表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/30

第7話『水と命のインフラ革命』

「また井戸が、空っぽに……?」


村の水瓶がどれも底をつき、子どもたちが干からびた桶をのぞき込んでいた。


井戸水の枯渇。それは生活の根幹を揺るがす事態だった。畑にも飲み水にも使えず、遠くの沢までの水汲みは半日仕事。それを毎日繰り返せば、村の時間は削られていく。


「このままじゃ、村が干からびちゃう……」


そう呟いた春日唯の頭に、ふと“彼”の声が蘇る。


《江戸の水道って、木の樋で水を引いてたんだよ! 山からの自然水を、勾配だけで流すの。マジで天才》


鉄道と水道が好きなファンとの会話。そのときは「へえ〜」と聞き流していたが、今こそ“思い出の知識”が命を救う番だ。


「……よし、木樋と水車、作ろう」


唯はまず、近くの高台にある小さな湧き水を確認し、そこから村までのルートに目をつけた。途中に高低差があるのを利用して、水を自然に流す「簡易水道」を作るという構想だ。


使うのは丸太と、くりぬいた竹、そして縄。水の通り道となる木の“管”を並べ、地面に溝を掘り、少しずつ水を引く。さらに川の流れを利用した“水車”を設置し、ポンプの代わりとして利用できるよう工夫した。


「水の力を借りて、水を届けるんだよ」


作業の合間、唯は子どもたちに“ろ過の実験”も見せた。砂、炭、布を順に重ねた瓶に泥水を注ぎ、澄んだ水が落ちてくるのを見て、子どもたちの目が輝く。


「これ、遊びにもなるね!」

「よし、ろ過キット作るぞー!」


遊びから始まる学び。それは村の未来そのものだった。


また、煮沸の重要性も唯は繰り返し説いた。薪で水をぐらぐらと沸かし、「病気は目に見えないからこそ、予防するんだよ」と静かに語った。


村の女性たちはその話を真剣に聞き、率先して煮沸班を結成。さらに布を洗い、壺を清めるなど、「衛生意識」が村に広まっていく。


「水を守るのも、“村の武術”だと思って」


唯の言葉に、みな頷いた。


数日後、ついに木樋の水道が完成。高台の湧き水が、村の中央にある大きな水壺へとコトコトと音を立てて流れ込む。


「わあっ……水が、動いてる……!」

「走らなくても、水が来るんだ!」


子どもたちは歓声を上げ、大人たちも感嘆の声を漏らした。


インフラ。それは村にとって“魔法”のような響きを持った言葉だった。


その日の夜、焚き火の前で唯は新しい歌を披露した。


♪ 水は巡るよ 命とともに

  木の道たどりて 村をつなぐよ

  流れて、届いて みんなの笑顔へ ♪


歌はたちまち広まり、「村の歌・第二弾」として定着。誰もが口ずさみ、桶を抱えて水場に向かうたびに、思わずその旋律が口をついて出る。


水と命をつなぐ道を、アイドルが作った。

そう語る者がいた。


だが唯は静かに首を振る。


「私じゃないよ。覚えてたんだ。ただ、みんなと話したことを」


ファンがくれた知識、言葉、記憶。

それが、この異世界の村に“命のインフラ”をもたらしたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