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ヨル達の荷物の片付けも終わり、人数的にはやや手狭になったリビングにウタハ達は集まっていた。
「必要な物は揃ったかい?足りないものがあれば何でも用意するよ」
部屋割りのことは納得してないが元来面倒見のいいトカゲは、ヨル達にあれやこれやと世話を焼いている。
「大丈夫ですよ。色々と用意してくださりありがとうございます」
「荷物がいっぱいだったら隣のコハク君達の家に置いてもいいと言っていたからね」
「はい。ありがとうございます。あの……」
ヨルがララを呼び寄せる。ハナと3人並ぶと丁寧に頭を下げた。
「この度は我々のために尽力いただき、誠に感謝いたします」
強い感謝に少しの申し訳なさを含んで、ヨルはウタハ達に思いを伝える。
「そんなに畏まらなくていいさ。久々にうちの子の我儘が聞けて嬉しかった」
「そうだよ。最近いい子過ぎて面白くなかったから、楽しかったよ」
親達のあけすけな反応にヨル達は戸惑う。かたわらではウタハが釈然としない顔で文句を言っていた。
それを見てララが楽しそうに笑う。
「ウタハさん達、仲良しだね〜」
ニコニコとその笑顔は大人達の心を癒す。そうですねとハナに撫でられて、ララは幸せそうだった。
その後はアギが夕飯を作りに来てくれ、コハクやセキトもやってきて賑やかな食卓を囲むことになった。
食事をしながら、セキトを見て思い出した質問をウタハが口にする。
「セキトはなんでヨル達を保護した時に公安に帰ってこなかったんだ?」
トカゲと共に男達の襲撃を阻止したあと、セキトだけがなぜか公安に帰ってこなかった。
「ん?ああ。ちょっと行くところがあってね。まあ、明日わかるさ」
楽しげにするセキトの視線の先にはコハクがいる。こちらもなぜか上機嫌だ。
ふ〜んと言いながら、これ以上は聞いても無駄だろうとウタハは話題を終わらせた。
『……俺にはこの後の方が問題だしな』
ウタハはウタハでチラリとキリに視線を送る。
ヨル達が来るのにあわせたので、ウタハがこの家に住むのも今日からである。つまりキリと同じ部屋で寝るのも今日からである。
『……布団は運んだけどさ。……あの部屋いい匂いがしたな』
今まではあまり気にしていなかったが、いざ泊まるとなるとキリで満たされた空間は香りから何からウタハの欲を刺激した。
『っていうか、なんでキリはあんなに俺と同じ部屋で寝たがったんだ?……これは、期待していいのか?』
ここにいるのは健康な成人男性である。しかも片想い7年の拗らせまくりの人物である。
妄想も期待も止めたくても止められないだろう。
『あ〜。どうしたらいいかわかんねぇ』
一人苦悶するウタハに気づいて、アギがクスリと笑みを溢した。
その夜。寝る支度を済ませたウタハは布団の上で正座して部屋の主を待っている。
ほどなくしてキリがやってきた。
『……風呂上がり……』
風呂上がりなど何度も見てきたのに、シチュエーションのせいかウタハは心臓が跳ね上がる。対するキリはいつも通りだ。
「やっぱこの人数だと風呂が大変だな。コハクんとこ借りるか〜」
のんきにベッドに腰かけながら話してくるキリにウタハは目線を合わせられず「そ、そうだな」とだけ返す。
「今日は疲れたし、もう寝ようぜ。電気消すぞ」
「えっ⁉︎」
あっさり灯りのリモコンに手を伸ばすキリにウタハが悲しみの声をあげる。
「どうした?」
「いや、あの……せっかく同じ部屋で寝るんだし……」
モジモジとしているウタハにキリが意地悪な顔に変わった。
「家ではやんねぇんだろ」
「そ!そこまでは俺も思ってねぇよ!でも、恋人なんだから少しくらい……」
「でもなぁ。こないだキスしたいって言おうとしたらとんだ目に遭ったしなぁ」
「それは!反省してるから!」
「ふ〜ん」
