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リファの影を追う日々の中、ゼンが公安へとやってきた。


「うちの管轄の警官で立て続けに逮捕される者が出てる。その全員が、急に欲望を抑えきれなくなって犯行に及んだと話しています」


ゼンの話では窃盗や暴行など、普段の鬱憤や我慢していた気持ちが抑え切れなくなって凶行に走る警察官が何人も逮捕されているということだ。


「ミソラさんが対応に走り回ってくれてるが、これが続けば警察不審に繋がる。その隙をついた犯罪も増えてくるでしょう」

「十中八九、リファ達の仕業だろうな」


話を聞いたセキトはダイナの犯行だと結論づけた。


「今まで闇に紛れていたのに急に表に出てきたな。何が目的なのか」

「だが、派手に動けばそれだけ証拠が残る。すぐにその警官達から情報を取ってきます」


トカゲはウツギ達を連れて急いで警官達の元へ向かう。事態は少しずつ大きな渦へと変化していた。




それから数週間後。フチはルナの働く店の控え室で、3段の重箱を広げてお昼の休憩をとっていた。


「おいし〜。ルナさんは料理がお上手ですね。これだけの量を作るのは大変なのに全部おいしいです!」

「私は兄弟が多かったから量を作るのは慣れてるんだ。良ければ護衛してもらってる間はお弁当を作るよ」

「いいんですか⁉︎嬉しいです!」


フチは筋肉量が多いせいか尋常じゃない量を食べる。そのため自炊するにしても大変だろうと見かねたルナが食事の用意を申し出たのだ。


『護衛が終わっても作ってあげたいけど……そんなこと恥ずかしくて言えない』


ルナはすっかりフチのことが好きになっているのだが、心変わりが早過ぎると呆れられないかなど色々考えてしまって伝えられないでいる。かたやフチも想いに応えてもらおうとは思っていないので、この2人は全く関係が進展していなかった。


「でもお店の手伝いまでしてくれなくてもいいのに。フチ君は接客も上手だし力仕事も頼めるから助かるけど」

「護衛なら店の外にいるより店内にいたほうがいいですから。それにルナさんとずっと一緒にいれて嬉しいです!」


シレッと歯の浮くセリフを言われてルナが照れる。それに気づかずフチはペロリと重箱を空にしてしまった。

その後は休憩時間が終わるまで楽しくお喋りをして仕事に戻ったのだが、そこに店長の女性が心配そうに話しかけてきた。


「ルナ君。少し話をしてもいいかしら」


そう言って店長が見せてきたスマホには能力者による傷害事件のニュースがのっていた。


「……また能力者の事件があったんですね」


警官達の事件に続いて、最近は能力者による事件が立て続けに起こっていた。能力者による犯罪は発覚も立件も難しく、法の整備も遅れているため1件でも起これば世間の不安を必要以上に煽る。それが何件もとなれば世の中の能力者に向ける目は厳しいものになっていくだろう。

ルナは能力のことを隠さず働いているので、能力者を排斥したい人が店に営業妨害をしにくるかもしれない。だからしばらく休むようにでも言われるのだろうかと覚悟を決めた……のだが。


「あのね。こんな状況だから不安だとは思うけど、私達もできるだけルナ君のことを守るから……お店を休んだり辞めたりはしないでほしいの」

「……はい?」


思っていたこととは真逆のことを言われ、ルナが目を点にしている。


「え?てっきりしばらく休めと言われるのかと…」

「えー!そんなこと言わないわよ!ルナ君は大切なうちの仲間なんだから!」


周りの店員達もみんなルナのほうを見て強く頷いている。

最近のゴタゴタですっかり涙腺の緩くなったルナの目には涙が浮かんできた。


「ちょっと、ルナ君泣かないでよ。ほら、お店の子達がみんな心配するわ」

「すみません。嬉しくて」


慌てて涙を拭うルナを店員みんなで温かく見守る。フチはその光景を嬉しそうに見ていた。




警官の事件。能力者の事件。世間を混乱させようと次々と事件が起こされる中で警察は対応に追われていた。だが、トカゲの言った通り派手に動けば証拠が残る。公安は能力者の起こした事件について何件か不審な物をピックアップしてきた。


「この2人はヨル君を襲撃しようとしてた人物だな」


セキトが出してきた2枚の写真にジルバとモガが写っている。ジルバは建物を破壊した事件で、モガは街中で急に何人もの人が意識を失った事件で、それぞれ防犯カメラに映っていたものだ。


「それと、これはリファか。あと1人は記録にないな」


リファには再び詐欺容疑がかかっている。もう1人、ゼロは信号などの交通に関する機器が何メートルにもわたって動かなくなった事件で容疑がかけられていた。


「肝心の欲望を増幅させる人物だけが影も形もないが、仲間だと思われる者達は絞れてきた。そろそろ護衛チームに活躍してもらうことになりそうかな」

「任せてください。みんなまだかまだかと出番を待ち侘びてますよ」


コハクがドンと胸を叩く。

今まで数々の犯罪と闘ってきた彼の言葉は何よりも心強かった。




アジトの屋上でダイナは夜空を見上げている。心がからっぽになったようなその姿に、心配そうにリファが寄り添い腕を組んだ。


「なんだ?どうした?」

「いえ。月が綺麗なので」


なんだそれはと笑うダイナにリファは切なげな表情を見せる。だが気持ちを切り替えると冷徹な部下の仮面をかぶった。


「着実に混乱は広がってますね。満足いただけてますか?」

「ああ。実に気持ちがいい。疑い深くて異なる者を拒絶する。助けてくれと縋るくせに都合が悪くなると恩も忘れて非難する。自分が楽すること、気持ちよくなることしか考えない自分勝手な欲望の塊。それが全て剥き出しになってる。こんなに愉快なことはないだろ」


人類全てを嘲笑うかのようなダイナにリファは微笑む。だが次の瞬間、俯き呟くようにダイナに問いかけた。


「私の望みも引き摺り出したくはないですか?」

「お前は俺が何もしなくても自由に生きてるだろ。そこが気に入って仲間にしたんだ。他の奴らもそうだ。俺は取り繕って偽善を振りかざす奴が嫌いだからな」

「……そうですね」


晴れない顔をしているリファに何を勘違いしたのか、ダイナはとんでもない提案をしてきた。


「なんだ、その情けない面は。お前らしくもない。あちこちでいろんな奴が好き勝手暴れてるのに、思いっきり暴れられなくて不満か?なら、いっそ警察相手に派手に暴れてみるか」

「え?」


そんなことをリファは少しも望んでいないのに、ダイナは自分の思いつきが気に入ったようで上機嫌で建物の中へと戻っていく。

その後ろ姿を見ながら、嫌な予感の中でリファはある覚悟を決めた。

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