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ウタハと付き合い出してから2日後。キリが出勤するとウツギがニヤニヤ近づいてきた。
「キリ〜。ウタハと付き合うことになったんだって?おめでとう」
「……はっ⁉︎なっ!」
突然のことにキリが口をパクパクさせて止まっている。
なぜ知ってるのか。それを聞こうとしたらウツギのほうから説明してきた。
「見てたら丸わかりだろ〜。トカゲはやたら機嫌いいし、キリはソワソワしてるし。だからカグラに聞いたら嬉しそうに教えてくれた」
『カグラァァァァァ!』
無邪気な親の迂闊な行動にキリは膝をつく。それを気にせずウツギは小さな箱を出してきた。
「ほら。俺からのお祝い。弟分同士がくっついたとか嬉しくてさ〜。ウキウキして用意しちゃったぜ」
ピンクの可愛らしい箱を渡されてキリは嫌な予感しかしない。だが、視線で中を見ろと急かしてくるウツギに負けて開けてしまった。
中には色とりどりのコンドームが敷き詰められていた。
「……なっ!……これ!……」
「ゴムはもともと感染症予防の道具だからな。男同士でも…」
「そういうことじゃねぇ!何考えてんだ!」
真っ赤になって怒るキリにウツギは首を傾げる。
「何って。必要なものだろう?あっ!お前まさかやり方知らないのか⁉︎教えてやろうか⁉︎」
ガシッと肩を掴み親身になって相談にのろうとする姿はとてもいい人にみえるが、内容が完全にアウトだった。
「ウツギ君?もうミーティング始まるよ?」
ちょうどいいタイミングで、なかなかミーティングルームに来ない恋人を心配してムジナがやってきた。2人の様子を見て何があったのかを瞬時に察する。
「……ウツギ君……キリをいじめちゃダメでしょ」
ジトッとした目で睨まれてウツギが「あ、その…」と必死に言い訳する。そのまま耳を掴まれてズルズルと引きずられた。
「キリ。ごめんね、ウツギ君が。でもみんな君に恋人ができて嬉しいんだよ。幸せになってね」
ニコッと優しく笑う姿はありがたいが、キリはみんな知ってるのかとガックリと肩を落とした。
『……どうすんだよ、これ……』
突き返すこともできず手の中におさまっている箱を見て、キリは途方に暮れていた。
ミーティングではトカゲから糸を出せなくなる薬についての続報が伝えられた。
「やはり記憶の改竄がされているみたいだ。薬の出所が掴めない」
能力者絡みが決定となり、メンバー内の緊張が高まる。
「売人達については引き続き取り調べを続けるが、他からもアプローチが必要だな。実質ゼロから調べ直しだ」
「え〜。今回かなり頑張ったのに〜」
売人に辿り着くまでもかなりの時間と労力がかかっている。それが振り出しに戻ってしまい、ウツギから不満の声がでた。他のメンバーも同じ思いだ。
「仕方ないな。今回はかなり手強い事件になりそうだ。それともう一つ。毒の成分について科学捜査部から結果がきた」
書類に目を落としながら、トカゲがチラリとキリを見る。その視線にキリは不穏な気配を感じ取った。
「糸を出せなくする成分だが、神経毒に近い物のようだ。それが糸に関する所にだけ作用すると考えられるらしい。そしてその成分だが……ウタハの毒に近い物らしい」
キリの体がゾクっと粟立った。震えをごまかすために自分で自分を抱きしめる。
「どちらにしろコハクさんの所には協力を依頼するつもりだったから、ウタハの謹慎があけたら話を聞いてくる。まあ、成分が似てるというだけで何も情報はないと思うが」
親としての心配を隠して、トカゲは冷静に捜査の指示を出して行く。キリも自分の仕事に集中して不安を押し込めた。
謹慎があけてすぐ。ウタハのもとにトカゲが来ていた。例の薬について話すためである。
「俺の毒に似てる……。ってことは、毒を出せる能力者がいるってことか」
「おそらくね。それが首謀者なのか協力者なのかはわからないけど」
話しながらトカゲもコハクもウタハの様子を心配そうに見ている。それは本人にも伝わった。
