に気をつけた?」と言った。


「え? なにそれ?」

「あれ? 亜美からメール来てなかった?」

「ああ、今日、携帯忘れてて」


 また忘れたんだ、お兄ちゃん。

 携帯忘れるなんて私には考えられない。携帯がないと日常生活に支障が出るっていうのに。

 でも、いっか。携帯がなくても、こうしてちゃんと会えたんだし。なんか運命ってのを感じてしまう。

 嬉しくなって、お兄ちゃんの腕を取ろうとしたんだけど――


「そうだっ、今日ヒマなら遊びましょうよ」

「えっ、ええ!?」

「……ちょ、な、奈津子ちゃん?」

「あたし、亮くんと遊びたぁい!」


 いやいやいや、ちょっと待って、奈津子。百歩譲ってお兄ちゃんと遊ぶのはいいとしよう。でも、私より先にお兄ちゃんの腕取るのって、どういうことですか?


「ちょ、ちょっと……困るんだけど」

「いいじゃん、いいじゃん!」


 ぐいぐい、と、奈津子がリード。お兄ちゃんは私を気にしながらも、奈津子に連れていかれる。


「…………」


 私の脳裏に先ほどの浮気度チェックの結果が甦る。

 ――『優しい彼はついつい周りに流されてしまいがち。強引な相手がいたら盗られてしまうかも!注意して!』――


「――ご、強引な相手って、奈津子じゃん!!!」


 私は慌てて2人を追いかけた。

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