25
数日後のカグラの家。ララがケーキを一口食べて目を輝かせた。
「おいし〜」
テーブルの向かいに座るカグラもララを見て瞳をキラキラさせている。
「かわい〜。まだまだたくさんあるからね。いっぱい食べてね」
「カグラ、食べさせ過ぎだ」
ララを猫可愛がりするカグラにウタハが苦言を呈している。
「だってララ君がケーキ食べてるの可愛いんだもん。ずっと見てたい〜」
「私もララ君を見つめるカグラをずっと見ていたい……」
やや息を荒くしながらカグラを凝視するトカゲにキリがひいている。
するとヨルとハナがやってきた。
「すみません。ララ様のことをお願いしてしまって」
「構わねぇよ。これから一緒に暮らすんだ。ララの世話はみんなでするぞ」
「今日は僕と一緒に寝ようよ〜。ご本読んであげるよ」
「え……えっと……」
ウキウキとするカグラにララのフォークが止まる。モジモジと何かを言いにくそうにしていた。
「……ララ君。嫌なことは嫌って言っていいんだよ。ここには君が気持ちを素直に言って怒る人なんていないからね」
優しく諭すカグラにララは一生懸命言葉を探しながら話しだした。
「えっとね……今日はヨルとハナと寝たいの。お家、まだちょっと怖いから」
「うん。上手に言えたね。じゃあお家に慣れたら僕の部屋にお泊まりにおいで。ちょっとだけ夜更かししていい日を作ろう」
「!うん!ぼく、お泊まり行く!」
ニコニコと再びケーキを食べだすララをカグラが満面の笑みで眺める。
そうしてリビングには幸せな時間が流れていた。
こうなったのはウタハの提案が原因だった。
診察室を訪れた休憩のあと、しばらくはコハクの班も公安に詰めようと決まったところでウタハがララ達と暮らすと言いだしたのだ。
コハクが驚いて問いただす。
「一緒にって……寮で?」
「いや。さすがに狭いから実家に……帰ろうかと……」
トカゲとキリをチラ見するウタハ。どうやらお伺いを立てているようだ。それを受けてトカゲがウタハの真意を問いただす。
「なぜ一緒に暮らしたいんだい?」
「……ララのためだ」
グッと、ウタハの体に力が入るのをトカゲは感じた。
「ララ君の?」
「ああ。この件が解決するまでララは幼稚園とかも行けなくなるだろ。公安の部屋は確かに生活できるけど、家じゃない。だから安心できる空間を作ってやりたくて」
「なるほど」
ウタハの言わんとしてることはトカゲも理解できる。まだ5歳の子供だ。ただ寝れるところと食べる物があればいいというわけではない。
「私は異論はないよ。誰かが公安に出勤する時にララ君達も一緒に来て日中はこちらで過ごし、誰かと一緒に帰ればいい」
「俺もいいぜ。ララは可愛いしな」
「俺やセキトさんも公安への行き帰りは協力できるよ。誰かが休みの日は1日家で過ごす日を作ってあげてもいいかもしれないね」
コハクも協力してくれることになり、話は一気に進んでいく。
ならばとトカゲはもう1人の許可を得に行こうと動き出した。
「ヨル君達と一緒に暮らす?」
トカゲとウタハが診察室に移動すると、ちょうどカグラが目を覚ましたところだった。
「ああ。ララをずっと公安に閉じ込めるのは可哀想だと思って。……ダメか?」
少し不安そうに聞いてくるウタハに、返事よりも先にカグラはスマホを取り出した。
「あ、シバさん?僕、今回の件が解決するまでこっちで診察したい。うん。できるだけ仕事もこっちで。わかった。必要な時はそっちに行くね。あとでスイレン君に必要な物を取りに行ってもらうよ」
流れるように通話を終えると、カグラは満面の笑みでウタハを見た。
「ララ君は何が好きかな?おもちゃでもお菓子でも何でも買ってあげるよ」