「……もし俺みたいにどこかに閉じ込められて毒を利用されてるんだとしたら、俺はソイツを助けたい。けど、自分が犯人に対してどんな行動をとるかわからない」
「捜査の過程でどれだけ君の心に負担がかかるかもわからないしね。親としては今回の件には一切関わらせたく無い」
その気持ちはわかるのでウタハも強くは言えない。しかしトカゲは「でもね」と話を続けた。
「私はカグラを救出する作戦に君が無理やり同行しなければ、とんでもない間違いを犯していたかもしれないんだよね」
「へ?」
随分と昔の話をされて、ウタハは間抜けな声をあげた。
「イシの時も無理やりついてきて。でも、その頑固なところが結構好きでもあったんだ」
フッと優しい顔になったトカゲを、コハクはやれやれといった様子で静かに見守っている。
「引けと言えばきちんと引けるね?」
「!ああ。信じてくれ!」
子供のように顔を輝かせるウタハに、トカゲは満足そうに微笑んだ。
捜査はやはり思うようにいかず、雲を掴むように情報を集めるがなかなか進展はなかった。
そんな中。非番が重なる日ができたので一緒に出かけようとウタハが言ってきたため、キリは次の日に控えた初デートを待ち侘びていた。
ウタハとカグラ達と一緒に夕飯を食べながら。
「謹慎中は全く会えなかったからね。やっとゆっくり話せて嬉しいよ」
一緒にでかけるなら前日は泊まればいいじゃないかと、ウタハは親達に半ば無理やり実家に泊まらされていた。
仕事仲間ではなく家族に戻れて、トカゲの雰囲気は穏やかだ。
「2人のお祝いもしたかったしね」
カグラはカグラで2人並んだ姿を見て上機嫌だった。
「せっかく恋人同士になったんだから、もっと家に帰ってきてよ」
「あ、ああ。まあな。ちょくちょく顔は出すよ」
「でも部屋は別々で寝かせるからね」
ニコニコするカグラの横でトカゲから厳しい意見が飛ぶ。ウタハとキリが揃ってむせた。
「トカゲ、ダメだよ。2人のことに口出したら」
「カグラ。でも悔しいんだよ。可愛いキリを取られて。相手がウタハでも悔しいものは悔しい。今ならセキトさんの気持ちが痛いほどわかる!」
「そう言いながら、引っ越してきた初日に僕に手を出したのは誰?」
「それは仕方ないだろう。君にあんなに可愛くお願いされたら断れる者などいない。ああ。私のカグラはどうしてこんなに可愛いのか」
急に2人の世界に入る親達に、いつものことだと諦めてキリとウタハは黙々と夕飯を食べ進めた。
食事が終わりキリとトカゲで片付けをしている間、ウタハは久しぶりにカグラと2人でゆっくり過ごしていた。
『カグラは全部聞いたんだよな。俺のこと』
そのわりにはカグラはいつも通り、と言うかキリとウタハが付き合ったからか凄くご機嫌だ。
「あのさ、カグラ…」
「ねえ。ウタハ。初めて会った時のことを覚えてる?」
わざとウタハの話を遮るかのように、カグラは昔の話を振ってきた。
「え?ああ。まあ」
「ウタハ、凄く驚いてたよねぇ。僕のところに来ても全然落ち着かなくて。一緒に寝てみたり、お菓子を用意してみたり、おもちゃで遊んでみたり。セキトとコハク君に相談して色々やったなぁ。やっと慣れてくれたと思ったら、今度はやりたい放題で。部屋は散らかるし勉強や遊びの相手で研究の時間がどんどん削られるし。大変だったよ……でも楽しかった」
ウタハを見ながら過去に思いを馳せて、紫の瞳には愛が溢れている。
「君が僕に幸せをくれたんだ。ウタハ、僕のところに来てくれてありがとう」
ぽたり。と、ウタハの太ももに雫が一粒落ちた。胸がいっぱいで言葉が出てこない。
すると、ふいに温かい何かに包まれる感覚があった。
「ふふ。糸で気持ちを落ち着かせるのはこれで最後かな。君にはもうキリがいるもんね」
「……ありがとうは俺のセリフだろ……」
「そうかな。まあ、いいじゃない。言いたかったんだから」
ヨシヨシと、子供の頃のように頭を撫でてくるカグラ。その手がとても暖かくて。ウタハは「子供扱いはやめろよ」という言葉をいつまでも言えなかった。




