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スイレン達が所属する部署に設けられた診察室で、カグラはベッドに横になったヨルを注意深く観察している。


「糸は完全に消せたけど、あれだけ頭の中で無茶苦茶されたんだ。精神が狂ってもおかしくない。しばらくは精神安定を10分ごとにかけるよ」

「わかりました。……あんな粒子の暴れ方、初めて見ました」


スイレンにもヨルの頭の中で起こったことは見えていた。普通に能力を仕掛けるのとは違う、相手を殺す勢いの粒子の渦。目の前の人物が生きていることすら不思議だった。


「能力云々より故意に強い力を埋め込んでるね。……許せないよ。こんな風に人を苦しめるなんて」


珍しくカグラが怒りに震えている。いつも冷静な師匠らしくない剥き出しの感情に、スイレンはこの人は優しい人だったと改めて思い出した。


「長丁場になりそうですね。ココア淹れてきます」

「……ありがとう。……チョコもいい?」


スイレンの優しさに気持ちがほぐれたのか、カグラが少し甘えるように聞いてくる。クスッと笑いながら「今日だけですよ」とスイレンはココアとチョコを取りに立った。

その光景をホムラは微笑ましく眺めている。


その時、自分達のいる建物を静かに見つめる人物がいることに、3人は全く気づいていなかった。




「ララ様を連れて家を出て、どうしようかと悩んでいる時にある男性に声をかけられたんです」


男はヨルの父の知人で、何度か会ったことのある人物だった。困っているらしい2人を見てひとまずホテルの部屋を用意してくれた。


「ララ様を連れていましたし、落ち着ける場所ができてホッとして……つい全て話してしまったんです」


ララが売られそうになったので逃げてきたことを話すと、「でもいつまでも逃げられないだろう」「君達だけでどうやって生きていくんだい」「私もついて行くから冷静に話し合ってごらん」と男はヨルを説得し、ハナとララを残して家へと向かってしまった。


「でも、部屋に戻ってきたヨル様は呆然とされていて……旦那様達を殺してしまったと……」


ヨルの話では家へ向かう車に乗ってる時から抑えきれない怒りが湧いてきて両親と兄の姿を見た時にそれが爆発し、白い霧で糸を出せなくして3人を刺し殺したとのことだった。確かに見えるところは拭かれているがコートの下は血まみれになっている。


「それでも、ヨル様と一緒にいた男は心配ないと言うんです。警察を騙すのが得意な仲間がいるからと」


その言葉通り、ヨルの家族のことは翌日にはニュースになったがヨルが疑われることはなかった。

突然トップを失った会社の対応には追われたが、もともと父親は経営は任せっきりだったらしく幹部達と話し合って経営権を移すことで丸く治まった。そして使用人達や家のことも片付くとヨルは新しい家に移り3人での生活を始めた。


「そこに、あの男が再び現れたのです」


事件のすぐあとに姿を消したのに、全てが終わってから男はやってきた。

そして助けてやった礼をしてほしいと言ってきたのだ。


「内容は糸を出せなくする薬を作れということでした。……断ることはできませんでした」


ララはヨルのもとで育てられることが決まったとはいえ、ヨルが殺人で捕まればハナだけでは養育が認められるかわからない。

仕方なくヨルは薬を作り続けた。言われた分を月一回渡せば何をされることもなく、3人は平和に暮らすことができた。


「でも、それでいいのか。私とヨル様はわからなくなってきたのです」


糸が出せなくなる薬など、犯罪に使われる以外考えられない。自分達の平和の下で誰かが犠牲になっている。それに耐えられなくなり警察に全てを話そうかと相談していた時に、ララの誘拐未遂がおきた。


「警告だと思いました。このままでは何をされるかわからない。……でも、偶然にも警察の方と知り合いになることができた。今日は本当はヨル様から全てを話して、ララ様を保護してもらおうと思っていたのです。なのに………」


