言いたいことはわかります
短編です
ピリつく空気、泳ぐ視線。私この空気苦手なんだよねぇ。
周囲の人々の顔を見ても、喜怒哀楽の怒のようにしか見えない。そんなピリピリとした険悪なムードなのに、新人君は、鼻高々に自分の自慢を踏まえて、新プロジェクトについて語る。
「ですから、この、僕が見つけた革新的なスタイルをですねっ」
鼻息が荒いのがよくわかる。こいつ、興奮している。
思えば、彼は、入社した時からやる気だけは人一倍だった。新人挨拶の時の「よろしくお願いします」という言葉の前に、どこの高校出身か、から始まる、彼の過去の栄光話が約20分ほど続いていた記憶がある。大学入学編が始まった頃、部長にもうそろそろと声をかけられるまで、彼は話を途切れさせなかった。そろそろと言われた後にも、まだ何か言いたそうに見えた。
その新人君の教育係に任命されたときは、部長を心底恨んだけど、あの恨みは今でも忘れていない。
まぁ、正直入社5年目とは言え、私の手に負える子ではなかったから、部長も早々に見切りをつけて、もっとベテランの教育係をつけてくれたんだけど、それでもこの調子なのだ。いっそ尊敬してしまう。
「ということで、この案で話を進めたいんです!」
新人君が強く机を叩く音が、会議室に響き渡る。キラキラと目を輝かせて皆の顔を見ているのがわかるからなおさら尊敬する。この表情から読み取れないもんかな。
叩かれた机の反響音が小さくなっていくなか、彼の興奮した息遣いだけが会議室に響く。それもそうだ。あまりにも荒唐無稽な案過ぎる。前例もないし、初期費用が掛かりすぎる。どう答えたモノかと考えていると、会議室のドアが開いた。
「やぁ、白熱しているね」
なんと、社長が入ってきた。
「社長!お疲れ様です!」
誰よりも早く新人君が社長に大きな声で挨拶をして頭を下げた。
「やぁやぁ」
新人君への挨拶もそこそこに、社長は我々の顔を見回す。私たちも新人君の後に続いて立ち上がって挨拶をしたけど、社長は軽く手で座っていいよと示してくれた。
この会社の離職率が低い理由がよくわかる。それなのになぜ、このタイプの新人をこの会社に入れたんだろう。人事部の裁量か、社長判断があったのか、それとも役員との知り合いか、なんて噂が流れたけど、結局新人君は何者でもない、ただの暑苦しい男ということしかみんなは知らない。
「このプロジェクト、君が考えたの?」
「はい!僕の案です!」
社長の問いかけに嬉しそうに応える新人君。もはや社長に認められたと認識している様に見えて、ひやひやする。
「ふむ、良くまとまっているね。この資料はどこから抜粋したの?」
「はい、それはM社との取引実績から推測して出したデータなんですが」
「推測か、少し不安定だね」
「あ、はい、でも推測とはいえ、データに則って・・・」
「M社以外のデータは見たのかい?」
「え・・・・あ・・・えっと・・・」
新人君の言葉が尻窄んでいく。そこ、以前私が指摘したはずなのに。結局彼は私の話は聞いていなかったんだな。
「ふむ、もう少しデータの引用元を増やすと、もっと確実なデータになるんじゃないかな」
優しくそう言った社長の顔を見て、しぼんだ新人君の気持ちはすぐ持ち直したように見えた。
「はい!やってみます!ありがとうございます!」
今日一番良い笑顔を見せたのは社長だったように思う。
——言いたいことはわかります——
まぁ、ね。はい。




