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情報を得るなら早い方がいいだろうと、1週間後にウタハとキリはランチを食べにヨルの家を訪れていた。

どんな豪邸に住んでいるのかと思いきやこじんまりとした一軒家で、ララとハナが玄関で出迎えてくれた。


「ウタハさん!いらっしゃい!今日はいっぱい遊ぼうね!」

「ララ様。ご挨拶の練習をしたでしょう。それに遊ぶのは食事のあとです」

「そうだった!今日はお越しいただきありがとうございます」


ペコリと小さな頭を下げる姿は可愛らしく、ウタハとキリは目尻が下がる。


「こちらこそ、お招きありがとうございます。ご飯食べたらいっぱい遊ぼうな」


しゃがんでしっかり目線を合わせてくれるウタハにララも満面の笑みを返す。そのまま2人で仲良く手を繋いでダイニングまで移動すると、オーブンから出した料理をテーブルに運んでいるヨルがいた。


「よくお越しくださいました。すみません、お迎えできなくて。手が離せなくて」


その姿にウタハが驚きの声をあげる。


「料理……されるんですか?」

「はい。素人料理で恥ずかしいですが。ララの離乳食を作ってからハマってしまいまして」

「ぼく、ヨルのオムライス大好き!」


てっきり料理や家事全般はハナが担当していると思っていたので、ウタハは2人の関係性にひたすら疑問が浮かんだ。




テーブルにはヨルの隣にハナが座り、ハナの隣の端の席にララが座っている。ララがウタハに隣に来て欲しいとねだったため、ハナの向かいにウタハ、ヨルの向かいにキリという位置関係になった。

椅子に落ち着くとキリは部屋を見回す。


『当たり前だが、不審なところはないな』


家の間取りは公安が入手した資料で頭に入っている。1階はリビングやダイニングと水回り、2階に洋室が3部屋となっている。


「あ、これうま……おいしいです」


よほど料理が美味しかったのか、ウタハが普段の口調に戻りかけて慌てて言い直した。


「お口にあったようで嬉しいです。ララ、ピーマンも残さず食べなさい」

「う〜。ヨル、嫌いなの知っててわざと入れた〜」

「クリームと一緒に食べましょうね。苦味がマシですよ」


使用人のはずのハナが当たり前のように一緒に食卓を囲み、ララの世話を焼きながら食事をしている。むしろヨルが料理を出すために度々席を外していた。


「お2人はどういう関係なんですか?」

「……どういう?」


ウタハとしては素朴な疑問を口にしただけなのだが、ヨルとハナの動きがピクリと止まる。


「あ。いや、ハナさんがヨルさんを主と呼んでたので、使用人か何かなのかなと。それにしては家族のように仲がいいですし」

「ああ。そういうことですか。もともとハナの母が私の家で使用人をしていて幼馴染として育ったのです。ハナの母は私達が高校生の時に亡くなったのですがハナには使用人として残ってもらいました。両親と兄を亡くした時に家を手放し使用人達にも暇を出したのですが、ララの世話もありましたのでハナにだけは一緒に暮らすようお願いしたんです」