思い返せば家族を殺した時のヨルも様子がおかしかったとハナは語った。それすら仕組まれていたのかもしれない。

コハクは事の深刻さを理解すると、席を外し一つだけ連絡をいれてハナのところに帰ってきた。


「話してくれてありがとう。ずっと苦しい思いをしてきたんだね。その男のことは必ず俺たちが捕まえる。だから協力してくれるかな」

「……はい。ありがとうございます」


長年堪えてきた思いにハナが涙を流す。その背中をコハクはずっとさすり続けた。




一方。カグラ達のいる建物を見張っていた男が動こうとしていた。

すると、どこか不安げな顔をしているその男の前に1人の人物が立ち塞がる。


「やあ。こんにちは。私は今からパートナーに会いに行くところなんだが、君もあの建物に用があるのかな?」


トカゲは何食わぬ顔で話しかけてきたが、明らかに敵とわかる人物に男は警戒を露わにした。


「おや?驚かせてしまったかい?すまない。私のパートナーは天使のような人物でね。今も苦しむ人を助けるためにその翼で癒しを与えているのだよ」


歳を重ねて鬱陶しさが倍増しているトカゲ。男は付き合いきれず粒子の攻撃を仕掛けてきた。


「おや。随分と荒っぽい粒子だね。性格が出てるのかな」


あっさり粒子を無効化するトカゲに男がたじろぐ。そのまま男を捕らえて解決かと思われたが、仲間らしき人物が上空から降ってきた。高校生くらいにみえる少年だ。


「退くよ。今は分が悪い」


文字通り空から降ってきた少年は、かなりの高さから落ちてきたはずなのに平気な顔で着地して男とトカゲの間に立ち塞がる。


「お仲間かな?2人がかりはこちらのほうが分が悪い気がするがね」

「なら、こちらも2人になればいい!」


お馴染みの声が響いたかと思えば、セキトが男達めがけて突っ込んでくる。

慌てて男が粒子を放つが、見えているかのようにセキトはそれを避けた。


「いつも思うんですが、セキトさんはどうやって粒子を避けてるんですか?」

「簡単なことだ!なんとなく感じる!」


銃や適応力といった特殊性のないセキトだが、感覚の繊細さについては群を抜いていた。これまで数々の能力者の力を見てきてことで、その繊細さは粒子による僅かな空間の変化を感じ取るようになったのだ。


「さて、君達を捕まえれば事件は一気に解決しそうだな!これ以上の悲劇は生み出したくないのでね。全力で行かせてもらうよ!」


再び勢いよくセキトが攻撃を仕掛けるが、間一髪で少年が男を抱えて空高く飛び上がっていった。


「おお!なんだ、あれは!」

「能力……なんですかね?」


そのまま男達は姿を消し、残されたセキト達は「おや。作戦失敗だね」と自分達の失態にしばらくしてから気がついた。




ヨルを狙って黒幕達が現れる可能性を考えてトカゲ達を待機させていたのだが、作戦は空振りに終わってしまった。そのため危険を避けるためにセキト以外の治療組はヨルを連れて公安へと移動してきた。キリも病院で異常無しの診断を受け、フチと共に公安に戻ってきている。

仕切り直しとなったため、ヨルに付き添っているスイレンとカグラ以外が捜査会議のために集められた。ハナとララはトカゲのチームが相手をしてくれている。


「なら、今度は薬を作らせていた男を追えばいいんだな」


シンプルに結論をまとめるキリにコハクが頷く。


「そうだね。トカゲ達の話を踏まえて、相手は最低2人以上……能力的に3人以上かな?記憶を書き換える能力。飛翔する能力?それと……」

「たぶん相手の怒りだか欲望だかを増幅させる能力だ。理性ぶっ飛ばす系だな」


ヨルの変化を目の前で見たキリの仮説には説得力があった。


「ヨル達を失ったことで敵がどう動いてくるか。捜査方針を練り直さないとな」


う〜んと頭を抱えるトカゲにウタハが挙手して質問してくる。


「あの……ヨル達はどうなるんだ?ララは……」

「狙われているかもしれない以上、公安で保護するしかないな。常に誰かが護衛でそばにいるようにしないといけない」

「そうか……」


落ち込むウタハにトカゲとコハクがおや?と顔を見合わせる。


「……少し休憩しよっか」


コハクの提案で一時解散となった。




ウタハが公安に仮設された診察室を覗くと、カグラがソファで丸まって寝ていた。

その横で書類作業をしていたスイレンが声をかけてくる。


「あれ?ウタハ君、どうしたの?」

「いや、ヨルの様子が気になって」

「もう大丈夫だよ。精神不調の心配も無くなったし、今はただ寝てるだけ」


丁寧に説明してくれるスイレンにそうかと返しつつ、カグラへ視線を向ける。


「カグラさん力を使いっぱなしだったからね。疲れて寝ちゃった」


フフッと笑うスイレンの向こう、必要最低限の物だけ持ってきたデスクにココアが置いてあるのが見えた。


「カグラのヤツ、しっかりココアは持ってきたのかよ」

「ああ。カグラさんのエネルギー源だからね。ウタハ君も今日は疲れたろ。淹れてあげよう」


そう言ってスイレンはウタハの分のココアを用意してくれる。礼を言ってカップに口をつけるウタハの元気がないことに気づいて、スイレンはふと考えを巡らせた。


「……ねえ。ウタハ君。なんでカグラさんがココアが好きなのか知ってる?」

「へ?いや、うまいからとかじゃねぇの?」

「前に仕事で子供の能力者の対応をした時にね、教えてくれたんだ。昔ウタハ君が悪夢で眠れなかった時に、ココアを淹れたら嬉しそうに飲んだから好きになったんだって」


ウタハの動きが止まる。そんなこと全く覚えてなかったからだ。


「だからココアは幸せの味らしいよ。それ聞いたら俺もココア好きになっちゃった」


朗らかに笑うスイレンにウタハも笑顔になる。

そして何かを決心したように立ち上がった。


「ありがとう。俺、ちょっと行ってくる」

「うん。いってらっしゃい」


すっかり大きくなった背中を見送りながら、スイレンはどうしようもなく嬉しさを感じていた。

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