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合同捜査はスイレンの言う通りすぐ動くものではないらしく、たまにコハクがトカゲから進捗を聞くだけで穏やかな日々が続いていた。

そんなある日、シエンが14班にやってきた。新人を紹介に来たということで、シエンの後ろに濃いピンクの髪が見えている。


「フチです。よろしくお願いします」


クリクリとした大きな瞳に標準より小さな背。高校生くらいにしか見えない愛らしい見た目の青年が敬礼をしている。


「コハクです。よろしくね」

「あなたが!シエン班長から話は聞いてます!腕付きの捜査官の可能性を広げた凄い方だって!」


髪と同じ濃いピンクの瞳がキラキラと輝いている。大袈裟に褒められてコハクは気恥ずかしそうにしていた。


「シエンくん。褒めすぎ。俺は班のみんなから班長とすら呼んでもらえない程度の人間だよ」

「コハクさん気にしてたんですね。すみません。呼び方を変えるタイミングを逸してしまって」

「僕はホムラさんにつられちゃいました」

「俺はさん付けすら苦労した」

「お前達……もう少しコハクさんを敬えよ」


呆れるシエンにも14班メンバーはマイペースだ。その1人1人をフチはジッと見つめていく。


「あなたがホムラさんですね!シエンさんがいつも褒めています!あいつを前線に出しとけば猛獣を解き放ってる様なもんだから何も心配ないって」

「シエンさん。そんな風に思ってたんですね」


フチに握られた手をブンブンと上下に振られながら、ホムラが冷たい視線をシエンに向ける。向けられたほうは「いや…その…」とうまく言い訳できず口篭っていた。


「そしてあなたがシュカさんですね!銃の扱いの筋がいいとシエンさんに期待されてて羨ましいです!」

「おやおや。素直な新人さんだね。困ったことがあれば何でも言うんだよ」


おだてに弱いシュカはすっかり上機嫌になっている。


「それと……あなたは……?」

「俺はウタハだ。シュカと同期。腕付きじゃないけど毒の霧を出す能力者だ。麻痺する程度だけど戦闘の時はあまり近づくなよ」


毒の霧のことは驚かれたり怖がられたりすることが多いのでできるだけ明るく、でも注意は怠らせないように説明するウタハ。だが、フチは微妙な顔をした。


「え?腕付きじゃないんですか?」


てっきり毒の霧のことに反応されると思っていたのに、腕付きでないことにひっかかられてウタハはどう返していいかわからない。


「ああ。うちのチームは腕付きしかいないからな。コハクさんのところは能力者の対応もするから、ウタハ君のような能力者もいるんだよ」

「そうなんですか……」


説明されてもまるで納得がいかないようで、フチはウタハと中途半端な距離から動こうとしない。


「えっと、フチくんはうちの署に来るの初めてでしょ。案内してあげるよ。シエンくんは久々にみんなと会ったんだからゆっくり世間話でもしておいて」


気をつかってコハクがフチを部屋から連れ出す。するとシエンが申し訳なさそうにウタハに謝ってきた。


「フチがすまないな。まさかあんな反応をするとは思わなくて」

「随分と排他的な子ですね」


先ほどまでの上機嫌はどこへやら。シュカはウタハへの態度に随分とご立腹だ。


「そうだな。そこまでとは思ってなかったんだが……」


少し思案しながら話していたシエンだが、意を決したようにフチについて語りだした。


「いずれわかることだろうし言っておくか。本人には聞いたことは言わないでくれ。フチは子供の頃に腕付きを狙う犯罪者に誘拐されたことがある」


驚きつつも、そういった事件を山ほど見てきた面々はすんなり受け入れて先を促す。


「幸い売られたり危害を加えられる前に助け出されたが、それがきっかけで捜査官を目指す様になったようだ。だからなのか、腕付きの捜査官が腕付きを狙う犯罪者を捕まえるということを重要視する傾向があって。腕付き以外を毛嫌いするところもあるしな」

「それ、捜査官として大丈夫なんですか?」


シュカの冷たい指摘にシエンは困ったように笑う。


「普段は仕事に関してはきちんとしているんだ。あからさまに態度に出すこともない。そもそもアイツを救ったのは普通の捜査官だしな。だが、14班には強い憧れがあったみたいだな。そこに腕付きでない捜査官がいたことで夢破れたみたいになったんだろう。でもあの態度はないからな。きちんと注意しておく。すまなかったな、ウタハ」

「いえ。事情が事情ですから。でも、シエンさんも苦労しますね」

「はは。ありがとう。まあ、捜査官なんてクセの強い人間の集まりだからな。覚悟の上だ。それに苦労は昔からだから慣れてる」


チラリとシエンがホムラを見ると、バツの悪そうな顔で言い返された。


「いつまでも昔のことを言わないでください。俺も大人になりました」

「そうだな。今やパートナーのいる身だもんな。そういえば、俺からの結婚祝いは使ってくれてるのか?」


急にホムラの顔が真っ赤になる。その様子にすかさずシュカが「結婚祝いって何なんですか⁉︎」と嬉しそうに話にのっていく。

そんな騒がしい空気に、少し落ち込みかけたウタハも楽しそうに笑い声を上げていた。




月一で帰れというキリとの約束を無碍にはできず、ウタハは前回の訪問からきっちり1ヶ月後に実家を訪れていた。休みの日の夕飯だけという約束で家に行くと、みんな仕事を終わらせて顔を揃えていた。

