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『来て良かった……』
無事動物園デートに出かけられたウタハ達。園内をひとしきり回った後、2人は触れ合いコーナーに来ていた。
「ウタハ!コイツすごく懐っこいぞ!可愛い!」
満面の笑みでモルモットを撫でるキリを、だらしない顔でウタハが眺めている。
『うんうん。可愛いぞ。キリがな』
可愛い生き物とキリの笑顔というセットに全力でウタハがデレデレしていると、ふとある男の子が目に入った。
『……迷子かな?』
柵の外を5歳くらいの男の子が歩いていた。キョロキョロと心細そうに周りを見ている。
迷子なら保護しなければと様子を伺っていると、ウタハはあることに気づいた。
『あの子、腕付きか』
男の子の手に小さな傷がある。腕付きの子供となれば誰に狙われるかわからない。すぐに保護しようとウタハが動くと同時に、1人の男がその子に声をかけた。
「君、迷子かな?お父さんかお母さんは?」
目線をあわせることもなく上から見下ろすように話しかける男にウタハは嫌な予感がする。話しかけられた少年は困った顔で黙っていた。
「お話できないのかな?迷子を預かってくれる所に連れてってあげよう。さあ、おいで」
男が無理やり少年の腕を掴むと有無を言わさず引きずって行こうとする。小さな体では抵抗も無意味で、少年が恐怖に顔をひきつらせた時。
「どうかしましたか?」
間一髪ウタハが駆けつけ、男に声をかける。
「あ。いや。この子が迷子になってるみたいだからインフォメーションに連れて行こうかと」
男は焦りを隠すように早口で話す。ウタハの捜査官としての勘はそれを見逃さなかった。
「ちょっとお話聞かせてもらえますか?」
携帯していた警察手帳を見せると、男は少年をウタハに向けて突き飛ばし逃げ出した。
少年を支えるために追いかけるのが一歩遅れたウタハの横を、紫の風が駆け抜ける。
「キリ⁉︎」
キリがあっという間に男を捕まえてしまった。地面に押さえつけ糸で動きを封じた上で、男の顔の横に溶解液を垂らす。
「相手が俺で良かったな。これなら痛い思いせずに言うこと聞く気になるだろ?…溶かされたくなかったら大人しくしてるんだな」
すぐ横のコンクリートが溶けたのを見て、男がブンブンと首を縦に振る。満足したようにキリがウタハへ振り返った。
糸はしっかり男をロックオンしている。
「お。ちょうど園の人達が来たな。警察に連絡してもらおうぜ」
騒ぎに気づいた飼育員達が集まり、キリが事情を説明するとすぐに警察に連絡をしにいってくれた。
すると飼育員と入れ替わるように黒髪の青年がウタハ達のほうへ走り寄ってくる。それに気づくと少年も青年の方へと走っていった。
「ララ様!」
「ハナ!」
「急にいなくなるから心配しましたよ」
「ごめんなさい」
「……無事で良かった……でも何が?」
ララを抱きしめ周りを見回して不安な顔をするハナに、ウタハが近づいていく。
「その子が誘拐されそうになってたので保護しました」
「誘拐⁉︎」
安心させるために手帳を見せながら説明するが、誘拐の言葉にハナは青ざめた。
「犯人は捕まえたので安心してください」
キリに捕らえられて大人しくしている男をウタハが指差す。それでもまだ混乱のおさまらいハナにウタハはできるだけ優しく話しかけた。
「あなたはこの子の保護者ですか?」
「主の……お仕えしている方のご子息なんです。お忙しい方なので私が遊び相手になろうと連れてきていたのですが……」
「ハナは悪くないよ!ぼくがキグルミさんについてっちゃったから迷子になったんだ!」
自分を責めるように話すハナを守ろうと、ララが小さな体で一生懸命飛び跳ねる。
その姿にウタハは優しい気持ちになった。
「君は優しい子だね。ありがとう。話してくれて。もう少しお話を聞きたいから、警察のお家に一緒に来てくれるかな?」
「警察の?行きたい!ハナ、行こう!」
「せっかく遊びに来ていたところを申し訳ないのですが、調書を作らないといけませんので」
