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カテキョ  作者: 来城
14/32

lesson.14

「こんばんは」


 家庭教師の時間。いつも通り家にやってきたお兄ちゃんを中へ招き入れる。

 そして、いつものように手を繋いで2階に上がろうとしたんだけど、1階に教科書の入った鞄を置いてきてしまっていた。

 先に部屋に行ってもらうようお兄ちゃんに言って、私はリビングに寄ってから2階へと駆け上がる。



「ごめんね、待たせちゃって」

「……」

「お兄ちゃん?」

「へっ!? あ、うん、全然大丈夫だよ」


 ベッドの近くにいた、お兄ちゃんはなぜかあたふたとしていて、少し気になったけれど、それ以上に今日は授業中にどうしても理解できないことがあったので「……ならいいけど」と返して、私は持ってきた教科書を開く。


「先生の説明がいまいちで、なんでこうなるのかよく分かんなかったの」


だから教えて、とねだると、お兄ちゃんは「あ、うん。ちょっと見せて」と、身を乗り出した。


「あー、なるほど。これはちょっとややこしいね」


 少し考えた後、お兄ちゃんは私が理解できるようにと、ノートに教科書よりも簡単な例題を書き込んで、丁寧に説明してくれる。そのおかげで、


「……あ、そっか」


 私にもちゃんと理解できて。

 お兄ちゃんは例題を少し発展させた応用問題を幾つか作ってくれる。

 出される問題は徐々に難易度を増していくものだったけれど、順を追っていけば、一人でもちゃんと解くことが出来た。

 お兄ちゃんの教え方は上手だ。今すぐにでも先生になれちゃいそう。最後の問題を解きながら、そんなことを思って、ふとお兄ちゃんの方を見てみた。


 あれ?


 こっちを見てくれているのかな、と期待してたけど、お兄ちゃんは、なんでか頬を紅くして、私のベッドの上をチラ見している。

 そういえば、さっき私が部屋に入ってきた時も様子が変だった。ベッドの近くで。


 ベッドになにかあるのかな?


 私はお兄ちゃんから視線を外して、ベッドの方を見やる。

 普段どおりのベッド。シーツに布団に枕、枕元にはぬいぐるみ。なにも普段と変わり映えしな――って、あれは!? な、な、な、なんで?!


「みっ、見ちゃダメ!!」


 勢いよく立ち上がり、ベッドの上にあったそれを――ピンク色のブラを掴み取り、タンスの中に仕舞う。

 顔から火が出るほど恥ずかしい。


 なんで今日に限って、ベッドの上にブラが……いつもは私が持ってあがるまで一階にあるのに……たまに妙な親切心を働かせてくれるお母さんが、部屋まで持ってきてくれたんだろうけど。それならそれで、なんでちゃんとタンスにしまってくれなかったの?


