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「お久しぶりです、御義父様、御義母様。貴方達の娘ですよ」

 カオスを極め切った魔王討伐の報告の後、祝勝会だとか凱旋パレードだとか、嬉しいけれど気疲れするイベントが次から次へと舞い込んできた。

 ジュリアは聖女としての活動で手慣れているのか、常に微笑みを絶やさずに優雅に手を振ったり、普段の言動からは想像もつかないほどに洗練されたスピーチをしたりと、世間の聖女像そのままの振る舞いをしていたり。

 俺? 俺は緊張で顔とか強張ってたし、スピーチも何言ってるのか覚えてない。多分盛大にやらかしてると思う。

 ただ、そんな聖女様も流石にくたびれたのか、



「しんどいです。あんな美辞麗句を並び立てるとか脳みそパンクしてしまいますよ。それと表情が固定されるのもキツいですね。ずっと微笑みを浮かべないといけないとか顔面の筋肉が凝ってしまいます。ほらそこで暇そうにしている勇者様、私の顔をもみほぐす権利をあげますのでマッサージしなさい。しろ」



 愚痴を言いながら、だらんと俺の背中に抱きついてくるのだった。

 抱きつかれること自体は嬉しいが、色々と当たるのでこう言う場ではやめてほしい。



「やってやるから背中から降りろ。着てる服が崩れるじゃないか」


「やです。このまま揉んでください。ほらほら聖女様の御尊顔が貴方の肩に乗ってますよ〜? これは早急に揉みほぐすしかないのではぷえっ」


「調子に乗んな」



 お望み通り、ジュリアの顔を鷲掴みにしてやった。

 俺の片手で完全に覆えるくらいだから、こいつの顔は本当に小さい。

 しかも凝ってると言う割には、こいつの頬はかなりもちもちしている。

 永遠に触っていられるくらいに触り心地が良いのが逆に腹立たしい。


 顔つきといい、スタイルといい、神様はこいつの美貌に関しては完全に依怙贔屓しているとしか思えない。

 むしろ逆で、こいつの造形が完璧だから神様に愛されてるのかもしれないが。



「ほうひひでふ。へをははひへふははい」


「すまん。何言ってるのか分からないからもう一回言ってくれ」



 おそらく、「もういいです。手を離してください」と言ったんだろうが、ちょっとした仕返しにとぼけたふりをする。

 そのまま、不服そうなジュリアに構わず頬をもちもちし続けると、何か思いついたのか、ジュリアはニヤニヤした笑みを浮かべ。



「ひはんふへいへふは?」


「はーいお客様、マッサージの時間は終了ですよー。なので今すぐその口を閉じやがってくださいませー?」



 痴漢プレイ呼ばわりとか、俺を社会的に殺すつもりか。

 馬車の御者の人に聞かれたらどうするんだ。


「そんなに倒錯的な趣向をお持ちでしたら相談してくだされば良いのに。安心してください。スレイがどんなに変態さんでも私はその全てを受け入れてあげましょう。言っておきますが、法的に許される範囲の話ですけど」


「お前の中では痴漢は法的に許される範疇なの?」


「ダメに決まってるでしょう。何をふざけたことをほざいてるんですか、ド変態勇者」



 虫ケラでも見る目で睨んでくるジュリア。

 こいつ、ハシゴを外しやがった……!



