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電撃訪問から数日。フチが研修として3ヶ月限定で14班へやってきた。


「基本はウタハくんについてもらうけど、みんな色々教えてあげてね」


流されるように相棒にされてしまったウタハは戸惑っているが、他のメンバーは歓迎ムードだ。面倒見のいいホムラがフチに声をかける。


「わからないことがあれば何でも聞きなさい」

「ありがとうございます!」


素直に礼を言うフチの視線がキラキラといつまでも自分に向かってることに、ホムラは少し引いてしまった。


「俺の顔に何かついてるか?」

「はっ!すみません!あまりに綺麗なので何か秘訣があるのかと思って」

「………へ?」


まさかの質問にホムラがフリーズしていると、その手の話題が大好きなシュカがすかさずやってきた。


「それ、僕も気になってたんですよ。結婚してから更に綺麗になりましたよね。どんな努力してるんですか?」

「スタイルもいいですよね。羨ましい」

「努力?どんな?……食事に気をつけて訓練を怠ってはいないが……」

「ちっ。やっぱり天然型か」


まさかのシュカの舌打ちにホムラは傷ついた顔をする。


「フチ君。ホムラさんは参考にならないよ。美容関係で聞きたいことがあれば僕に聞きなさい」

「はい!ありがとうございます!」

「でも君が見た目に固執するタイプだとは意外だね」

「えっと……今はまではどちらかと言うと容姿のことを言われるのはイヤだったんですけど……」


チラリ、とフチの視線がウタハへ向かう。


「可愛い、と言って欲しい人ができたと言いますか……」


その態度でシュカは全てを悟る。とてもいい笑顔になるとフチの肩をガシッと組んだ。


「そうかそうか。それはいいことだ。全て僕に任せとけば心配いらないよ」

「は、はい!よろしくお願いします!」


素直に礼を言うフチと、上機嫌なシュカ。

その横でホムラは何も気づかずまだ傷ついた顔をしていた。




それからウタハの気の休まらない日々が始まった。

仕事中は終始フチが横につき、仕事に関係ないことまで質問攻めにしてくる。寮に戻ればシュカにやたらとフチについて話題をふられる。果ては、実家への帰省だ。


『なんで今回もいんだよ』


前回からきっちり1ヶ月後。ウタハは実家に顔を出していた。しかし、そこには当たり前のようにルナがいる。


「この子が昨日うちに来た子です。可愛いでしょう」

「うわ!ちっさいな!」

「ほんとだ。可愛いねぇ」


仕事場の動物の写真を見せているらしいルナ。キリに加えてカグラまで嬉しそうにスマホを覗き込んでいる。


「ウタハ。こっちを手伝ってくれるかい」


手持ち無沙汰になっていているウタハをトカゲがキッチンへと誘うと、2人は並んで夕飯の支度を始めた。


「ルナ君が来ていて驚いたかい?キリがたまたま帰りに会って、夕飯に誘ったらしいんだよ」


自分が帰ってくる日にわざわざ家に誘う。そのキリの行動の裏が見えなくてウタハの気持ちは落ち込んでいった。


「……この間の件、2人には言ってないけどどうだい?気持ちは落ち着いてるかい?」


フチの毒の件を言ってるのだろう。約束を守ってくれてるトカゲに安心して、ウタハは心の内を話せた。


「ああ。まさか相手が研修でうちの班に来たのは驚いたけど、お互いに謝って気持ちを話せたからスッキリしたよ」

「そうかい。安心したよ。あまり過保護にし過ぎるのもよくないのはわかるんだけど、どうしても心配でね。もう君は大人なのにね」

「……ありがと」


自分の周りにはたくさんの愛してくれる人がいる。それは幸せなことなのだ。ウタハは確かにそう思うのに、ずっと心の底にわだかまりがあって息苦しさが消えなかった。


「そうだ。そろそろスイレンからの捜査協力の件で、君達の班の出番がありそうだよ」

「そうか。トカゲのチームと一緒に働くのも久しぶりだな」

「息子の成長っぷりを楽しみにしてるよ」


楽しそうにウインクしてくるトカゲに「もういい歳なんだからウインクはやめろ」とウタハは苦笑する。そしてまだ写真を見て騒いでいる3人にそろそろテーブルにつくように言いに行った。




