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結局キリは散々動物達をモフモフして、店を出たのは夕方になってからだった。

さすがにカグラが心配しているだろうと急いで家に帰ると、意外にも落ち着いた様子で玄関で出迎えられた。


「おかえり。……良かった。元気になったみたいだね」

「ああ。たまたまルナに会って、店に連れてってくれたんだ。休みだったから動物達を触りたい放題だった」

「そう。じゃあ、今度お礼しなきゃね」


フワリと笑うのはいつも通りだが、やはりキリの姿を見てどこかホッとした気持ちが漏れ出ている。心配をかけたんだとキリは申し訳ない気持ちになった。


「ごめんな。わざわざ休みをとってくれたのに」

「いいよ。1人になったほうが気が楽なら。キリの気持ちが一番大事」


トカゲとカグラの都合で家族になった2人だが、トカゲのことを抜きにしても自分に全力の愛を注いでくれるカグラのことがキリは大好きだった。


「1人で家でゆっくりしたい?なら、しばらくどこかに出かけてくるけど」

「いや、今はカグラといたい。それにこんな時間からカグラに外歩かせたらトカゲに怒られるしな」

「……トカゲは過保護過ぎるよ」


ブーと頬を膨らませる姿に笑いながらキリは家に入っていった。




トカゲは今日は帰れないので2人で早めの夕飯を食べて、カグラとキリはリビングでくつろいでいた。


「なあ。カグラ。聞きたいことがあるんだけど……」

「うん。何?」

「トカゲのどこが好きになったんだ?」


それはキリがずっと疑問に思っていたことだった。出会いは最悪だし、自分を軟禁した人間である。好きになる要素は皆無に思えたからだ。


「え?う〜ん。そうだなぁ」


普段はどんな質問でも的確に答えられるカグラだが、感情面になると急にキレが悪くなる。


「簡単に言うと、僕自身を見てくれたからかなぁ」

「カグラ自身?」

「うん。最初は僕の能力とか頭脳に興味を持ったんだろうけど、それを自由に使うところに惹かれたって。僕はそれが嬉しかったんだと思う」


ニコッと幸せそうに笑うカグラに、キリも幸せな気持ちになる。


「……ウタハと話をしてみようかな」

「ウタハと?家に呼ぶ?」

「いや。一応アイツは謹慎中だし、寮に行ってくるよ」

「そう?もう遅いから気をつけて行くんだよ」

「……カグラも大概過保護だぜ」


え〜?そう?と首を傾げる様に笑いながら、キリはウタハに会いに行くためにソファから立ち上がった。




その頃。ウタハはフチが帰るのを玄関で見送っていた。


「今日はすみませんでした。急に押しかけて」

「いや。お前の元気な姿見たら、落ち込んでたのも吹っ飛んだよ」

「本当ですか!なら、付き合ってもらえますか⁉︎」


どうにもせっかちな後輩に苦笑しながら「とりあえず今日は帰りなさい」と諭す。すると、聞き慣れた声が耳に届いた。


「ウタハ?」


声のした方を見るとキリが立っていた。ウタハとフチを見て驚いている。


「キリ?」

「キリさん!体はもう大丈夫なんですか?」


フチがキリに駆け寄って心配そうに聞いてくる。人懐っこくて大きな瞳をしているので、キリは今日撫でた動物達を思い出した。


「お前は…フチだったか?」

「はい!14班で研修中のフチです!」

「……元気があっていいな。俺はもう大丈夫だ。心配してくれてありがとう」


優しく微笑むキリにフチが頬を赤く染める。キラキラと尊敬の眼差しを向けてきた。


「どうかしたか?」

「はっ!いえ…キリさん、とてもお綺麗なので。あ!見た目だけの話じゃないですよ!大人っぽくて優しくて、内面の美しさが出てると言うか…」


ワタワタと一生懸命説明しようとする素直なフチに、キリは好感をもった。だが、それは次の言葉で複雑な感情へと変わっていく。


「こんな素敵な方が近くにいるなら、僕なんてまだまだですよね。ウタハさんに好きになってもらえるように頑張らないと」


フンッと気合を入れるフチをウタハは慌てて止める。


「フチ!」

「あ!すみません!兄弟での話があって来られたんですよね。僕は帰りますので、どうぞごゆっくり!」


そのまま風のようにフチは去って行く。残された2人の間には微妙な空気が流れていた。


「えっと……とりあえず上がってくか?」

「……ああ……」


ギクシャクしたまま2人は家の中へと入っていった。




とりあえずお茶を淹れて2人でリビングで向かい合って座る。先に口を開いたのはキリだった。


「今日、シュカは?」

「ああ。セイのところに泊まるって」

「そうか。なら、フチと2人きりだったんだな」


お茶を吹き出しそうになるウタハ。その慌てっぷりを見てキリの表情が暗く沈む。


「えっと……勘違いしてるかもしんねぇけど、アイツとは……」


言い訳しようにも押し倒されてあわやキスしそうにまでなったことが頭をよぎり、言葉を続けられない。

その態度にキリの心が決まった。


「いいじゃねぇか。フチは素直で可愛いし。お前にはああいう子が合う」

「いや、だから…」

「俺、ルナに告白されたんだ」


ヒュッと、ウタハが息をのむ音が響く。キリは気にせず話を続けた。


「今は冷静な判断ができないだろうからって、返事は待ってもらってるけど。でも、多分付き合うと思う」


薄紫の視線がウタハを射抜く。そこには驚くほど美しい、でも今にも泣きだしそうな笑顔があった。


「だから、俺のことは心配いらない。お前も自分のことを想ってくれるヤツを大切にしろよ」


それ以上はこの空間にいられなくて、キリは逃げるように家を出て行った。

それをウタハは追いかけることもできず、魂の抜けたようにただ座り込んでいるだけだった。




ウタハが家を出てから、相手のことを好きだと気づいたのはキリも同じだった。

過去の傷が原因で学校に行くことも仲間以外と関わることも避けていた自分を変えてくれたウタハ。友人として、兄弟として大切な存在になっていき、知らず知らずのうちにキリは淡い恋心を抱いていたのだ。

でもそれまでの関係を変える勇気は持てず。外に出てどんどん世界を広げていくウタハの邪魔をしたくないという気持ちもあって、キリは想いを隠し続けた。


『……バチが当たったのかな』


家に帰り、自室のベッドに沈み込みながらキリはウタハとのことを思い返す。

数ヶ月前に「キリの髪は綺麗だな」と褒められたのが嬉しくて伸ばしたのに、言った本人はそんなことすっかり忘れていた。だから当てつけのようにウタハが来る時にルナを誘ったのだ。

そんな行いが今の状況を作ってるのだとしたら自業自得だとキリは枕に顔を埋める。


『いいじゃねぇか。ウタハが幸せなら、それで。フチはいい子だし。それに……ルナとならきっと幸せになれる』


恋愛対象としてみてはいなかったが、ルナのことは人としてとても好きだった。ルナの気持ちを利用するようで少し気が引けたが、キリは自分さえ心を決めれば大切に扱ってくれることはわかっていた。


「……疲れたな。何も考えたくない……」


そのまま涙を一粒零すと、キリは眠りへと落ちていった。

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