「はあ、こんなケダモノ勇者のところに嫁ぐことになるとは、私史上最悪の出来事です。これから先これ以上の不幸に見舞われることはないでしょう」


「俺との結婚は魔王と戦う時以上の不幸と?」


「魔王と戦う時の恐怖なんて、貴方との結婚に比べたらカスみたいなもんですよ」


「実は俺がこの世界の真の魔王だったのか……?」



 そのまま行くと、ジュリアが俺と言う次なる魔王の怒りを鎮めるための生贄みたいな話になってくるんだけど。



「別に俺は贄を求めるタイプの魔王になるつもりはないし、そこまで嫌なら今からでも婚約解消を……」


「その時は、私が次の魔王になりますがよろしいか? 神をも味方につけた魔王の爆誕です」



 どうやら強力すぎる力を持った者同士で互いに封印しあってる的な物語が生み出されようとしているらしい。



「魔王となった暁には、まずスレイ以外の人類を滅ぼすところから始めますかね」


「初手で人類滅亡してるんですけど?」


「スレイが私以外の女と結婚して幸せになる姿を見るくらいなら、最初からその可能性を潰しておけば良いですし」


「俺が幸せになるのは許されざる行為になるのか……」



 聖女様が言っていい言葉じゃない。



「まあ、冗談ですよ。そうなることはありえませんから。それよりそろそろ着きますよ」


「久しぶりの村だ、……父さんと母さん、元気にしてるかな」



 そういえば故郷には一年ほど帰ってきていなかった。

 手紙は送ったりしていたものの、顔を合わせるのは久しぶりになる。

 なんだか、ちょっとむず痒い気持ちになってくるな。


 馬車から降りて、村の中に入る。

 そして幼い頃からの記憶のまま足を運ぶと、どこにでもあるような一軒家が見えてきた。

 小さい頃は合図もなしにそのまま開けて入った扉を、軽くノックしてから中にいるであろう人たちに声をかける。



「父さん、母さん。帰ってきたよ」



 中から誰かが駆け寄ってくる音が聞こえる。

 そしてそのまま向こうから扉が開かれ、



「……スレイ、よく無事に帰ってきたな」


「うん。ただいま、父さん」



 父さんは少し涙目になって、



「全く……元気そうなあんたの顔を見られて安心したよ。おかえりなさい、スレイ」


「ああ、ただいま、母さん」



 母さんがほっとした表情で、それぞれ俺の帰りを迎えてくれた。


 小さい頃はなんとも思っていなかったのに、親に出迎えてもらうとどうしてこんなにも安心してしまうのか。

 ついつい、目が潤み始めた。

 魔王を倒してからと言うものの、俺の涙腺は少し緩くなってしまったみたいで困る。

 もう少しで、涙を流しそうになったその時、



「お久しぶりです、御義父様、御義母様。貴方達の娘ですよ」


「本当にお前はいきなり何言ってんの?」



 そんな湿っぽい空気をぶち壊すジュリアの声が響いた。



「間違っていないでしょう? 私とスレイは結婚するんですから、私はお二方の義理の娘ということに」


「そうだけど順序ってものがあるだろ!」


「スレイ、結婚するのか? まあ、いつかはジュリアさんとくっつくとは思ってたけど、魔王を倒した直後とは……手が早いな、我が息子よ」


「まだ手は出してませんが!?」


「出してなかったのかい? それはそれは……ジュリアさん、うちのバカ息子が申し訳ないね……」


「なんで母さんがそこで謝るの!?」


「それだけ勇者様が私のことを大切に思ってくださっているということですし、その気持ち自体はとても嬉しかったですので、謝られるようなことは何もございませんよ」


「外面モードになって護身完了するな!」


「いいかスレイよ。結婚はゴールじゃなくて新しいスタートなんだ。これからが本当の戦いだぞ。奥さんと二人三脚で頑張れよ」


「忠告自体はありがたいけど、それ今言うことかなぁ!?」


「それで、子供はどれくらい?」


「はい。出来ることなら五人以上は……」


「そうかいそうかい! 子供の面倒を見る手伝いが欲しかったらいつでも言ってくれたら助けてあげるからね! あと、スレイは返品不可だからそこのところよろしく!」


「返せと言われても返しませんよ?」


「子供の数が前聞いた時より増えてるんですけど!? 母さんも焚き付けないで! なんで結婚の話でそこまで盛り上がってるの!?」



 一応魔王を倒した息子が帰ってきたんですけど?

 さっきまでそれで感慨深い気持ちになってたじゃん。



「魔王倒したとかいうどうでもいい話よりも、スレイが結婚する方がよっぽど重要なことだし」


「俺、魔王を倒すよりも結婚する方が難易度高いと思われてたのか……?」



 母さんのあんまりな言葉に、俺は膝から崩れ落ちたのだった。

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