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上機嫌のフチと怯えるキリが14班に着くと、キトラが正座をさせられて責められていた。


「キトラさん。またですか?いい加減学びましょう?」


哀れみを含んでホムラが諭すように言葉をかける。


「普通はまっさきにパートナーに会いに行くでしょう?何考えてんですか」

「だからコハクに閉め出しくらうんだよ」


シュカとウタハは容赦なく責める言葉を浴びせていた。


「私ならカグラが近くにいれば何をおいても抱きしめに行くのに。全くキトラさんの愛はどうなってるんですか?」

「カグラがきちんと愛されてて安心するよ。うちとは大違いだ」


呆れ果てているトカゲの横で、まだ鬼の形相を崩さないコハクが冷たい瞳でキトラを見下ろす。

そんなただただ地獄絵図の空間にフチが場違いな明るさで入っていった。


「すみません!遅くなりました!」


元気いっぱいなフチはともかく、捕えられたウサギのようなキリを見て各々が微妙な反応をする。


「フチ。気持ちはわかるけどきちんと抑えたね?」

「もちろんです!シュカさんの教えは破りません!」

「キリ、どうしたんだ?」


心配して駆け寄るウタハに、フチは満足そうにキリの手を離して去っていった。


「いや。ちょっと色々あって……また話す」


ウタハが来てくれたことでホッとしたのかキリは珍しく甘えるようにくっついてきた。その可愛らしさにドキドキしているウタハ。

そんな2人を見てコハクがキュンとしてるのに気づき、キトラは話題の矛先を自分から逸らそうと試みる。


「それにしてもフチだっけ?お前強いな!」


全員から吊し上げられている状態をさすがに可哀想に思っていたホムラがその話題にのった。


「腕付きの手脚の構造について、研究が進んで器用さの理由が解明されたんです。そしたら筋肉の質の違いで器用さよりも力が強いほうに長けている者がいることもわかって。俺なんかがそうですね」

「そうか。お前が銃より体術に向いてたのはだからだったんだな。わかって良かったな!」


屈託なく、本当に喜んでくれるキトラにホムラは面食らう。他の面々もキトラのこうゆうところが憎めないのだと、雰囲気が一気に和らいだ。

ホムラが少し照れながら話を続ける。


「フチはそれが極端みたいで。俺の何倍も力が強いんですよ。それを活かせないかとこっちにいる間は俺が稽古をつけてました」

「そうか。だから糸も引きちぎれたのか?」

「あれは糸の無力化を応用してます。キタカさんの糸の手を参考に微量の糸を手に纏わせてるんです。それを相手の糸への引っかかりとして腕力で糸を引きちぎってます。無力化ほど細かいコントロールがいらないのでフチには向いてるかと」

「何回聞いても恐ろしい力技だよな。俺はフチとだけは戦いたくない」

「そうか?俺はもっかいやってみたいぜ」


恐怖に顔を引き攣らせるウタハの意見を、至極明るい声でキトラは一蹴した。


「ほんとですか⁉︎僕もぜひ手合わせお願いしたいです!シエンさんから、キトラさんは力だけで本部でのしあがってる脳筋の極みだって聞いてるので!」

「よ〜し。シエンのことはあとで殴っとこう」


笑顔に青筋を立てているキトラに、なぜシエンはこうなのかとトカゲが呆れてコハクに聞いた。


「シエンくん、本当はキトラのこと大好きなんだよね。でも素直じゃないから。あれでキトラは面倒見いいから下の人達から慕われてるんだよ。それで余計な仕事を抱え込むから家に帰れないんだけど」

「ならコハクさんと同じですね。似た者同士のパートナーじゃないですか。お似合いだと思いますよ」


フフッと笑われてコハクが少し照れる。それをごまかすために「そろそろ仕事の話するよ〜」とみんなのほうへ向かっていった。




まずはヨルに関して集まっている情報の共有をするため、トカゲの説明から始まった。


「経歴は資料で送ったとおり。両親と跡取りの兄が死んで会社の経営を引き継ぐことになったが、経営権の全てを当時の幹部に譲っている。株も幹部達と相談して徐々に手放す予定みたいだな」

「引っ越しもしてるのか。まあ家族が死んだ家なんて出て行きたいよな」


ウタハの呟きにトカゲが頷く。


「ある程度の捜査が済んだら売りに出したみたいだな。本人達は事件後すぐに手頃な一軒家を購入してそちらに移っている。当時ヨルが通っていた大学の近くだ。その時に何人かいた使用人はハナ以外解雇しているが、かなりの額の退職金を渡して再就職の世話もしているので恨まれるどころか今も慕われているようだ」

「なら、使用人達が誘拐の主犯って線はないね」


コハクが補足しながら話は進んでいく。


「そうですね。そこで考えられるのが我々の追っている薬に関する線だ」


全員に緊張が走る。少し待ってトカゲが説明を続けた。


「糸を出せなくなる薬。記憶の操作でなかなか糸口が掴めなかったから、捜査方法を変えてみたんだ。科学捜査部の報告では薬の精製に特殊な方法が使われているとあった。それをもとにその精製方法を研究している研究室や企業を片っ端から調べていたんだが、そのうちの一つにヨルが大学で在籍していた研究室があった」

「それでキリは関連があるって…」


ウタハが隣に座るキリを見ると、強く頷かれた。


「それでもまだリストに名前がある程度だったんだがな。誘拐未遂の連絡が入ってきて驚いたよ。果たしてこれは偶然なのか」

「何にせよ家に行けるのはいい機会だからね。2人にはできるだけ情報を取ってきてもらわないと」


コハクはできるだけ明るく2人に話しかける。それでも自分の毒に近いと言われる薬に関わると思うと、ウタハはどうしても暗い気持ちを消せなかった。


「具体的にはどうやって情報をとってくるか作戦はあるんですか?」


ホムラがもっともな質問をする。それにコハクは「ん〜」と考え込んだ。


「それなんだよねぇ。トカゲとも話し合ってたんだけど、なんせこっちの情報が少なすぎる。薬の精製現場でも抑えられれば一発だけど、まさかそんな都合のいいこと起こるわけないしねぇ」


あははと笑うコハクの横ではトカゲが難しい顔をしている。


「現状、キリくんに家の様子や会話から何か掴めないか探ってもらうしかできないんだよね」

「じゃあ、なぜわざわざ作戦会議を?キトラさんまで呼んで」

「情報共有のため……かな?大掛かりな事件だから本部にも把握しといてもらいたいし」


ホムラの疑問に答えながらテヘッと笑うコハク。いつも通りの姿に全員諦めの表情である。


「まあ、そうなるわな。とりあえずやってみるから盗聴器なり何なり用意してくれ」

「えっ?俺は?俺は何かないのか?」


キリにだけ期待が寄せられて、自分は何もないのかとウタハは不安になる。


「お前は俺が動きやすいようにララと遊んでてくれ。できればハナも巻き込んで、ヨルと2人にしてくれるのが理想だな」

「2人……だけ?」


捜査のためだとわかっていてもキリが男と2人っきりに、それも大きな犯罪に関わっている人物となんてウタハは嫌だった。

その情け無い顔を見て、キリが眉を寄せて笑う。


「何かあれば呼ぶから。そんな心配すんな」


そんな2人に周りは優しい眼差しを向けるが、トカゲだけは「お父さんは!お父さんはまだキス以上は認めませんからね!」と喚いていた。

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