トカゲの言う通り、合同作戦は数日後に行われた。

毒の売買が行われている情報のある5ヶ所に同時に潜入するため、人員がそれぞれに班分けされる。


『よりにもよってキリと同じ班か』


しかもキリが売人と接触する役目である。戦力などを考慮しての配置なのだが、心配や気まずさなどがないまぜになってウタハは冷静さを保つのに必死だ。


「本当に能力者だけのチームなんですね」


捜査対象であるバーに客として潜入するための準備中に、フチが感心したように話してきた。


「キリさんは溶解液の出る能力者なんですね。そんな能力、初めて聞きました」

「まあ、珍しい能力だからな」

「公安のベテラン捜査官とご一緒する機会なんてなかなかないですもんね。たくさん学ばせてもらわないと」


フンっと気合いを入れるフチにウタハの肩の力が抜ける。熱意が強いのでこちらが疲れることもあるが、素直でやる気のあるフチはウタハにとって和ませてくれる存在でもあった。


「さあ。俺達は先に店に入っておくぞ。くれぐれも自然にな」

「はい」


客として店に入り、何かあった時に動きやすい席に着く。フチも堂々としたもので、とても捜査官には見えなかった。


『……きた』


売人が店に入ってくる。トカゲの情報ではいつも同じ席に座るこの男に合言葉を言えば店の奥に通され、そこで取引が行われるらしい。

しばらくしてキリが店に入ってきた。


『……まずは第一段階、成功だな』


男に合言葉を耳打ちしたキリが店の奥に消える。その時キリの腰を抱いてやたらと近い距離で移動する男に嫌な空気を感じ取ったが、ウタハはキリにしかけた盗聴器の音声をイヤホンで聞くことに集中した。




店の奥は小さな部屋になっていた。真ん中にテーブルとソファがあるだけのシンプルな空間だ。


「で、噂の薬はどこにあんだ?」

「そうあせんなって。まずは座れよ」


男はキリをソファに座らせると、小さな錠剤が1粒入った袋を出してきた。


「粉タイプとか色々あるけどな。まずはお前が試すようにこれ1つだ」

「……試す?」


男の言葉の真意がわからず、キリは聞き返す。


「まずはお前にこれを飲んでもらう。5分もすれば薬が効いて糸が出せなくなる。これで薬が本物だってわかるだろ」


ニヤリとどこか下卑た笑いを浮かべて男がキリを見下ろした。


「冗談だろ。わざわざ自分から無抵抗になるバカがいるかよ。別に効果の確認なんかいらねぇから、さっさと薬を寄越せよ」

「なら、取引はなしだ」


あっさりと引く男にキリは強くでられない。


「いいか。取引ってのは信頼関係が大切なんだよ。お前が薬のことを警察に漏らさないとも限らない。だから俺たちの前で薬を飲むことでお前は俺達に信用できる人間だと示す。俺達はお前が無抵抗な状態になっても危害を加えないことでそれを返す。それでやっと取引ができるんだ」


男はキリの後ろにまわり肩に手を置いた。耳元に口を近づけて囁く。


「こんな危険な話にのってでも、薬を使いたい相手がいるんだろ?」


『……予想通りだな』


実はここまでは作戦通りだった。

事前にトカゲのチームが薬を買った者の記憶を調べていたため、まずは自分が飲まされることは織り込み済みだ。

他の場所でも一斉に摘発に動いている中で失敗するわけにはいかない。キリは覚悟を決めた。


「わかった」


キリは薬を口に入れると水もなしに飲み込んだ。特に苦味も何もない錠剤に犯罪への有用性を強く感じて、キリはこの行為は人を守るために必要なのだと体の震えを抑える。

それから5分後。男がそろそろ効いてきただろうと言うのでキリは糸を出そうとしてみた。


「……糸が出せない」


不思議な感覚だった。体は何も変化がないのに、糸を出そうとしても出てこないのだ。


「これで薬が本物だってのはわかっただろ」


不思議そうにするキリに、相変わらずのニヤニヤした顔で男が近づいてくる。


「ああ。さあ。これで薬を売ってくれんだろ」

「そうだな。あと1つ済んだらな」


急に男が糸でキリの手脚を拘束してきた。そのままソファに押し倒される。


「何すんだ!」

「俺達のことをバラされたら困るって言っただろ。だから無抵抗になったらちょっとだけ脅しをかけてんだよ」

「信用が必要なんじゃなかったのか」

「必要だぜ。恐怖っていう信用がな」


言い終わると男はキリの腹を殴る。力は加減されているが、ガードもできない無抵抗な状態への攻撃にキリがむせた。


『クソッ!糸が出せないから力も使えない』


「顔は狙わねぇよ。見るからに殴られたってわかると困るからな。それに……」


男がキリのシャツを捲し上げる。アザができた色素の薄い肌が剥き出しなった。


「綺麗な顔に傷つけたらもったいねぇもんな。いつもなら1発殴って終わりだが、今日は当たりだな。楽しませてくれよ」


男がキリの体を舐めるように見る。その視線に、息遣いに、キリは恐怖で動くこともできず涙を流した。


「……ぃや……」


か細い声が発せられるのと同時に、部屋の扉が勢いよく開けられる大きな音が響いた。

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