35
何やら盛大な勘違いが発生している。
「……えっと、人違いです」
なぜ弟子と自分が間違えられているのか全くわからなくて、カグラはスンとなって敬語で答えた。
「嘘つくな!あの時、受付の人が言ってたんだ!能力の専門家を呼ぶって!能力で受けたダメージを治癒したりできる凄い人だって!電話でスイレンって呼んでた!」
ゼロに叫ばれてもカグラはカグラである。どう考えてもカグラのことを話しているのに、なぜ名前だけ違うのか。その謎を解こうとするカグラの頭にある記憶が蘇った。
「もしかして!君、電子レンジ君⁉︎」
「でん……何?」
今度はゼロのほうが頭にハテナマークを浮かべる。カグラは興奮したように捲し立てた。
「能力者のことが公表されてすぐ、うちに来たでしょ!自分の周りで機械が誤作動を起こすって!自分は能力者なのか知りたいって!受付の子が電子レンジがどうとか要領を得ないことばっかり言ってたから覚えてるよ!」
どうやらカグラの記憶は正解だったらしい。ゼロの顔が再び険しい表情に変わる。
「でも話を聞こうとしたら、もう帰ったって言われちゃって。心配だから探そうとしたのに受付のカメラもなぜか君のいた間だけ映像が残ってないし。そうか。君がそうだったのか。受付の子がスイレン君に繋いだから勘違いしたんだね」
ホッとしたように胸を撫で下ろすカグラに対して、ゼロは全く怒りがおさまっていない。謎が解けて警戒が緩んでしまっているカグラをそっと庇うようにセキトが前に立った。
「……勘違いじゃないかって言われたんだよ」
「勘違い?」
「普通に生活してるのに時々僕の周りでだけ機械がおかしくなるから、怖くて、不安で。能力者だってわかれば助けてもらえると思って行ったのに。その受付のヤツは勘違いじゃないかって。能力の専門家の人はすごく忙しいから、勘違いで振り回されたら困るって言われたんだ!」
悲痛な叫びだった。周りにも自分でも理解できない現象に悩まされて、縋った先で突き放された。
だが、その叫びに本人よりも怒りを爆発させたのはカグラだった。
「……そんなこと言われたの?」
「そうだよ!だから帰ったんだ!こんな所に僕を救ってくれる人はいないって!」
ゼロが金属の箱を出してくる。セキトが構えようとするが、それを止めてカグラがゼロに近づいていった。
「な…なんだよ」
憤怒の表情で向かってくるカグラにゼロは迫力負けする。金属の箱を持ったまま動けずにいると、目の前までカグラが来た。
「ごめんなさい」
ゼロの前でピタリと止まると、カグラは真半分に折れて頭を下げた。
「………」
「勇気を出して助けを求めてくれたのに、そんなこと言われたら傷つくよね。受付の子はまだ新人で能力者について理解してなかった。きちんと教育してなかった僕の責任だ。……だから、ごめんなさい」
頭をあげ、真摯にゼロの受けた傷に向き合おうとするカグラにゼロは言葉が出てこない。
「君の力は能力者の中でも稀なものだ。ここまで使いこなすのに相当の努力が必要だっただろう。……たくさんの恐怖とも闘ったはずだ」
それはゼロが欲しかった言葉だった。力を認めてもらって、大変だったねと気づいてもらう。ゼロから撒き散らされる怒りは自然と消えていた。
「君のしてしまったことに関しては相応の償いは必要だろうけど、僕にも原因がある。できる限り君を支えるよ。……能力についても、僕の患者としてしっかりサポートする」
その言葉を聞いてゼロの体から力が抜ける。そのまま床に膝をついた。
「もう……いいの?1人で頑張らなくて。怒りを抱えなくて。苦しまなくていいの?」
「うん。ごめんね。今まで辛かったよね。まずは話を聞かせてよ。君のことを教えて」
子供のように泣くゼロの頭をヨシヨシとカグラが撫でる。セキトはカグラの温かい粒子がゼロを包むのを感じていた。
モガも目のことを言い当てられて混乱していた。
「私以外にもいるの?光の粒が見える人が……」
「いるよ!俺以外にもいる!」
自分だけではなかった。その事実がモガの心を一気に開かせた。
「良かった……私だけじゃなかった……」
「自分だけだと思ってたんだね。怖かったよね」
「……子供の頃から光の粒が飛ばせたんです。他の人には見えなくて。下手に人に当たるとその人が倒れちゃったりおかしくなるし。医学部に進んでそんな症例がないかまで調べたのに全然見つからなくて……怖かった」
ようやく話をできる人が見つかった。その安心感はモガから恐怖を忘れさせた。
だが、スイレンはモガの話を聞いて急に身を乗り出してきた。
「待って!君は昔から粒子が操れたの?それは記憶を消そうとか、何か意思を持って?」
