連鎖する不実(過去編)
たかしさんとの密事から季節は巡り、不実の種は日常の中に深く根を張りました。
初夏の気配を感じる五月。
私の人生の歯車を、たかしさんとは別の方向へ狂わせる「彼」が再び現れます。
親戚の子、ゆう君。
かつて高1の夏に焼き付けられた、あの逃げ場のない熱。
第25日目、連鎖する不実。
一度覚えた背徳の快楽が、新たな影を呼び寄せる序章の記録です。
あの夜。自室のモノトーンの空間を、蕩けるような情欲の色に染め上げた密事から、季節は静かに巡っていった。
たかしさんとの関係は、もはや「隣人」という言葉では括りきれないほど深く、日常の中に根を張っている。
忙しない朝、ベランダで隣り合って燻らす一本の煙草。白く立ち上る紫煙の中に、言葉にできない共犯の熱を閉じ込める。それが、私たちの新しい「日常」になった。
けれど、年度の切り替わりと共に、互いの仕事や家庭の事情が重なり、二人きりで濃密な時間を過ごす機会は、あの日を境に少しずつ減っていった。
(……このまま、少しずつ落ち着いていくのかな)
そんな感傷にも似た予感を抱え、私が初夏の気配を感じ始めていた五月の連休前。
私の人生の歯車を、たかしさんとはまた別の方向へ狂わせる「彼」の名前が、不意に、けれど必然のように響いた。
ゆう。私の親戚にあたる、あの男の子。
彼との記憶を辿れば、私がまだ二十代後半で、今の家よりもずっと広いマンションに一人で住んでいた頃に辿り着く。
当時、親戚のおじさんとお正月にばっぱり会ったとき、誇らしげにこう言われたのが始まりだった。
「今度うちのゆうが、〇〇高校に行くことになってさ。お前の家の、すぐ近くだろ? 住所、あの辺だったよな」
ゆう君の家は、父一人子一人の父子家庭。多感な時期にもかかわらず、彼は部活動に打ち込む傍ら、父親を支えて懸命に家事をこなしているという。
「もし大変なら、たまに遊びにきていいよ。学校帰りとか」
後日、少し逞しくなった彼に直接そう告げた時の私は、あくまで「頼りになる親戚の年上のお姉さん」という立場を演じていただけだった。
けれど、運命という名の深淵は、驚くほど近くで口を開けていた。
彼が高校一年生になった、あの暑い夏。
私たちの間に起きたことは、単なる親愛を超え、禁断の領域へと一気に滑り落ちていった。
幼い面影を残していた彼の瞳に、私を「女」として求める色が灯った瞬間。それは、たかしさんの時とはまた違う、静かで、けれど逃げ場のない熱だった。
それから数年。彼の大学受験が本格化したこと、そして、何より私自身の結婚。
「日常」という名の壁に阻まれ、私たちは互いに距離をおいた。あんなに深く溶け合ったはずの季節は、いつしか、触れてはいけない過去の瘡蓋のようになっていた。
(……でも、彼は今。大学生になった)
大学生になったばかりのゆう君が、今、再び私の生活圏内に現れようとしている。
たかしさんという安定した不実を抱えながら、私はかつて高1の彼に焼き付けられたあの熱が、再び指先から伝わってくるような錯覚を覚えていた。
「連鎖する不実」。その言葉通り、私は一度覚えた背徳の快楽を、別の形で再び手繰り寄せようとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
新たな章の幕開け。
たかしさんとの「安定した不実」の傍らで、過去に焼き付けられた「ゆう君」という熱が再び疼き始めます。
高校生だった彼が、大学生になって再会する予感。
一つの一線を超えたことで、私の人生はさらなる泥濘へと足を踏み入れようとしています。
次回、。嵐の夜の記憶。
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