トントン拍子に話が進み、最終確認でヨル達の意思を聞きに行くことになった。本人達が嫌がれば同居も何もあったものではないが、なぜかウタハは自信満々である。
ヨルはまだ目が覚めていないので、まずはハナとララに話をすることになった。
「ウタハさん達の家にですか?」
「はい。たぶん一部屋しか用意できないから、3人だと寝るだけでいっぱいだと思うけど」
「それは構わないのですが、その、ご迷惑では……」
「ララのためです」
はっきりと言い切るウタハにハナもハッとした顔をする。
「子供が突然こんな知らない人がたくさんいるところに、安心できる空間もないところにずっといるなんてとてつもない負担です。せめて少しでも子供らしくいられる場所を作ってあげたい」
ハナが隣にいるララを見る。よくわからないながらもハナを困らせないようにと必死になって考えている姿がそこにはあった。
「それに、ハナさんやヨルさんにも落ち着ける場所が必要です。ずっと2人だけでララを守ってきたんです。他人の家なんで気をつかうかもしれませんが、俺達も2人がゆっくり過ごせるよう協力しますので。……もう無理しなくていいんです」
その言葉に涙を流しそうになりながらハナがララをギュッと抱きしめる。
答えは聞かなくても十分だった。
ヨルのことはハナが必ず説得すると言ってくれたので、なるべく早く家に移るための相談が始まった。
「部屋は俺の部屋を使ってもらうよ。俺はリビングのソファででも寝るから」
ウタハが使っていた部屋はほとんど荷物が置かれていないので、布団を追加すればララ達の寝室としてすぐに使えるだろう。
「でも毎日じゃ疲れんだろ。俺の部屋で寝ればいいじゃん。布団1枚敷くくらいのスペースはあるぞ」
キリがウタハの体調を心配して出した提案なのだが、周りが急にニヤニヤしだす。そこでキリは己の失言に気づいた。
「いや!別に!部屋が足りねぇから仕方なくだぞ!」
「またまた〜。ほんとはベッドも1つでいいんじゃないの?」
「間取り的に声が聞かれちゃいそうだね。気をつけなよ」
コハクとシュカが楽しそうにからかってくる。フチはキャッと嬉しそうに、ホムラは顔を赤くしてその光景を眺めていた。
そんな楽しげな雰囲気をトカゲの大声がぶち壊す。
「ダメ!ダメだ!一緒に寝るなんて許さないぞ!そうだ!カグラの部屋のベッドが余ってるじゃないか!ウタハはそこで寝なさい!」
「え〜。やだ。僕、時々ララ君と一緒に寝たいから、僕の部屋のベッドはララ君用に置いときたい」
「ぐ……それなら私がカグラの部屋で一緒に寝るから、ウタハは私の部屋で寝なさい」
「親達が何したかわかんないベッドで寝るとかウタハも嫌でしょ」
カグラの冷たい態度とシュカの歯に衣着せぬ物言いにトカゲが撃沈する。
そして、当のウタハは……。
「ウタハくん。そんなに赤くならなくても……」
コハクが呆れて声をかける先には、妄想が爆発してしまったウタハが湯気が出そうなほど赤くなってかたまってしまっている。
「あ、えっと、やっぱリビングで寝るよ。キリも部屋ではゆっくり過ごしたいだろうし」
気をつかっているのだろが、キリはその反応になんとなく寂しさを感じた。
「……俺と同じ部屋で寝るのはイヤなのかよ」
拗ねたような悲しいような声で言われてウタハは慌てる。
「え、いや、そんなことは……むしろ嬉しい……」
咄嗟に出た本音に、逃がさないぞとキリが追い打ちをかけた。
「なら決まりだ!お前は俺の部屋な!外野はガタガタ言うなよ!」
ビシッ!と、主にトカゲとシュカを指差してキリが言い切る。周りは「は〜い」とそれぞれの反応で賛成をしめした。




