↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

腐った牛肉

作者: 亮介
掲載日:2026/08/16

ここに肉がある。

先日スーパーで購入した少しお高めの牛肉だ。


いつもなら絶対に手を出さない価格帯だが

たまには少し贅沢してみても良いんじゃないかと

ちょっと頑張って買ったのである。


まぁ、閉店間際で30%引きだったというのも

動機としては大きかったのだけれど・・・。


しばらく余韻に浸りたかったので、その日は食わずに

翌日じっくり味わおうと冷蔵庫にしまっておいた。


・・・・それから4日


今、俺はその牛肉のパックを手にしている。

消費期限は購入した日の翌日。

つまり今は期限が切れて3日が経っていることになる。


ここは非常に悩ましい状況だ。

脳内で肯定派と否定派が議論を始める。



否定派「え、何を迷う必要が? ここは捨てる一択だろ」


肯定派「確かに期限は切れている・・・が、まだ3日

    もしかしたらまだ食える可能性は十分にある」


否定派「いや、ねーよ、消費期限だぞ、一日だって過ぎたらダメだろ」


肯定派「なぜそんなに簡単に割り切れるんだ

    この肉を買ってきた経緯を思い出せ!

    毎日頑張っている自分にたまには少しの贅沢を

    と思い奮発した肉なのだ

    ちょっと腐りかけたからと言って

    あっさり捨てることなど出来る筈がない!」


否定派「腐り掛け、じゃなくて多分それもう腐ってるぞ

    それを食おうとしてる時点で既に贅沢ではないだろ・・・

    むしろ貧乏くさいわ!」


肯定派「こんなことになるなら買った翌日に食べておけば・・・・」


否定派「全くその通りだ、貧乏たらしく余韻に浸ろうと1日引き延ばしても

    翌日までは期限内だったんだからそこで食えば問題無かった筈だろ

    なんで翌日に食わなかったんだ」


肯定派「何故か翌日から急に仕事が忙しくなり残業が続いたせいで

    肉どころではなくなってしまったのが原因だ

    夜遅くに帰宅してシャワーを浴びてそのまま寝てしまう日が続き

    いつの間にか肉の存在を忘れてしまっていた」


否定派「そのままあと数日忘れたままでいれば良かったのに

    完全に腐っていれば流石に即諦めがついただろう」


肯定派「そして今日、仕事がひと段落し、久しぶりに早く帰宅出来たので

    ビールでも飲もうかと冷蔵庫を開けたとき、見つけてしまった・・・・」


否定派「あー、見つけちゃったかー」


肯定派「先日俺を最高のテンションへと導いてくれた

    黄金の輝きを放つ発泡スチロールのパックを」


否定派「まぁ、確かにパックはまだピカピカしてるよな、パックは

    でも残念、大事なのはその中身なんだよな」


肯定派「俺はドキドキしながらそのパックを手に取り

    その中にある筈の、少し高級な牛肉の姿を確認した」


否定派「うん、俺も別の意味でドキドキした」


肯定派「!? おかしい! 以前見たときとは肉の姿が全く違う

    艶が無い、それに色が・・・・黒ずんでいる」


否定派「そりゃそうだろうな」


肯定派「何故だ、あの神々しさを感じさせる程のまばゆい赤い色を放っていた

    牛肉の姿は一体どこに・・・・」


否定派「早く食べないからでーす」


肯定派「いや、まだだ、たかが色が少し黒ずんでいるだけだ

    匂いさえまともならまだ大丈夫な筈」


否定派「まさか、開けるのか!? ちゃんと心の準備は出来てるのか?

    覚悟が決まらない内に開けるのは危険だぞ!」



俺は否定派の制止を振り切り、肯定派の期待に報いるべく

パックを包むラップに手を掛けた。


ラップを剝がすと、ここ何年も嗅いだことの無い異臭が

鼻腔に突き刺さる。


げほ! がはっ! おぉぇぇ~っ!


想像を超えた異臭に思わずむせてしまった。


こんな、消費期限をたった3日過ぎただけでこんなになるものなのか?



否定派「だから覚悟が決まらない内は開けるなと言ったんだ

    でもこれで分かったな、流石にもう諦めがついたよな?」


肯定派「いや、まだだ、まだ全ての手を尽くしていない!」


否定派「もう尽くせる手なんか無いよ

    一度腐った肉は蘇らないんだ」


肯定派「いいや、まだとっておきの必殺技が残っている」


否定派「とっておきの・・・ってまさか」


肯定派「そうだ、煮沸消毒だ!

    古今東西、火を通せば何でも食えるの法則があった筈だ」


否定派「いや、ねーよ 煮ても焼いても蒸しても

    一度腐った肉は食えないんだ!」


肯定派「そ、そんな筈はない、煮沸は無敵だ」


否定派「それに過去に一度経験してるはずだぞ」


肯定派「一度経験? ・・・いつ?」


否定派「もう十数年前だ、同じように食べ忘れて腐った鶏肉を

    諦め切れずに煮て食おうとしたことがあっただろう?」


肯定派「あ、確かに、そんなことがあったな

    あの時はどうなったんだ? 食えたのか?

    食えたんだよな?」


否定派「いいや、食えなかった、2時間ほど煮込んだ後

    頑張って一口食べようとしたが

    噛んだ瞬間、口いっぱいに腐敗臭が広がり鼻に抜けて

    思わず吐き出した」


肯定派「なん・・・だと、 それじゃあこの肉も・・・」


否定派「ああ、同じことになるだろう

    しかもこれは牛肉だ、もっと強烈な臭いになるかもしれん」


肯定派「もう、この肉に希望はないのか・・・」


否定派「更に言うと、煮込むことによって生じる蒸気にも

    腐敗臭が混ざり、部屋中がとんでもないことになったぞ」


肯定派「・・・・そうか、良く分かった

    流石にそんなリスクを負う訳にはいかない

    残念だが今回は諦めるとしよう」


否定派「分かってくれたか、じゃあ廃棄するでいいな?」


肯定派「ああ、それで構わん」



脳内議論の結果、この牛肉は廃棄することに決まった。

俺はパックから牛肉を取り出しゴミ袋の中・・・ではなく鍋に放り込んだ。



肯定派・否定派「な、何してるんだ本体!?」



続いて鍋に水を入れ、コンロに火を着けた。

そしてそのまま腐った牛肉を煮込むこと約2時間。


鍋から一欠片の牛肉を取り出し小皿の上に乗せ観察する。

見た目は普通にただの煮込んだ牛肉だ。

では臭いを嗅いでみる。

うーん、若干臭みを感じるが、生のときよりかなり抑えられている。

もしかしたらこれなら食えそうか?


思い切って一口食べてみる・・・次の瞬間、お口に広がる腐敗臭。


おぉぇぇ~っ! やっぱり無理だ!


分かってたけど煮ても無理だった。


部屋は腐敗臭でいっぱいだ。

そうなることも分かっていたのに、何で煮たのか。

もちろんそれで食べられるようになるなどとは最初から思っていなかった。


どうせ廃棄するなら、試しに煮たらどうなるのかを確認したい

ただそれだけだった。

結果は想像通りだ。

腐った肉は煮ても食えない。


しかし俺は今回非常に重要な教訓を得た。


それは ”肉は買ったその日に食え” だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
学生時代に同じようなことをしたのを思い出しました。 買って冷蔵庫に入れておいた牛肉が怪しい臭いをさせていたのですが、もったいなさに「焼いたらワンチャンいけんじゃね?」とフライパンで焼いてみたのです。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。