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9.王子妃たちとのお茶会

 ギヨーム殿下とデュラン殿下の悪事の証拠を掴むために、ルシアン殿下は奔走しているようだったが、それは思わしく進んではいない様子だった。

 わたくしにもできることはないのか。

 考えたときに、まず思い付いたのはギヨーム殿下とデュラン殿下の放置されている王子妃と接触を持てないかということだった。

 ギヨーム殿下の王子妃はこの国の侯爵令嬢だったが、ギヨーム殿下が一人に縛られることを厭うて、王宮の中の愛妾を連れ込んでいるのと別の宮殿に幽閉していると聞いている。

 デュラン殿下の王子妃は隣国の王女だったが、デュラン殿下の趣味に合わず、デュラン殿下が美しい少年少女を侍らせているのを軽蔑して、デュラン殿下と別の棟で別居状態だと聞く。

 この二人に話を聞けば、何か有利にことを運べる手掛かりが得られるのではないか。


 単独で行動するのは危険だと分かっているし、ルシアン殿下を心配させるつもりもないので、わたくしは計画を実行する前にルシアン殿下に相談することにした。


「ルシアン殿下は男性で、同じ王子という立場から兄君たちの王子妃に会うことは難しいかもしれません。わたくしは同じ王子妃という立場で女性です。王子妃に接触して、話を聞けるかもしれません」


 わたくしが申し出るとルシアン殿下は苦い表情をしている。


「リュシア姉様が動いたことに気付かれたら、ギヨーム兄上とデュラン兄上が警戒するかもしれません」

「王子妃同士、交流を深めるのは自然なことではないですか?」

「それはギヨーム兄上とデュラン兄上が王子妃を認めている場合に限ります。兄上たちは王子妃を蔑ろにしている。その王子妃に接触するということは、何かを探っていると知られることに繋がります」


 慎重になってくださいと諌めるルシアン殿下に、わたくしは明るい声を出した。


「わたくしは、なにも知らない無知な女を演じます」

「どういうことですか?」

「宮中での争いなど知らぬ世間知らずのお嬢様で、ギヨーム殿下やデュラン殿下と王子妃たちとの関係も分からないでお茶会を開いたことにすればいいのではないですか?」


 わざと無知なふりをして油断を誘うのも謀略のうちだ。

 わたくしが提案しても、ルシアン殿下の表情は晴れない。


「兄上たちが騙されるとは思いませんが。リュシア姉様は聡明な方と有名ですし……」

「勉強だけできて空気の読めない世間知らずな令嬢もいるでしょう?」


 明るい声で言えば、ルシアン殿下は深くため息をついた。苦悩しているのが分かるが、わたくしは引けなかった。わたくしもルシアン殿下のお役に立ちたい。それがこの国のためになると分かっているから。


「くれぐれも、兄上たちに気取られませんように。危ないと思ったら、すぐにぼくに知らせてください。一人で判断してはなりませんよ」

「はい、必ずルシアン殿下を頼ります」

「ぼくがうまく証拠を集められないがために、リュシア姉様にまでこんなことをさせてしまって……」

「わたくしは王子妃です。ルシアン殿下と国のために働くのは当然です」


 なんとかルシアン認めてもらって、わたくしはギヨーム殿下の王子妃とデュラン殿下の王子妃に手紙を書いて、お茶会を開くことにした。

 ルシアン殿下の離宮は寂れていて質素である。お茶室は狭く、王子妃をお迎えするにはあまりにも粗末すぎる。

 お茶会は庭のガゼボで行うことにした。

 お茶菓子は離宮の料理人が作ってくれて、お茶はわたくしが嫁いで来たときに持ってきたものを用意する。


 お茶会に現れた二人の王子妃は顔色が悪く、ドレスも質素だった。わたくしは公爵家から持ってきたドレスがあったので、それを着ていたが、二人の王子妃たちは明らかに予算を割かれていない様子だった。


