お前はいいよな
一週間後。
九条と会った。
俺から呼んだ。
何か話したかった。
何を話したいのかは分からなかった。
「伸びませんね」
九条が言った。
「知ってる」
「でも感想いいですよ」
「二件ね」
「二件を馬鹿にするんですか」
「してない」
「してます」
少しむっとした。
「君には分かんないよ」
まただ。
この言葉。
九条の顔が変わる。
「何がですか」
「出せば売れる人には」
「……そうですね」
「好きなもの書いて、ちゃんと読まれて」
「はい」
「何を書いても評価されて」
「何でもではないです」
「でも俺よりは」
「はい」
否定しない。
それが苛立ちを加速させた。
「お前はいいよな」
口から出た。
最悪だと思った。
でも止まらなかった。
「好きなもの書いて、才能あって、若くて、売れて。俺が半年かけたものより、君が一晩で書いた短編の方が面白い」
九条は何も言わない。
「努力してるって言いたい?」
「言いません」
「じゃあ何」
九条は俺を見る。
「私の方が才能あると思います」
真正面だった。
息が止まる。
慰めない。
謙遜もしない。
「文章も、構成も、たぶん三枝さんより得意です」
「……そうだね」
「売れるものを考えるのも、私の方が上手いと思います」
「そこまで言う?」
「聞いたの三枝さんです」
何も言えない。
九条は続けた。
「でも」
声は静かだった。
「それで三枝さんが書かなくていい理由になります?」
「……なるだろ」
「なんで?」
「勝てないから」
「誰に?」
答えられなかった。
「私に勝つために書いてたんですか」
「違う」
「ランキング一位の人に?」
「違う」
「じゃあ誰に」
分からない。
九条は席を立った。
「今日は帰ります」
「九条」
「今、私が何言っても、天才だから言えるって思うでしょ」
何も言えなかった。
「だから、また今度」
九条は帰った。
俺は一人で残った。
テーブルの上には、ほとんど減っていないコーヒー。
負けた。
何に負けたのか、まだ分からなかった。