「構いません。ただ主に連絡をするのでお待ちいただけますか?」
「はい。応援がくるまではどちらにしろ動けませんので。ララ君は俺と待ってようか」
はーい。と元気よく手を上げて返事をするララにほんわかしながら、ウタハはスマホを手に少し離れたところへ移動するハナを見送る。
『ハナさんは使用人みたいな感じなのか?ということは、ララ君は結構いいお家の子なのかな?』
ジャンケンしたり遊びながらララのことを観察するが、身なりはきちんとしているが特に普通の子と変わらない。だが素直で礼儀正しいところはキチンと躾けられているのかなとは感じられた。
単純に腕付きという理由で狙われたのか、他の理由があるのか。どちらにせよ詳しくは取調べしてからだと、しばらくウタハはララの相手をすることを楽しんだ。
腕付きの子の事件ということで、やってきたのはホムラとフチだった。
「取り押さえた警察官ってお前達だったのか」
男を拘束するキリとララ達に付き添うウタハを見て、ホムラが驚いた声をあげる。
「その……残念だったな……せっかくの休みを……いや、でもお手柄だ。よくやった」
おそらくシュカあたりがデートしてることを言いふらしたのだろう。微妙に気をつかえているようでつかえていないホムラにウタハとキリは苦笑する。
「ウタハはララ君達と同乗してくれ。キリは俺とだな。犯人の拘束を頼む」
「了解」
返事をするとキリはホムラと共に男を連れて車へ向かって行った。
「ウタハさんも一緒に警察のお家行けるの?じゃあ、車でも遊んで!」
「いいよ。しりとりの続きしようか」
「では、みなさんはこちらの車にお願いします」
ウタハ達はフチに案内されるまま車に乗り込み、一同は署へと向かって走りだした。
ララ達に話を聞くのはホムラが担当したが、安心させるためにウタハも付き添って聞いていた。
『頭のいい子だな。怖かっただろうにしっかり状況を説明できてる』
念の為付き添ったが、ウタハがいなくても大丈夫なくらいララはきちんと受け答えしていた。
むしろ不安になるのはハナのほうで、ララとはぐれた経緯を話す時も泣きそうになっていた。
「子供はほんの一瞬目を離しただけでもいなくなってしまいますから。そんなにご自身を責めないでください」
「でも……ララ様に何かあったらと思うと……ただでさえ腕付きなんだから気をつけてさしあげないといけないのに……」
その言葉にホムラが少しだけ悲しそうな表情を見せた。
何も悪いことをしていなくても腕付きというだけで周りの人に心配をかけてしまうことに。その状況がいつまでたっても改善しないことに。
「私も腕付きなんです。ご苦労はよくわかります」
「あなたも?」
「はい。うちは腕付きや能力者ばかり集めたチームなんですよ。困ったことがあれば何でも相談してください」
「腕付きのおまわりさんなの?カッコいいね!」
ララが無邪気な尊敬を向けると、ホムラは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。そうだ。腕付き向けの防犯講座があるんだ。私が講師をしてるから、良かったらハナさんと一緒においで」
行く!と嬉しそうに返事をするララに場の雰囲気が救われる。そうこうしていると男の取調べに同席していたキリがやってきた。鮮やかな金髪の男性を連れている。
「ヨル!」
「ヨル様……申し訳ございません……ララ様を……」
「ハナ、お前のせいではない。お前に任せきりだった私が悪いのだ」
ハナを安心させながら、ヨルと呼ばれた男性はかがんでララの目をまっすぐに見つめる。
「ララ。無事で良かった。だがハナと離れてはいけないと言っただろう」
「……ごめんなさい」
「お前に何かあれば私もハナもどれほど悲しむか……約束はお前を守るためにしているんだ。それを忘れないでくれ」
「……うん」
返事と同時にヨルがララを抱きしめる。やはり怖かったのだろう。ララは強くヨルに抱きつくと、幼い瞳からポロポロと涙を溢した。