「ようこそいらっしゃいました、ルシアン殿下の妻のリュシアと申します」

「わたくしはギヨーム殿下の妻です。あの方はわたくしを妻と思ってはいないでしょうが」

「わたくしはデュラン殿下の……いえ、あの方の妻になどなるのではなかった……」


 二人の王子妃からは悲哀と疲労が強く見えた。

 わたくしはお茶とお菓子を勧めながら、二人に聞いてみた。


「ギヨーム殿下とデュラン殿下とは会われているのですか?」

「いいえ……あんなケダモノのような男、近付きたくもない」

「わたくしはデュラン殿下のコレクションには入れなかったようで」


 憎しみと皮肉を込めて言う二人に、わたくしは静かに問いかける。


「自由になりたいと、思われませんか?」

「自由に?」

「わたくしが?」


 二人とも明らかにギヨーム殿下とデュラン殿下に嫌気がさしている様子だったので、信頼してもいいだろうとわたくしは話を進める。


「ギヨーム殿下とデュラン殿下が断罪されれば、お二人は実家に帰れるでしょう」

「誰が断罪できるというのですか。国王陛下すらあんな状態で」

「自由になることを求めた日もありました。今は諦めています」


 諦念の強い二人に、わたくしはめげずに続ける。


「ルシアン殿下がいらっしゃいます。ルシアン殿下が成人されて、王太子に選ばれれば、ギヨーム殿下とデュラン殿下を断罪できるかもしれません。その暁には、お二人も離婚を許されて実家に帰れるでしょう」

「ルシアン殿下が?」

「本当にそんなことができるのですか?」


 懐疑的な二人に、わたくしは声を顰めて囁いた。


「ギヨーム殿下とデュラン殿下について、知っていることを教えてはくれませんか? そのことがお二人の自由に繋がるかもしれません」


 香り高いお茶は冷めてしまったし、お茶菓子は手付かずだったが、冷たい風にさらされたガゼボの中で、王子妃お二人は顔を上げた。


「ギヨーム殿下が孕ませたわたくしの侍女を、町に放り出したことがあります」

「その侍女は?」

「わたくしの実家が保護して出産をさせました」


 一つ、ギヨーム殿下の情報が手に入った。

 続いて、デュラン殿下の王子妃が口を開く。


「わたくしは隣国との奴隷取引の口封じとしてこの国に送り込まれたのではないかと思っています」

「国際法で奴隷取引は禁じられているはず。隣国も同じでしょう?」

「それを宰相が内密に行なっていたのを、わたくしは見てしまったのです」


 隣国でも奴隷取引が行われている。それにデュラン殿下が関わっていて、隣国の宰相と繋がっていて、奴隷取引の情報を掴んだ王女殿下を口封じのために閉じ込めようとこの国に嫁がせたのならば、デュラン殿下が好みではない王子妃と結婚した理由も分かる。


「奴隷取引の証拠がありますか?」

「奴隷取引では割符が使われます。それを宰相の執務室で見ました。恐らく、闇の帳簿らしきものに挟んでいました。デュラン殿下の部屋にも同じものがあるでしょう」


 これも有益な情報だった。

 わたくしは王子妃二人に深く頭を下げる。


「ありがとうございます。必ずお二人が自由になれる日が来るようにいたします」

「わたくしを気にかけてくださる方がまだいただなんて……」

「こちらこそありがとうございます」


 お礼を言ってまた幽閉される場所に戻っていくお二人の背中に、わたくしは必ずお二人を自由にするという誓いを胸に見送るしかなかった。


 お茶会が終わって一息つくと、わたくしを心配して早めに帰ってきてくれたルシアン殿下にお茶会の報告をした。


「ギヨーム殿下は王子妃殿下の侍女を孕ませて、王宮から追い出したようです。その侍女は王子妃殿下のご実家の侯爵家が保護していると」

「その侍女から話を聞いてみる必要がありますね」

「デュラン殿下の王子妃殿下は、隣国の宰相とデュラン殿下が奴隷取引をしている証拠を見た言うのです。隣国の宰相の執務室には闇の帳簿があって、奴隷取引に使われる割符が挟まれていたと言っていました」

「デュラン兄上の元にもそれがある可能性が?」

「はい、恐らく同じものがあるだろうと」


 わたくしの報告にルシアン殿下の表情が真剣なものになる。

 ルシアン殿下は気軽には王宮から出られないので、ギヨーム殿下の王子妃の元侍女に話を聞きに行くのは難しいかもしれない。


「お父様なら……」

「ルミエール公爵のお力を借りるときですね」


 父ならば怪しまれずに行動することができるだろう。

 ルシアン殿下も今日の報告をしてくれた。


「ギヨーム兄上の作ろうとしている結婚の解放の法律に関して、議会にかけて時間を稼いでいます。その間に、この法律に反対するものたちの声を集めねばなりません」


 まだまだギヨーム殿下とデュラン殿下の断罪までは道が長い。しかし、わたくしたちは確かな一歩を踏み出せたと思っていた。


読んでいただきありがとうございました。

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