だけでなく、見知らぬ顔まであった。


「ウタハ、おかえり〜」


トカゲに玄関で迎えられ、リビングまで行くとカグラに抱きつかれた。それはいつものことなのでされるがままにしながら、知らない青年がキリと共にソファにいることにウタハは首を傾げる。


「ただいま。客が来てたのか?」

「うん。ルナ君。能力の使いすぎで診察して欲しいって連絡が来たんだけど、僕はもう帰る時間だったから家に来てもらったんだよ」

「え?お前、まさか俺が来るからって無理やり仕事終わらせたんじゃ」

「だってウタハに会いたかったんだもん」


ブーと膨らませる頬を掴んで「だからって人様に迷惑をかけるな」と叱る。


「らってるなふんがひひって」

「私が構わないって言ったんですよ。カグラさんの家は自宅から近いですし、何度も来てますから」


穏やかな笑みを浮かべてルナが近づいてくる。自然豊かな森の様な、深い緑の髪と瞳が相手に安心感を与える。だが近くまで来るとウタハは少し威圧感を感じた。


『……デカいな。俺も背は高いほうなのに』


ルナの身長は190はあるだろうか。細身なので圧力はそれほど感じさせないのだが、見上げるというあまりない体験にウタハは思わずカグラの頬を掴んでいた手を離してしまった。


「ウタハさんですよね。はじめまして。ルナといいます。動物と話ができる能力者です」

「え?凄いな。モフりたい放題じゃん」


素直な感想を口にしたウタハにルナはフフッと笑みをこぼす。


「そうですね。ペットショップで働いてますが可愛い子達に毎日癒されてますよ」


その大人な対応に、ウタハは自分が子供っぽい発言をしたことに気づいた。


「いや、あの、なんていうか」

「キリ。ウタハさんは素直で気持ちのいい人じゃないか。君はいつも文句ばかり言ってるけど」


キリのほうを振り返りルナがイタズラっぽく笑いかけると、キリは真っ赤になって駆け寄ってきた。


「ちょ、ルナ!」

「君が私の能力を聞いた時は、ウサギと話したいと言ってたね。可愛い小動物が好きだものね」

「い!言うなよ!恥ずかしいだろ!」


必死にルナの口を塞ごうとするが、平均身長のキリでは腕を掴まれてからかわれるだけだ。そうやって楽しそうに2人の世界に入る姿にウタハは愕然とする。


『え?何、その雰囲気。まさか……』


しばらく会わないうちにキリにこんなに親しい人物ができていたことにウタハは焦る。

それにキリ達は気づかず、カグラは急に黙ったウタハに不思議そうにしていた。


「夕飯の用意ができたよ。ルナ君も食べていくといい」

「ありがとうございます。いただきます」


トカゲの声かけにごく自然と家族の夕飯に加わるルナ。その光景にウタハは更に不安を掻き立てられた。




食事中もキリはルナと楽しそうに会話し、カグラとトカゲはそれを嬉しそうに眺めている。少し前までルナの位置には自分がいたはずなのにとウタハは戸惑いしかなかった。


「今日はごちそうさまでした。いつもすみません」

「せっかく近くに住んでんだから、いつでも来いよ」

「そうだね。今度はキリのためにウサギを連れてこようかな」


キャッキャとまだ楽しそうに会話する2人にウタハは絶望の表情を浮かべている。それを見てトカゲが隣にやって来た。


「ルナ君は時々カグラの診察を受けていたらしいんだけど、数ヶ月前にどうしても都合がつかなくて家に来てもらったことがあったんだよ。そしたらキリと意気投合して時々遊びに来てるんだ。とてもいい子だよ」


ニヤリと笑うトカゲはウタハの気持ちをお見通しだった。


「私はルナ君のことは気に入っているが、キリにはウタハのほうがあってると思うんだよね。……友人としてね」


含みのある言い方にウタハはイラッとしてトカゲを睨む。


「大切な者は必死に掴まないと簡単に逃げていくよ。私とカグラを見習いなさい」


そのままトカゲはキリ達のもとへ歩いていく。入れ替わるようにカグラがやってきた。


「ウタハ。今日は帰ってきてくれてありがとう」

「別に。ずっと顔出してなくて悪かったな」

「忙しいなら仕方ないよ。コハク君から元気にしてることは聞いてるから大丈夫」


トカゲと違いカグラはウタハの気持ちにもキリ達との関係にも気づいていない。純粋にウタハを心配している。


「……できるだけ帰ってくるようにするよ。介護するって約束だしな」


昔の約束を出されてカグラがフワリと笑う。子供の頃から大好きなその笑顔が嬉しいはずなのに、うまくいかないことばかりの状況がズキリと心に痛みを残した。

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