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「これは宣戦布告……かな」
セキトが怪訝な顔をしながら護衛チームにある場所の写真を見せている。
トカゲがセキトと同じような表情でみんなに状況を説明した。
「公安がマークしていた人物達が立て続けにこの建物で目撃されている。さらには今まで姿を現さなかった欲望を増幅させる能力者まで目撃された。ここまであからさまだと警察に捕まえに来いと言ってるようにしか見えないのだが」
「ならもう突入するしかねぇだろ。これ以上探っても情報は出てこねぇだろうし」
キトラは乗り込む気満々である。相手がここまで情報をコントロールしてきたことを考えてもそうするしかないのは全員わかっていた。弟の言葉にセキトは作戦の説明を始める。
「……護衛チームに、カグラと、今回はスイレン君にも手を貸してもらおう。能力者相手なら目を持つ者は何人いても足りないくらいだ」
スイレンから今回の件に協力したいという意思を聞いていたため、ホムラは嬉しそうな顔をする。
「突入方法やチーム分けについてはこれから考える。護衛として公安にも何人か残ってもらわないといけないか。当日はルナ君もこちらに来てもらわないとな。とりあえず作戦まではみんな護衛と訓練を続けてくれ」
セキトの言葉で解散となり、みんな持ち場へ戻っていく。その中でキリがセキトに何かを相談に行くのにウタハは気づいた。
その夜。セキトと何を話したのか気になり、ウタハはキリに聞いてみた。
「俺は今回、護衛班に入る」
「えっ⁉︎」
あれほどダイナ達を憎んでいたのに、キリが直接対峙する場ではなく護衛の任につくことにウタハは驚いた。
「それは……セキトの考えで?」
「いや。俺が頼んだ。今回の護衛班はうちのチームで固めるからそのほうがいいだろうってセキトも納得してくれた」
「……なんで?」
「守ることで犯人に一矢報いたい」
清廉とした美しさがそこにはあった。
「公安は犯人を捕まえたり犯罪を阻止したりが仕事だから、守るって考えは持ったことがなかったんだ。でも、今回は違う。アイツらに傷つけられたルナやヨル達を守ることで、罪のない人達を傷つけることは絶対許さないってことを突きつけてやりたい」
『……また届かない』
キリはいつでもやるべきことがわかっている。真っ直ぐに進んでいく。ウタハが見ているのはいつだって背中ばかりだ。
「……俺は……」
「お前はきちんと犯人と対峙してこい」
追いかけるばかりだった背中が振り返った気がした。見えた顔はウタハへ全力の信頼を向けている。
「いつだって傷つけられた人達のことを考えてきたお前だから。今回はお前が犯人を止めろ。……大丈夫。俺はお前を信じてる」
信じてもらえる嬉しさを、ウタハは思い出す。まだ幼かった自分を信じてくれた人達を。
「ああ。俺は裏切らない」
「うん。それでいい」
たくさんの人達がくれた思いを抱えて進みたい。自分の中の目を逸らしたい闇も一緒に。それがダイナに対抗できる唯一の手段だと、ウタハは無意識に理解していた。
そして敵の示してきた建物への突入の日を迎えた。
突入に参加するメンバーはそれぞれ作戦を確認して公安を出発しようとしていた。
「フチ君!」
「ルナさん?」
護衛のためにこちらに来ていたルナがフチを見つけて駆け寄る。
「フチ君は突入班なんだね」
「はい。ルナさんをお守りしたかったですが、護衛班のみなさんもとても優秀な方ばかりなので安心してください。必ず今回の事件を解決してルナさんを日常に戻しますから」
「……そしたら……」
もう一緒に住むことも会うことも無くなるのかと聞きたくて言葉にならない。戦場に向かうフチの心を乱したくなかった。
「?どうしました?」
「いや、気をつけて。無事に帰ってきてくれ」
「はい!みなさんの足を引っ張らないように頑張ってきます!」
明るく言い切るフチにルナは胸が痛くなる。帰ってきたら必ず想いを伝えようと、自分より遥かに小さな後ろ姿を見送った。
その近くではヨル達がウタハを見送っている。いつもと違う雰囲気に不安になっているララの頭をウタハが撫でた。
「これから俺達が悪いヤツを捕まえてくるからな。そしたらララは家に帰れるぞ」
「……あのお家にいちゃダメ?」
すっかり共同生活に慣れたララは、別れを感じて寂しくなっている。
「はは。ララがいたけりゃいつまででもいていいぜ。でも、元の家に帰れる選択肢も用意してやりたいんだ。大人が子供にしてやれるのは、自由に自分で決められる選択肢を用意してやることだけだから」
しゃがんでララに視線を合わせた瞳はとても温かい色をしていた。ウタハの言葉の全ては理解できなくても、ララはその愛をしっかりと受け取った。
「おでかけもできるようになる?ぼく、ウタハとみんなと動物園行きたい!」
「よし!これが終わったらみんなで行くか!だから今日はお利口に留守番できるな?」
「うん!お留守番する!」
満面の笑顔に満足してウタハは立ち上がる。目線で感謝と無事への祈りを伝えるヨルとハナに頷くと、突入班の集合場所へ向かった。
途中で護衛の任務につくキリとすれ違う。
2人は言葉を交わすこともなく、軽く拳を合わせるとそれぞれの場所へと歩いて行った。




