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カテキョ  作者: 来城
19/32

lesson.19

 今日はカテキョの日。いつも待ちに待ってるけど、今日はいつもの倍楽しみだ。

 なんでかっていうと、今日帰ってきた数学の実力テスト。これまでは散々すぎるほど散々な結果ばかりの数学のテストは、お兄ちゃんがカテキョをしてくれてから、夢のまた夢だった80点台をコンスタントに取れるようになっている。それだけでもすごい成果なのに、なんと今回のテスト結果は雲の上の存在だった90点だったのだ。

 もらった答案をいち早く見せたい。お兄ちゃんの喜ぶ顔が早く見たい。

 私はまるでサンタさんを待つ子供のようにワクワクしていた。

 

 そして、時間がやってくる。相変わらず8時ぴったりにきたお兄ちゃんをいそいそと玄関で出迎えて、一緒に部屋へ。


「やけに機嫌いいけど、なにかいいことあった?」

「お兄ちゃんと会ってるといつもご機嫌だよ?」

「あ、そ、そっか」


 お兄ちゃんは照れたように首筋をポリポリとかく。

 っていうか、間違えた。お兄ちゃんと会ってるとご機嫌なのはホントだけど、今日はテストの結果を見せたかったんだ。


「お兄ちゃん」

「ん?」

「じゃーん!」


 後ろ手に隠し持っていた答案をお兄ちゃんの前で広げてみせる。


「おおっ! すごいじゃん」

「えへへ、頑張ったんだよ」

「えらいえらい」


 お兄ちゃんが私の頭をよしよしと撫でる。

 なんだかちょっと物足りないと思ってしまうのは、最近の過剰なスキンシップの賜物、でしょうか?

 ご褒美のキス、とかないのかな。なんてことを思いながらお兄ちゃんを見つめてみたけど、お兄ちゃんは答案用紙を見つめながら


「……こことか惜しいなぁ。亜美ちゃん、式はあってるのに計算間違いが多いんだよね」


 ぶつぶつ、と。

 そんなに細かく見なくてもいいのに。いや、お兄ちゃんはカテキョとして職務を全うしているだけなんだろうけど……なんか複雑。


「お兄ちゃん」

「え? なに?」

「もうそれはいいから」

「でも、見直しは大事だよ」

「うー、見直しはあとでちゃんとするから……」


 ちゃんと褒めて、と呟くと、お兄ちゃんは一瞬ポカンとなって、すぐにその言葉の意味を理解したのか、ギュッと私を抱きしめてくれた。背中がベッドの脇にくっつく。


「今日は……勉強はいっか?」


 少し体を離してお兄ちゃんが窺うように私を見つめてくる。答えの代わりに頬にキスしたらお兄ちゃんは笑い、お返しのキスを頬にくれる。


「……唇がいいな」

「じゃあ、目閉じて」

「……ん」


 目を閉じるとチュッとおでこにキスされる。


「今、オデコだったよ」

「んじゃ、もっかい」

「……ん」


 今度は鼻。もう、こんなとこで意地悪しなくても。


「もう、お兄ちゃん」


 手を突っ張らせて、お兄ちゃんの肩をぐい、と押す。体が大分離れてしまった。

 お兄ちゃんがその距離を縮めようとしたより早く、私は手をお兄ちゃんの首に回して、体を近づける。


「……唇がいい」

「うん、ごめん」


 今度は希望通り、唇と唇が触れ合う。何度も何度も、まるで美味しいものを味わうかのように。

 お兄ちゃんのエッチな舌の動きは簡単に私の全身から力を奪っていく。


「……ん、ふ……ぁ」

「……亜美ちゃ、ん」

「んっ……! だ、ダメ、お兄ちゃ」


 キスをしながらお兄ちゃんの手が私の体をそっと撫でていく。どうにかお兄ちゃんの手を止めようとするけど、体が言う事を聞いてくれない。もうこのままお兄ちゃんに任せてしまおうかと思ったその時、


「亮くん、ちょっといいかしら?」


 ドアの向こうから、ノックとお母さんの声。


 私とお兄ちゃんが物凄い勢いで体を離すのと、お母さんがドアを開けるのはほぼ同時だった。


「お、お母さん、こっちが返事してからドア開けてよ」


 思わずついて出た文句にお母さんは


「いいじゃないの。ねぇ、亮くん」

「あ、そ、そうですね」


 お兄ちゃんを味方につけた。

 いや、そこで同意しないでよ、お兄ちゃん……


「それより、なにか用なの?」

「そうそう。亮くん、ご飯食べてきたかしら?」

「あ、軽く食べてきました」


 お母さんは、お兄ちゃんの答えに少し思案気な顔をし「ちょっとおかず作りすぎちゃったのよねぇ」と、チラッとお兄ちゃんの方を窺うように見やった。

 こんな顔されたら、誰だって「じゃ、じゃあ、ご馳走になります」って言うしかなくなる。お兄ちゃんもご多分にもれずそう言った。お母さんって強引なんだから。


 お母さんの後に続いて階段を下りる。リビングのテーブルには既に料理が並べられていた。

 作りすぎたというよりは、お父さんの分が余ったみたいだ。多分、急な仕事で今日は家に帰れなくなったんだろう。


「……お兄ちゃん、無理して食べなくてもいいよ?」


 お母さんに聞こえないようにこっそりお兄ちゃんに言うと


「いや、大丈夫だよ。パン食べただけだから、腹減ってるし」


 お兄ちゃんはそう笑った。無理をしている感じはしない。


「それなら、いいんだけど」


 こうしてお母さんと私とお兄ちゃんの3人で食卓を囲む事になった。

 といっても、私もお母さんもとっくに食事は済ませているので、食べているお兄ちゃんを見てるだけだったけど。



********



 食事が済むと、時間も時間だったのでお兄ちゃんは帰ることに。


「亜美の部屋に泊まっていけばいいのに」

「え? あ、いや、あの」

「冗談よ」


 お母さんのジョークに本気でうろたえたりして、まったくカワイイんだから。

 私はこれ以上、お兄ちゃんがからかわれないように玄関まで見送りに出る。


「なんか今日はゴメンね、お母さんがいろいろと」

「ん? 昔からだし、気にしてないよ」

「そうだっけ?」

「うん。おばさんにからかわれて成長しました」


 お兄ちゃんは冗談めいた口調で言う。

 そういわれると、記憶の片隅にそんな光景が浮かんでくるような。


「それより、亜美ちゃん」

「ん、なに?」


 と、お兄ちゃんに視線を合わせた途端、チュッとキスされる。

 唐突なキスに私がポカンとなっている間にお兄ちゃんは「おやすみ」と手を振って行ってしまった。

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