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コハクのチームは独立後は14班として腕付きや能力者の事件を担当している。ちなみに部屋は13班の隣だ。

その日も腕付きの子供の誘拐事件を解決し、ウタハ達は後処理に追われていた。


「あとは救急車が来るまで被害者の子に付き添ってあげないとね」

「あ、なら俺が一緒にいます」


メンバーへの指示を出していたコハクに、ウタハが立候補する。


「そう。なら、お願いね」

「はい。俺なら被害者の気持ちもわかりますから」


昔のことをなんでもないように言うウタハだが、コハクは僅かに不安がよぎった。


「ウタハくん」

「はい?」

「君なら被害者の気持ちもわかるだろうし寄り添ってあげるのに適任かもしれないけど、それは君が必ずしなければならないことじゃないからね」


気遣ってくれているのはわかるのだが、その内容はいまいちウタハにはピンとこない。戸惑ってるのが伝わってコハクはゆるゆると首を振った。


「ごめん。気にしないで。よろしくね」

「はい。任せてください」


そのまま被害者の元へ駆け寄るウタハの背中を見ながら、コハクはまだ不安げな顔をしていた。




ウタハが近づくと被害者の少年はビクッと肩を震わせた。


「ごめん。怖がらせちゃったかな。ヒナ君。君と話がしたくて来たんだけど、隣に座っていい?」


しゃがんできちんと視線を合わせて話しかけてくるウタハに、ヒナは弱々しくうなづいた。


「ありがとう」


隣に座り、ウタハはヒナの見ているのと同じ方向を向く。


「怖かったよね。よく頑張ったね」


ヒナは1人で歩いていたところを急に車に連れ込まれ、売り飛ばすために倉庫に閉じ込められていた。衰弱して汚れた体が毛布に包まれている。


「……生きててくれてありがとう」


自然と。かつて自分が言われた言葉をウタハはヒナにかけていた。


「もう大丈夫。怖い人達は全部捕まえたから。君は日常に戻れる。愛してくれる人達のいる温かいところへ帰れるよ」


ヒナが手の甲で涙を拭う。そのあとはただ静かにウタハは少年に寄り添い続けた。




その日は事件のことで寮に帰るのが遅くなったが、ウタハは満足そうな顔をしていた。


「なんだかご機嫌だね」

「ん?ああ。ヒナ君を助けてあげられたからな。嬉しいに決まってるだろ」

「ふ〜ん。良かったね」


随分とトゲのあるシュカの物言いにウタハはなんとなくムッとする。


「なんだよ。何かあるなら言えよ」

「別に。過去に被害者だった君が今の被害者の少年を心まで救ってあげられたんだから、いいことでしょ」

「ならそんな言い方しなくていいだろ。俺はみんなのおかげで救われたんだから。同じように人を救うのは当たり前だろ」

「そうだね。当たり前かもね」


なおも気に触る話し方をするシュカにウタハがキレそうになった時、シュカのスマホが鳴った。


「あ!セイだ!今日は早く終われたのかな」


怒りに満たされているウタハのことなど一瞬で頭から放り出し、シュカは部屋へと駆け込んでいく。行き場のない怒りを抱えてウタハは途方に暮れた。


「なんだよ。何が悪いんだよ」


涙を流しながらそれでも安堵の表情を浮かべたヒナの姿を思い出す。そこに過去の自分が重なり何かを思い出しそうになった瞬間、ウタハは記憶の蓋を閉じた。




それから数日後。14班にスイレンがやってきたが、たまたまみんな席を外していたのでウタハが対応していた。


「スイレン…さん。どうしたんですか?こっちに来るなんて珍しい」

「今日はシバさんのおつかい。そうだ。ウタハ君に伝言があるんだよ。この間の誘拐事件で助けた子から」


ニコニコとスイレンが伝えてきたのは、少年からの感謝の言葉だった。


「まだまだケアは必要だけどね。ご両親と落ち着いて過ごしてるみたい」

「そっか。良かった」


安心したように言うウタハにスイレンが満足そうにしていると、14班のみんなが帰ってきた。


「あれ?スイレンくん、どうしたの?久しぶりだね」

「お久しぶりです、みなさん!今日はシバさんの……」


仕事の話をしかけてスイレンがふと止まる。そして満面の笑みになった。


「いつもうちのホムラがお世話になってます!」


そのわかりやすい態度にコハクは温かい笑みを、ウタハは苦笑を、シュカは呆れて、ホムラは顔を真っ赤にしている。


「結婚してから会ってなかったもんね。おめでとう。今度お祝い持ってくね」

「いえ!そんなつもりでは!」

「そうですよ。これだけホムラさんを待たせたんですから、お祝いなんて渡さなくていいですよ」

「うっ……シュカくん手厳しい……」


辛辣な言葉にスイレンはテンションが急激に落ちていく。


「シュカ。そんな言い方はねぇだろ。スイレンさんだって事情があったんだから」

「でも、みんなから結婚報告聞く度にホムラさんが寂しそうな顔してたの見たでしょ」

「俺は…そんな…」

「ホムラさん、そんな顔してたんですか⁉︎」


スイレンがガバッとホムラの肩を掴む。申し訳なさそうに眉がよっていた。


「いや、まあちょっとは寂しかったけど……でもプロポーズもしてくれたし、親にもきちんと挨拶してくれたし、旅行も楽しかったし……」


徐々に顔が赤くなるホムラにスイレンがたまらなくなって抱きつく。だが、すぐにコハクにひっぺがされた。


「はい。職場ではやめてね。シュカくんも。ホムラくんのこと心配なのはわかるけど2人のことに口出さない」

「は〜い」

「でもスイレンくん。結婚したのにホムラくんのことほったらかすようなら、本当に吊るすからね」


相変わらず目が笑っていないコハクにスイレンが無言で何度も頷く。横では「コハクさんも結局口出してるじゃんか」とシュカが文句を言っていた。




色々あったが、やっとスイレンから今回の件について説明がはじまった。


「糸を出せなくなる薬が出回ってるという噂があるんです。麻薬みたいに裏で流通してるみたいで。効果は一時的なものらしいですが、知らぬ間に接種させられて無抵抗な状態にされるという被害もあるみたいで」

「それは怖いね。糸を使えないというのはとてつもなく無力な状態だからね」

「はい。すでにトカゲのチームに動いてもらってるんですが、かなり広範囲で流通してるみたいで。同時に何箇所かに仕掛けないといけなくなったら人手が足らないから、コハクさんのところにお願いにきたんです」

「でも、それなら4班のほうがいいんじゃないの?麻薬関係でその手の捜査には慣れてるだろうし」

「それも考えたんですけど、糸を出せなくなるという特殊性が引っかかって。能力者なり目を持つ人間なりが関わってる可能性がありそうだなと」

「なるほどね。なら、うちの出番だ」

「まだ調べを進めてる段階なんで、ひとまずは頭に入れておいてもらうだけで。トカゲからまた連絡します」

「了解」


話が終わるとスイレンは忙しいのかさっさと帰ろうとする。

それでも去り際にホムラと「今日は遅いのか?」「夕飯はどうする?」という会話をしていて、コハクが嬉しそうにそれを眺めていた。


『トカゲのとこと合同捜査か……』


今までもなかったわけではないが、公安に立て続けに落ちたこととキリとギクシャクしていることがウタハの気持ちを重くする。

これじゃダメだと頭を振ってネガティブな気持ちを追い出そうとするが、心はやっぱり晴れないままだった。

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