 お兄ちゃんが赤い頬で眺めていたのはベッド。

 そこにあったのは……つまり、絶対に


「み、見たでしょ! お兄ちゃん、絶対見たよね?」

「み、み、み、見てないっ!! 見てないよ、絶対」

「絶対見たよっ! だって、お兄ちゃん、ベッドの上ばっかり見てたもん!!」

「ち、ちがうよ。俺は別にブラを見てたんじゃなくて、ぬいぐるみを!」

「……私、ブラなんて一言も言ってないよ」


 あ、と小さく言って固まるお兄ちゃん。

 嘘下手なんだから……


「お兄ちゃんのエッチ」

「や、だから、それは、その……」

「知ってたなら教えてくれればいいのに」


 黙ってずっと見られるよりかはマシだ。


「ご、ごめん……」

「……」

「ホントにごめんなさい」


 弱々しく、頭を下げられる。

 しゅんと落ち込んでるお兄ちゃん。そんな風にされたら、こっちがたまらなくなる。

 お兄ちゃんが私のことを待っててくれてるのは知ってる。この間だって、私が嫌がったから、それ以来、あれ以上のことをしないでいてくれてる。

 お兄ちゃんは私を本当に大事にしてくれてる。それなのに、私ったらお兄ちゃんに我慢ばっかりさせて、謝らせたりして――


「……ごめんね、お兄ちゃん」

「え……?」

「お兄ちゃんに、いっぱい我慢してもらってるのに……こんなことで怒っちゃって」

「亜美ちゃん?」

「い、今すぐはまだあれだけど……でも、少しずつ慣れてくから」

「えっと……?」


 顔中に?マークを浮かべて戸惑っているお兄ちゃんの膝の上に横座りする。

 お兄ちゃんの首に腕を回して抱きつくと、躊躇いがちに腰にお兄ちゃんの腕が回された。


「亜美ちゃん……」

 

 耳元を掠める吐息にゾクリとする。


「……ちょっとエッチな気分になっちゃいそうなんだけど」

「いいよ、少しだけなら……」

「下着見ちゃってゴメンね」

「わざわざ取り出して見ちゃ、ヤダよ」


 お兄ちゃんは「そんなことしないよ」と小さく笑って、正面から私の顔を見つめてきた。


「キス……」

「して?」


 ゆっくりと重なり合う唇。

 最初は触れるだけ。その内に深く優しい口付け。それだけでとろけそうになる。

 お兄ちゃんはキスが上手だ。いつもいつもキスばかりしてるせいか、どんどんキスのスキルが上達しているようにも思う。

 キスだけでも、こんなになっちゃうのに、これ以上のことが自分にできるのか、少し不安になる。

 少しずつ慣らしていけば、本当に大丈夫になるのかな?


「……んっ!」


 お兄ちゃんの唇が頬を伝い、首筋に落ちる。この間みたいに。


「ふっ……ぅ、う」


 触れて、息がかかるだけで、声が漏れちゃう。

 恥ずかしい。でも――嫌じゃない。


 ゆっくりゆっくり。まるで味わうかのように動くお兄ちゃんの唇、舌。

 首筋から鎖骨へ。私の体がピクンと跳ねる。

 無意識に身を捩っても、お兄ちゃんの甘い吐息を感じる。


「……亜美ちゃん」


 熱を帯びたお兄ちゃんの声。

 でも、私のことを考えてくれているのか、しばらく続いた攻撃はやがて波が引くように穏やかなものに変わった。



********



「……大丈夫?」

「……んー」



 首筋への攻撃もキスの攻撃も終わり、ぼうっとした頭のまま、お兄ちゃんの腕の中。

 お兄ちゃんは少し心配そうな顔をしている。


「……やっぱりちょっと恥ずかしい」

「そっか」

「首筋は苦手かも……」

「だったら、もうしないよ」

「え?」

「亜美ちゃんが嫌なことはしたくないし。無理して急ぐこともないしさ」

「で、でも。違うの、お兄ちゃん」


 苦手っていうのはお兄ちゃんが思ってる意味とは違う。

 ただ恥ずかしかっただけで、ただ――


「慣れてないだけで、嫌とかじゃないの……だから、その、き、気持ちよかったよ……」

「亜美ちゃん……」

「……お兄ちゃん」


 お互いに熱っぽい瞳で見詰め合う。

 そのまま、また徐々に近づこうとした顔だったんだけど――


「そ、そういや、まだ休憩時間じゃなかったね」


 急に我に返ったかのようなお兄ちゃん。私は呆気に取られる。


「ほら、亜美ちゃんもまだ問題残ってるじゃん」

「そ、そうだけど」


 問題をするように言われてがっくり。

 なんで急に素に戻っちゃうのかな、と、じと目で見ていると、お兄ちゃんは私から目を逸らしながら「これ以上続けると……止まんなくなりそうだから」と、気恥ずかしそうにぼそぼそと言った。


「え?」

「だから、問題しよう、ね?」

「う、うん」


 ――ごめんね、お兄ちゃん。もう少し、もう少しだけ待っててね。


 心の中でお兄ちゃんにそう謝りながら、私は素直に問題に取り掛かった。

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