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カテキョ  作者: 来城
16/32

lesson.16

 今日は平日で、学校もあっている。けど、私はベッドの中。


 先日のあの一件。

 お兄ちゃんが目を覚ますまで上半身裸になってたことが原因なのか、それとも、そのあとのことが原因なのかよく分からないけれど、私は風邪を引いた。

 学校にはお母さんが連絡をいれてくれたらしいけど、今日はカテキョの日なので、お兄ちゃんには私から『風邪引いちゃったから、今日は勉強ムリそう』と、連絡のメールを入れておいた。


 そのままうとうとと眠りに落ちて、どれくらいの時間が経ったのか、微かな手の感触を前髪に感じて目を覚ますと


「……お兄ちゃん?」

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

「……ううん、大丈夫」


 いつの間にかお兄ちゃんが来てくれていた。


「お見舞い来て、上がらせてもらったのはいいんだけど、亜美ちゃんぐっすり寝てたから」

「……今、何時?」

「今はねぇ、1時ちょっとすぎ」

「お兄ちゃん、学校は?」

「午後の講義はもう単位取れてるから平気だよ」

「……そっか。お兄ちゃん来てくれて嬉しい」


 ほんの少しお見舞いに来てくれたらいいなって思ってたから。

 私が笑いかけると、お兄ちゃんは少し申し訳なさそうな顔になった。


「ていうか、風邪引いたのって俺のせい、だよね、やっぱり……」

「……んー、お兄ちゃん、エッチだからね」

「そ、そんなことな…」

「否定しても、説得力ないよぉ」

「う……」


 熱がある私より顔を赤くさせて俯くお兄ちゃん。

 こういうとこはウブなのに、えっちなんだから。そんなとこが、可愛くてたまらない。


「でも別に、だからって怒ってないから」

「………」

「それに、結局、私も拒絶しなかったし、ね?」


 なんか恥ずかしいこと言ってる気がする。気づいて頬が火照ってくる。熱があるから火照るのも当然なのかもしれないけれど。


 私が暑そうなことに気づいたのか「……着替えた方がいいんじゃない? 汗かいてない?」と、お兄ちゃんが言った。

 服を触ってみたら、ぐっすり寝ていたせいか、少し汗が染みている。このままの服で夜を過ごしたら寝汗が冷えて、風邪が悪化するかもしれない。

 私はベッドから体を起こして、お兄ちゃんの助言どおりに着替えることにした。


「タオル持ってくるよ」


 お兄ちゃんが立ち上がる。


「場所分かる?」

「おばさんに聞くよ」

「ん、ありがと」


 お兄ちゃんが部屋を出て行ってから、私はベッドから降りて、タンスから着替えを取り出す。まだ少しふらふらする。


「はぁ……」


 ちょっと動くのも億劫だ。着替えを持って、ベッドに腰掛ける。


「お待たせ」


 少しして、お兄ちゃんがタオルを持って部屋に戻ってきた。それを受け取って、着替えようと、服を脱ごうとして……ふと、視線を感じた。


「お、お兄ちゃん」

「ん? なに? なんか他にいるもんあった?」

「違くて……向こう向いててよ。着替えられないじゃん」

「あ、そ、そっか……」


 お兄ちゃんは、なんだか少し残念そうな顔になった。どうしたんだろ?


「……お兄ちゃん、どうかした?」

「え? あ、いや、一人で大丈夫かなって思って」

「え?」

「なんか体動かすの辛そうだし……」


 着替えさせてあげようか? ……って、お兄ちゃんは小さな声で続けた。

 