おもむろにキリが立ち上がりウタハのほうにやってくる。何をされるのかと目を閉じると唇に柔らかい感触があった。
「なら、こんだけな。ほら明日も早いんだからとっとと寝るぞ」
さっさとキリはベッドに戻り灯りを消してしまう。その頬が赤く染まっていることに、ひたすら狼狽えるウタハは気づかなかった。
翌朝。寝起きのボーッとした頭でウタハが部屋を見回すとすでにキリの姿はなかった。
寝坊したかと慌ててリビングに降りていくと豪華な朝ごはんが用意されている。どうやらヨルが作ってくれたらしい。
「そんなに気をつかわねぇでいいのに」
「いえ。そういうわけには。それに料理をするのは好きなので」
美味しそうに食べてくれるのを見るのが好きなんですと言うだけあって、ヨルのご飯は目にも美味しいものばかりだ。配膳はハナとトカゲが手伝い、まだ眠そうにしているララの頭をカグラが膝に乗せて撫でている。
「お。やっと起きたか」
外に出ていたのか、キリがウタハのあとからリビングにやってきた。昨夜のことがあってまともに顔を見れないウタハに気づいてトカゲが睨むような視線を送っている。
その頭をペシッと叩いてキリが小声で囁いた。
「グルっと周りを見てきたけど、不審な感じはねぇな」
すぐにトカゲも仕事モードに切り替わる。
「なら、予定通り私とお前でヨル君達を連れて行こう。前後にセキトさん達とウタハ達の車を走らせる」
了解、とキリはセキト達に伝言に走る。
そうして奇妙な同居生活は始まったのだった。
その頃。とある民家で5人の男達が集まって話し合いをしていた。
「結局ヨル達は警察に保護されたみたいですね。ダイナさんが仕掛けた能力も消されたようですし、どうしましょう?」
30歳くらいの青年がピタリと1人の男に寄り添い、上目遣いでヨルの話をしている。
「ああ。まあ、ほっとけばいいんじゃないか」
さして興味なさそうに返事をするのは、ヨル達が家から逃げだした夜に声をかけてきた男だ。こちらは寄り添われている男より少し歳上だ。
「でもヨル達の記憶は改竄してませんよ。ダイナさんの顔が警察にばれちゃいます」
「リファさんは心配性だなぁ。そうなったら警察と全面戦争すればいいじゃんか」
快活な雰囲気でそう言い切るのは、トカゲ達から仲間を救いだして飛んでいった少年だ。
「ジルバは楽観しすぎ。警察には能力者も腕付きも力を磨いたヤツらがいっぱいいるんだから。……能力者を治療できるヤツもね」
何かから隠れるように体育座りで小さくなっている青年が、最後のセリフだけなぜか憎しみを込めながら話している。小柄な青年で大学生くらいの若さだ。
「ゼロは個人的な感情が入りすぎー。だから襲撃メンバーに選ばれなかったんだろ」
「すみません。私がヨルを逃したから……」
トカゲ達に粒子の攻撃をしかけた男が申し訳なさそうに謝る。20歳半ばくらいに見える男はオドオドと常に自信なさげだ。
そこまできて、ダイナと呼ばれた男がため息をつきながら立ち上がった。
「モガのせいじゃない。お前はもう少し堂々としていろ。薬を売るのも楽しかったが少し飽きてきた。金もだいぶ貯まったしな。たまには警察相手にゲームしてみるのも面白いだろう。まずはララの誘拐を邪魔したヤツでも嵌めてみるか」
「なら、情報収集は私にさせてください」
リファがサッと立ち上がり、ダイナを熱い視線で見つめて命令を待つ。
「そうだな。リファ。任せたぞ」
「お任せください!」
宝物でも下賜されたかのようにリファはうっとりとしている。
「ジルバとゼロは力を鍛えとけ。必要になったら目一杯暴れてもらうぞ」
「あいさー」
「なんでもするよ」
跳躍の少年と体育座りしている青年は息ぴったりに返事する。
「モガは目を磨いとけ。能力者の現れそうなところにできるだけ行って粒子を追うんだ」
「……はい」
他のメンバーとは違い自信なさげにモガが返事をすると、5人はそれぞれに動きだした。