「私としては家事などは全て任せていただきたいのですが。ヨル様は自分もすると聞いてくださらなくて」

「いいじゃないか。お前ももう家族みたいなものなんだから。それに料理の一つもできなくてララを立派に育てることはできんだろう」

「ぼくもお手伝いするんだよ!卵が上手に割れるようになったの!」


明るく会話する3人はどう見ても仲のいい家族にしか見えない。ウタハにはとても犯罪に関わっているようには思えなかった。




食事が終わるとララは待ちきれない様子でウタハを2階の自分の部屋に招待した。

ハナは片付けのためにキッチンへ行き、ヨルとキリは2人でリビングへと移り会話を楽しんでいる。


「ウタハさんとは職場で知り合われたんですか?」

「そうですね。所属は違いますが捜査で一緒になることが多くて。能力者同士だから気があいまして」

「そうですか。能力者で捜査官をされてる方は他にもおられるのですか?」

「部署にもよりますが、いますよ。と言っても一握りですが」

「どんな能力の方がおられるのでしょうか?……すみません。言えないんでしたよね。どうにも好奇心が勝ってしまって」


眉を寄せて笑うヨルに違和感を感じたキリは少しずつ仕掛けていくことにした。


「誰がどれとは言えませんが、感覚を狂わせる能力、幻覚を見せる能力、記憶を書き換える能力、様々ですよ。珍しいものでは毒を出す能力なんてのもあります」


最後の言葉の時に僅かだがヨルが反応したのが見てとれ、キリは慎重に会話を進めていく。


「話は変わりますがララ君の誘拐未遂について、話があります」

「……何か問題があるのですか?」

「はい。犯人に誘拐を依頼した人物がいます」


青ざめるヨルは演技しているようには見えない。キリはその姿を見ていると、ヨルへの容疑を話した時のウタハの顔が頭に浮かんだ。あの悲しみに歪んだ顔を。


「何か心当たりはありませんか?恨まれている相手とか」

「いえ……そんなことは……」

「ララ君のことは大切ですか?」


駆け引きではなく、心からの思いでキリは問いかける。それはヨルに届いた。


「俺達は敵ではありません。子供が危険に晒されているなら、何をおいても助けます。どうか本当のことを話してください」

「……私は……」


縋るようにヨルが何かを話そうとした時、ピタリと動きが止まり瞳から光が消えた。


「?どうしましたか?」


明らかに様子のおかしくなったヨルに近づくとキリ。するとヨルから糸が出てそれが白い霧をばら撒きだした。


「嫌だ。離れたくない……」


うわごとのように呟くヨルがキリの首を糸で絞める。抵抗しようとするが、キリは糸が出せないことに気づいた。


『これ……あの薬と同じだ…』


「ララとハナを私から奪うな……あの2人は絶対に渡さない……何をしても……」


首を絞める糸に力が入る。

深い闇のような瞳を見ながら、キリの意識は徐々に遠のいていった……。




「キリ!」


聞きなれた声が聞こえたと思ったら、急に首の圧迫感が無くなった。必死に酸素を求める頭で認識したのは黒い影がヨルを捕らえている姿だった。


「無事か⁉︎」


キリに仕掛けられた盗聴器で異変を察知したホムラが助けにきたらしい。糸がだせなくとも体術でヨルを蹴り飛ばし、意識を失った体を拘束している。


「糸……この霧……出せな……」

「わかってる!その可能性があるから俺がきた!」

「ヨル様!」


騒ぎを聞いてリビングにやってきたハナが驚きで立ち止まる。するとキリ達との間に立ち塞がるようにフチが舞い降りた。


「動かないでください!僕は糸が出せなくても十分強いですよ!」


これはコハクの采配だった。糸が出せなくなっても体術に特化した2人なら負けることはない。


「……いったい何が……」

「ヨルさんがキリさんを殺そうとしました。署まで連行します」

「そんな……」


絶望するハナはある考えに至り、必死に主を擁護し始めた。


「それはヨル様の意思ではありません!あの……信じられないかもしれませんが……全てお話しますので……」

「信じる。だが、仲間がヨルさんの頭に糸の仕掛けが発動するのを感じた。このままではヨルさんも危険だ。解除できる者が外で待っているので連れて行く」

「キリさんは僕が運びます。ハナさんも一緒に来てくれますね」


展開の早さに追いつかない頭を叱咤して、ハナは主のためにどうするのが最善かを弾き出す。強く頷くとホムラ達の後に続いた。


「いったい何が……」


ララと共に2階から降りてきたウタハが、フチに運ばれる青ざめたキリを目撃する。一瞬で血が沸騰するのを感じた。


「キ……」

「ヨル!」


横で上がった悲痛な声に沸騰した血は瞬く間に落ち着いた。ララが恐怖に染まった顔でヨルを見ていた。


「ヨル……どうしたの?ハナ、何があったの?」


安心できるはずの空間に警官が大勢入り込み、大切な人が意識を失って運ばれている。子供にとってこれほどの恐怖はないだろう。


「ララ様……」


ハナもどう答えていいかわからない。ただただ運ばれるヨルに付き添うことしかできなかった。


「……ララ。大丈夫。みんな悪い人からララを守るために来たんだ。ヨルさん達のことは心配いらないから、ララは俺といよう」


事情がわからないので何も断言できない。それでもこの幼い心を守らなければ。ウタハはただそれのみに集中していた。


「ほんとに?ヨルは?ハナは大丈夫なの?悪い人って誰?」

「それは落ち着いてから話すから、ひとまず俺と安全なところに行こうか。……何があっても君のことは俺が守るから」


ウタハの気持ちはララに伝わり大人しく一緒に家を出る。繋いだ小さな手が震えていることに気づくと、ウタハは強くその手を握った。

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