 こ、この人は……なんてことを言い出すんだろう。

 想像して、ボッと全身が熱くなる。一気に熱があがったような感覚。


「ひ、一人で大丈夫」

「……そっか」


 うわっ、すごくがっかりしてる。えっちすぎるよ、お兄ちゃん……もう、そんなにがっかりされたら、甘やかしちゃうじゃないか。


「ぅー……き、着替えだけだよ? 変なことしちゃダメだからね」

「う、うん!」

「じゃぁ……」


 ……嗚呼、甘いなぁ、私。

 恥ずかしくて死にそうなのに。お兄ちゃんが心底嬉しそうに笑うから、いいかなって気になってしまう。


 ゆっくりと、パジャマのボタンが外されていく。ブラはしていないのですぐ露わになる胸。お兄ちゃんの動きがピタリと止まる。視線は胸の方に定められたまま。


「……お兄ちゃん、早く服……」

「そ、その前に汗拭かないと」

「いいよぉ」

「よくないよ。体冷えちゃうから……」

「……あっ」


 お兄ちゃんがタオルを私の体にあてる。

 上から下へ。触れるか触れないかの優しすぎる動きが、逆に緊張しきった体には刺激的で。


「……変なことしちゃ、ダメって……約束」

「汗拭いてるだけだよ」

「でも……」

「変なことじゃないよ」

「ず、るい……」


 私の文句は聞いてもくれない。

 お兄ちゃんの手が動くたびに、体がピクンピクンと反応する。

 汗拭いたって、また汗が出て来る。暑い。


「……ぅ、やぁっ……もう」


 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。


 目をギュッと瞑って耐えていたら、腰に腕が回された。タオルを持っていないことがその感触で分かる。

 キスが降りてきた。


「んんっ……」


 吐息が漏れる。

 上気した頬は、熱だからだけじゃない。


 ……分かってる。

 ――気持ちいいんだ。


 本気で嫌だったら、とっくに拒絶してる。私が本気で嫌がったらお兄ちゃんはやめてくれる。でも、そうしないのは、お兄ちゃんが好きだから。

 嫌じゃ、ないから。……気持ちいいから。


 お兄ちゃんの背中に腕を回す。


「っ……」


 小さく息を飲んだかと思うと、お兄ちゃんの手が止まった。その手が私の身体から離れる。


「……お兄ちゃん?」

「もうやめた方がいいね。あんまりすると風邪悪化しちゃうし」

「ぅ、うん」


 ……あれ? 意外な言葉に少し戸惑ってしまう。

 なんか唐突すぎるっていうか。急にどうしたんだろう?


 お兄ちゃんは中断していた作業を黙々とこなしていく。

 新しいパジャマを着せられて、ボタンが留められる。見られながら着替えさせられるのは恥ずかしかったけれど、さっきよりかは大分マシだ。

 露わになってた肌も、ボタンを留め終わると、無事に見えなくなった。


「……よし」

「……あ、ありがと」

「ごめんね、変なことして」

「え、ううん。大丈夫、だけど」

「…………」

「…………」


 別に喧嘩なんかしてないのに。珍しく沈黙が。

 お兄ちゃんは赤い顔を隠すように俯いている。さっきまでの積極的な姿はそこには見られない。


 私、なんか変なことしたかな?


 抱きついた途端に動きを止めちゃったお兄ちゃん。ってことは、抱きつかれたのが嫌だったのかな?

 でも、なんで? まさか、汗臭かったとか?

 そりゃ、汗はかいてるけど……そこまで酷くない、と思う。

 じゃあ、本当に私の風邪が悪化しないように、あえてやめちゃったんだろうか?

 うーん。どれもこれも聞いてみないと分からないことだ。


「……お兄ちゃん?」

「?」

「な、なんで途中でやめたの?」

「え?」

「……だって、なんか変だったよ? 私の体調のことだったら大丈夫だから、ね」

「ん?」

「だから、お兄ちゃんが、その……さ、触りたかったら、まだしてもいいよ?」


 恥ずかしいけど、嫌じゃないし。むしろ、それを望んでるのは、私なのかも……


 お兄ちゃんは私の言葉にボンッと音が出そうなほどの勢いで、顔を真っ赤にさせ、ぶんぶんと首を振った。


「し、しなくていい! 遠慮しとく!」

「な、なんで?」


 そんなにはっきり拒絶されると傷つく。

 しょんぼりしていると「そ、そういう意味じゃなくて……あの、これ以上やったら、やばいから」と、お兄ちゃんが慌てたように言葉を続けた。


「やばい?」

「……うん」


 やばいって、何が? と、しばらく考えて、あ、と思う。

 そういえば、前もあった。あの時は首筋とかへのキスだけだったけど。今日はそれ以上のことをしてたわけで。そりゃ、お兄ちゃんがやばくなっても当然っていうか……カーッと一気に上昇してく体温。


 やばい。やばい。


 さっきとはまた違う意味で沈黙が落ちる。

 それに堪えかねたかのようにお兄ちゃんがすっくと立ち上がった。


「……そ、そろそろ、俺、帰るよ。しっかり寝るんだよ?」

「あ……」

「じゃ、お大事に」


 私の返事も聞かずに部屋を飛び出していく。バタバタと階段を駆け下りていく音が聞こえた。残された私はというと。


「しっかり寝るんだよっていわれても……」


 全力疾走をしたあとのようにバクバク脈打つ心臓と、熱を持った体を持て余してしまう。こんな状態で寝られるわけがない。


「お兄ちゃんのバカ……」


 結局、大事な睡眠が取れなかった私は、次の日も学校を休むことになった……。

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