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13

晴れて謹慎のあけたウタハは14班の部屋に入るなりみんなに頭を下げていた。


「この度はご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございませんでした!」


それはまあ綺麗な角度で頭を下げるウタハに、班のみんなはやれやれと言った感じだ。


「謹慎してきちんと反省したんなら俺達から言うことは何もない。でも心配はかけられたからな。そこはわかっておけよ」


ホムラの言葉にみんなが頷く。そこにあるのは温かい空間だった。


「はい。……ありがとうございます」

「本当は顔を見に行きたかったんだがな。謹慎中なんだしやめといたほうがいいかと思って。スイレンを止めるのが大変だった」


飛び出そうとするスイレンの首根っこを掴むホムラを想像してしまい、みんな必死に笑いを堪えている。それが落ち着いたところでコハクがウタハを連れて会議室へと移動した。


「さて。謹慎の結果を聞こうかな。キリくんとも話し合えたみたいだし」

「……コハクはわかってたのか?俺が過去のことで苦しんでるって」


上司ではなく友人として聞いてくるウタハにコハクは真剣に答える。


「なんとなくはね。これでも君の上司だ。でもそこに手を差し伸べるのは俺じゃないのもわかってた」

「……ごめん。せっかく助けてもらったのにな」


グッと。ウタハはテーブルに置いた拳に力を込める。それをコハクの手が優しく包んだ。


「謝ることじゃないよ。あれだけの苦しい思いをしたんだ。簡単に消せるものじゃない。俺達こそ君にいい子を強いてしまってごめんね」

「……みんなのこと大好きなんだ。助かって、外に出れて嬉しいんだ。……それは本当なんだ」

「うん。知ってるよ。だから俺達にはもう十分。……いや。やっぱり十分じゃないか。これからは怒りも悲しみも見せてよ。そのほうが嬉しい」


コハクは優しく笑う。地下から助けてくれた時のあの優しさで。


「それと……これは退職を勧めてるとかじゃないから勘違いしないでね。俺に助けられたから苦しくても捜査官を続けてるっていうんなら、無理をしなくていいんだよ。事件と関わっていくと、どうしても過去のことを思い出すこともあるだろうから。警察官を続けたいなら異動という手もあるし、転職したいなら力になるし」