「え?違います。光の粒を思ったほうに動かせるだけです。人の体に入っちゃうと変なことが起きるから、あまりしてなかったけど」
「………」
モガの答えを聞いてスイレンが考え込む。ホムラがどうしたのか声をかけようとすると、ガバッとモガの肩を掴んだ。
「モガ君!君の能力は、多分粒子そのものを動かす能力だ。俺みたいにバッと飛ばすのとは違う、繊細な動きができる」
「えっ、はい、そうなんですか?」
「……君、うちで働く気ない?」
モガとホムラが目を丸くしてかたまる。先に復活したのはホムラだった。
「スイレン!何言ってるんだ!」
「だってホムラさん!こんなチャンス2度と来ないですよ⁉︎」
ホムラに言葉を返したかと思えば再びモガに向き直り、スイレンは鬼気迫る勢いで勧誘を始めた。
「能力者が公に認められてから、対処しないといけないことは増える一方なのにカグラさんは1人だけ。俺でできることはやってるけど、いつカグラさんが倒れるか冷や冷やの毎日なんだ。でも君なら変えられる!目があって粒子を操れて医学部まで出てる!カグラさんと同じとは言わなくても、必ず力になれるはずだ!」
「だからって何も捕まえにきた相手を勧誘しなくても」
「使えるもんは何でも使います!」
すっかり役人に染まってしまったパートナーに、ホムラは呆れを通り越して諦めの感情が芽生えてきた。
「さあ。そうと決まればセキトさんとシバさんに司法取引の手配をお願いに行きますよ!」
「えっ?えっ?え〜⁉︎」
スイレンに手を引かれ訳のわからないままモガは連れ去られていく。それを完全に諦めモードに入ったホムラが追いかけた。
それぞれに対話が繰り広げられている一方、中庭では激しい戦闘が繰り広げられていた。
「凄い!こんなに全力で戦えるの初めてだ!楽しい!」
あちこち飛び跳ねながらジルバは楽しそうに攻撃を加えてくる。対するキトラもフチもどこか楽しそうだ。
「そうだなぁ。お前、強いじゃないか。こんだけやり合えるヤツはなかなかいないから楽しいぜ」
「僕もいい鍛錬になって嬉しいです!」
まるで訓練場にいるかのようなノリである。ただ怪力3人組によって中庭は見るも無惨な景色へと変貌していた。
「あ〜。楽しかった。すっかり俺の願い叶っちゃったよ」
散々暴れて満足した3人は並んで寝転んでいる。完全に敵対していたことなど忘れていた。
「ジルバ君の願いって何?」
「そうだ。教えろよ」
「え〜。ん〜。まあいっか。教えても」
ヨッとかけ声を上げて元気よく立ち上がるジルバ。そのまま太陽へ向けて伸びをするとキトラ達へ振り返った。
「俺の望みは、思いっきり力を使うこと!力を認めてもらうこと!」
「力を使うこと?」
「認めてもらうこと?」
「そう!」
ニカッと笑うとジルバは自身の過去を語りだした。
「ほら。腕付きって弱いとか役に立たないって思われてるだろ。でも俺は昔から力が強くてさ。体も丈夫だし、全然腕付きらしくなくて。だから俺が思いっきり力を使うとみんな俺のこと否定してくんだよ。腕付きのくせにおかしいだろって」
ジルバは明るく話しているが、それは辛い過去のはずだ。持って生まれた自分という存在を全て否定されてきたのだから。
「俺の願いは自由に力を使える場所を持つこと。誰にも力を否定されないこと。今、ここではそれが叶ってる」
「……ダイナの仲間になったのもそれが理由か?」
「うん!ダイナさんは言ってくれたんだ。お前の欲望に素直なところが気に入ったって。好きなだけ願いを叶えられる場所を用意してやるって。ゼロもモガもそんな感じで仲間になったんじゃないかな〜」
「そうか」
眩しいほどの笑顔を見せるジルバに、その願いを叶えるために犯罪に手を貸すしかなかったことがキトラ達には悔しくてしかたない。
「でも、こんな風に俺を理解してくれる人がいてくれたら、違う道もあったのかな」
ふと見せた寂しそうな顔に、ジルバを救う道が見えた気がした。キトラはフチに合図する。フチも強く頷いた。
「なら、今日はその願いを思いっきり叶えてやるよ」
「ほんと⁉︎」
「ああ。まずは基本の体の使い方からだな。力任せで見てらんねぇよ。なあ、フチ」
「はい!僕もきっとこんなんだったんですね。鍛え甲斐がありそうです」
「え?なに言っ……」
ドコン!とキトラの糸が地面を抉る。その迫力にジルバはキトラが全然本気を出してなかったことに気づいた。
「さあ。お前は俺に糸を何本使わせてくれるんだ?」
キトラもフチも笑顔を浮かべているのに、ジルバは恐怖を感じる。そのまま圧倒的な力を持った糸がジルバに襲いかかった。




