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「……何やってんの?」
リビングにシュカの冷たい声が響いた。
気持ちを吐き出して想いを伝えて。離れがたくなったウタハとキリは何を話すでもなくただ寄り添って時間を過ごしていた。
どのくらいそうしていたのか。気づくと日も暮れて、シュカが帰ってきて玄関を開ける音で我に返る2人。慌てて離れたところにシュカが入ってきたのだが、明らかに様子のおかしい2人にシュカは呆れ果てて冒頭のセリフを放ったのである。
「いや!キリがカグラの使いでケーキを持ってきたんだ!な!キリ!」
「そう!お前の分もあるから食べていいぞ!冷蔵庫に入ってる!」
「好きなん選んでいいからな!俺はキリを送ってくるから!」
そそくさと逃げるように家を出ようとする2人に、シュカがまだ呆れた様子で声をかける。
「ウタハ。僕だってセイを連れ込むの我慢してるんだから、ヤるんだったらホテル行ってよ」
ウタハは思わず転びそうになり、キリは耳まで真っ赤になっている。
「おま!な!」
「ほら。早く送ってかないとカグラさん心配してるんじゃない?キリ、またね」
ヒラヒラと手を振って2人を追い出し、シュカはフフッと笑みをこぼした。
まだぎこちない感じで2人は並んで歩いている。本当はお互い手を繋ぎたいのだが、まだ気恥ずかしさが勝ってしまい微妙な距離をあけていた。
「シュカのやつ。なんであんなデリカシーがないんだよ」
「でも、そこがいいってセイは言ってたぜ」
「……セイ、趣味悪ぃな」
ゲンナリするウタハにキリはあははと声をあげて笑う。
「……俺はお前の、自分の目で見て自分で考えるところが好きだ」
急にウタハが褒めてくるのでキリはどうしていいかわからない。
「なんだよ、急に」
「いや。ちゃんと気持ちは言葉にしとかないとなと思って」
「……なら、俺も同じだ。辛くても自分で考えて乗り越えようとするとこが好きだ。……でも、苦しい時は苦しいって言って欲しい。逃げたいなら一緒に逃げてやるから」
これ以上ない言葉だった。ウタハはずっと心の底にあった苦しみから救い上げてもらうのを感じた。
「謹慎あけたらどっか行こうぜ。2人で」
「……あ、ああ。いい…けど……でも……」
喜んでのってくれると思っていたのになぜか言い淀むキリにウタハは首を傾げる。
「……まだ……ホテルは……心の準備が……」
シュカの言葉を思い出してキリが再び耳まで真っ赤になっている。それを見てウタハは「いや、その、それは、そんなつもりじゃ…」と慌てふためいていた。
キリを送っていって寮に戻ると、シュカが2つ目のケーキに手を出していた。
「……太るぞ」
「その分動くから大丈夫。このお店おいしいね。さすがカグラさんは詳しいや」
幸せそうにケーキを頬張るシュカの向かいにウタハが座る。
「全く。お前は本当に自由だな」
「昔はそうでもなかったよ。どちらかというとウタハより自分を追い込むタイプだった。でも、そんなことしなくていいって教えてくれた人達がいたんだよ」
意外な告白にウタハが驚いた顔をする。
シュカのことはセイから話は聞いていたが、実際に関わりだしたのは警察学校に入ってからだ。その頃には今と変わらない自由奔放な人間になっていた。
「僕が親に売られたことは知ってるだろ。イシのところからうつされた孤児院はみんないい人達だったけど、僕は助けられた、みんなに救ってもらってるという思いが強すぎて。自分の意見を主張することもできず必死にいい子を演じてたんだ」
それはまさに、さっきウタハがキリに話したことだった。シュカも同じ思いを持っていたのかとウタハは驚く。
「そしたら院の子供達がさ。気づいたんだよ。僕が無理してるって。それで、孤児院から僕を連れ出してみんなで家出した」
「はっ⁉︎」
「って言っても、子供のすることだからね。1時間もせず連れ戻されてこっぴどく怒られたよ」
「ま、まあ、そうだろうな」
「でもみんな笑っててさ。楽しかっただろって。お前はもっと自由でいいんだって。お前は被害者って名前じゃないだろって」
シュカは何でもないことのように言うが、その言葉はさっきキリが破ってくれたウタハの心の壁をさらに粉々に破壊していく。
「そっからかな〜。僕が好き勝手しだしたのは。なぜか孤児院の人達もそのほうが喜んでさ。まあ、さすがに悪さしすぎたら怒られたけど」
そこまで話すと「ガラにもない話しちゃった」と食べ終わった皿を片付けにシュカはキッチンへ向かう。
「まあ。こんな話をしたのは君達が付き合えたことへのお祝いだとでも思ってよ。……おめでとう。君達が幸せになって僕も嬉しいよ」
珍しく素直な笑顔で祝いの言葉を述べてくる。シュカのそういうところが憎めないのだと、ウタハはルームメイトに恵まれたと感じていた。
キリが家に帰るとトカゲもカグラも帰ってきていた。キリと送ってきたウタハの様子から2人に何があったのか察したトカゲは、疲れたから早めに寝るとキリが自室に入った後にカグラを連れてコハク達の家を訪問した。
「セキトさんは全て予想したうえでキリをウタハの護衛にしたんですか?」
ウタハの苦悩やキリとの関係についてうっすら気づいていたトカゲはセキトに問いただす。
「全てではないけどね。ウタハ君にキリ君のような存在が必要なのは感じていたよ」
「……僕がウタハを苦しめたのかな」
ウタハの苦しみについて聞いたことで、カグラは自分の親としての心がウタハを追い詰めたのだと落ち込んでいた。
「被害者としての苦悩はどうしても出てくるものだ。それを君に見せなかったのはウタハ君の優しさだよ。そしてその優しさを彼に与えたのも、そもそもの恐怖や苦しみから救い出したのも君なんだから。君はウタハくんに与えられるものは全て与えられたさ。でも君1人で支えきれるものじゃないからね。……ウタハ君も別の愛を持つべき時が来たんだよ」
「……寂しいけど、相手がキリなのは嬉しい」
ブーといつものように頬を膨らませるカグラの肩をトカゲが優しく抱く。
「私も孫に恋人ができた気分で嬉しいよ。しかも2人同時にだ」
「俺は親戚のおじさんの気分かなぁ。いつのまにか大きくなってって、あれ」
「あらあら。みんなまだまだ保護者をやめられないわね」
アギの言葉にみんなで笑う。それはとても幸せな時間だった。