コハクなりに考えた結果なのだろう。このまま捜査官を続けることがウタハのためになるのかどうか。


「……ありがとう。でも捜査官は続けたい。やっぱり俺みたいな被害者を助けられるのは嬉しいから」

「そう。わかった。でも無理はしないこと。捜査官はチームで動くものだからね。苦しい時はみんなを頼ってよ」

「ああ。無理はしない。約束する」


ウタハの返事に「よろしい」とコハクは満足そうだ。


「それじゃ、捜査官を続けるなら友人として一言」

「?」

「忙しさにかまけてキリくんをほったらかしたら吊るすからね」


目が笑っていない。キトラやスイレンが向けられている圧力を初めて体感して、ウタハは心の底から震えた。




話が終わり部屋に戻り、ウタハはふとあることに気づいた。


『キリとのことで浮かれて、忘れてた…』


フチがキラキラした目でこちらを見てくる。ウタハの復帰に、好きになってもらうアピールをしようと待ち構えているのだ。


「……フチ」

「はい!」

「……仕事が終わったら話があるから時間取れるか?」

「!はい!喜んで!」


犬のように尻尾をふってフチが仕事に戻っていく。


『しまった。変な期待持たせたか?』


後悔してももう遅く。やたらとやる気のあるフチに周りは不思議な顔をしていた。




その日の仕事が終わり、ウタハはフチと共に署の近くのベンチに座っていた。


「コーヒー。ブラックと微糖、どっちがいい?」

「ブラックをください!」


ウタハの奢りが嬉しいのか、これからされる話が楽しみなのか。フチのテンションはマックスになっている。


『……話しにくい』


だが話さないわけにもいかず、ウタハはフチの様子を探りながら本題に入った。


「その……俺を好きだと言ってくれた件だが……」

「はい!」


やはりその話かとフチのテンションが更に上がっていく。


「……ごめん。俺はキリが好きなんだ」

「……は?」


予想外の展開にフチのテンションが一気に氷点下に下がる。しかしウタハは話を止めるわけにはいかなかった。


「そ、それで……キリと付き合うことになったんだ……だから、お前の気持ちには……」

「……ろう……」

「へ?」


途中から俯いて顔が見えなくなったフチが何か呟いている。聞き取ろうと前屈みになったウタハの胸倉をおもむろに掴んだ。


「こんのタラシ野郎が!その気がないなら変に気ぃ持たすようなことすんじゃねぇよ!」


完全に別人になって吠えるフチがそこにはいた。その豹変っぷりに反応できずウタハはただガクガクと揺さぶられている。


「僕が……僕がどれだけ……うわ〜ん。ウタハさんのバカー!」


今度は泣き出した。止まらない感情の渦にウタハがオロオロしていると、その肩に誰かの手が置かれた。


「シュカ⁉︎」

「きちんと筋を通したね。その勇気に免じてこの場は僕が預かろう」

「はっ⁉︎お前何言って…」


そもそもなぜここにいるのかという問いもできぬまま、ウタハを押しのけてシュカがフチの隣に座る。


「フチ。辛いよね。その心の痛み、よくわかるよ」

「シュカさ〜ん。僕、何がいけなかったんですか?」

「フチは何も悪くないよ。ただウタハにはすでに好きな人がいただけさ」

「でも辛いです……本当にウタハさんのこと好きだったんです……」

「そうだね。だから今日は僕がグチに付き合うよ。ちょっと君に確かめたいこともあるしね」

「僕に?わかりました!シュカさん、僕の思いを聞いてくれますか⁉︎」

「よ〜し!今日は朝まで呑むよ!」


そのままガシッと2人で肩を組んで去って行くシュカとフチ。

唐突な展開に何もできず、ウタハは「明日2人して寝不足じゃなけりゃいいけど」と呟いた。




フチとシュカの暴走から少し時間は戻って。ウタハと付き合うことになったキリは翌日からも普通に出勤していた。

そして仕事が終わった帰り道、待ち合わせしてルナに会った。


「そうか。誤解だったんだ。良かったね」

「ああ。ありがとう。……それと……」


並んで歩いていた足を止め、キリが真っ直ぐルナを見る。ルナもこれから来る言葉を予期してキリを見つめ返した。


「ウタハと付き合うことになった。だから、ごめん。お前の気持ちには応えられない」


誠実な、相手のことを真剣に考えた言葉にルナは満足そうにしている。


「謝らなくていい。キリはきちんと答えをくれた。その気持ちが嬉しいよ」


ルナの言葉に嘘はなく、キリは胸が苦しくなった。


「でも…お前の気持ちを利用するようなことしちまった……苦しい時に助けてもらったのに……」

「それは違う。私が助けたかった。好きになってもらうのとは別の話だ。それにキリを助けられただけで私は満足だよ。……ウタハさんと幸せになってほしい」

「……ありがとう。でも、何か礼はしたいな」

「お礼か……じゃあ……」


ルナがキリの肩を優しく掴む。


「一度だけキスしてくれないかな」

「……へ?」


そのままルナが顔を近づけてきた。

突然のことに動けずキリが真っ赤になっていると……。


「冗談だよ。そうだね。これからも家に遊びに行かせてもらえたら嬉しいな」


目の前で満面の笑みを見せられ、キリはからかわれた事に気づく。


「ルナ!」

「ごめんね。少しだけいじわるしたくなって」

「全く……。家にはいくらでも来い。カグラもトカゲも喜ぶから」

「ありがとう。ウタハさんにも会いたいな。……2人をからかうのは楽しそうだ」


ウインクしてルナが再び歩き出す。それを怒りながら追いかけるキリは、どこか楽しそうだった。

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