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「現代の量産品の方がよっぽどクオリティが高いんですよね」

 突然の来訪とは言え、遠路はるばるやってきた友人を追い返すなぞという酷いことはできないため、二人ともを家に招き入れることとなった。

 けれど。



「スヴェン。背中の武器は、そっちの倉庫にしまっておいてくれ。そんな重たいものを持ったまま家の中を歩かれたら床が抜けちまう」



 スヴェンが背負っている大剣を指さして、外すように促した。

 全く飾り気がないが頑強で、その持ち主の身長ほどの巨大さを誇るほどに、バカでかい片刃の大剣。

 流石にそんなものを背負ったまま、家の中に入れるわけにはいかない。



「ああ、悪い悪い。それじゃ預かっといてくれ」


「はいよ。って、投げんじゃねえよ。危ないだろうが」



 スヴェンがその大剣をこっちに放り投げてきた。

 咄嗟にキャッチはできたものの、そんな巨大な武器を軽々しく扱うなよ。

 気持ちの面でも、物理的な面でも。



「スレイなら余裕でキャッチできるだろ? 世界を救った勇者様なんだからさ」


「それ言っとけば許されると思ってねえか?」


「こんくらいのことでミスるようにお前を育てた覚えはねえから安心しろ」


「それはスヴェンは決めることじゃないだろ、ったく」

 


 ニヒルに笑いながらそう誤魔化すスヴェン。

 ……本当に、俺の前だと無駄にカッコつけたがるんだから、困ったもんだ。



「それじゃあ、部屋まで案内しますね。ちょうど良い茶葉も手に入ったところですし、振る舞わせてもらいますよ」


「あっ……はい、お気遣いなく……ああ、いや、……あ、ありがとうございます……」


「本当にできた子ね、ジュリアちゃんって! それじゃあお邪魔しまーす!」



 そのカッコつけを、ジュリアの前で消失させないでほしい。

 俺の腹筋に悪いから。




    ◇




「前から聞いてみたいことがあったんだけどさ」



 椅子に座ったスヴェンが、俺の方を向いてそう切り出した。



「お前、伝説の装備みたいな奴って見つけたりしたのか?」


「伝説って?」


「ああ。魔王復活なんていう御伽話でしか聞いたことがないようなことが起きたんだし、千年前の勇者が使ってた武器とかがあっても不思議じゃないだろ?」



 言われてみれば、昔の勇者とその結婚相手の指輪も残っているのだから、そういう伝説の武器みたいなのがあってもおかしくない。

 ただ、俺が使っていた剣は市販品だし、防具もほとんど使ったこともなかったから、あんまり気にしてなかったな。



「剣を使う身としては、そういう凄い武器とかにはロマンを感じるところもあってさ。もしあるんだったら見てみたいなって」



 少しワクワクしながら問うてくるスヴェン。

 そんな子供っぽくなった旦那を見て、リオは微笑ましそうにしていた。


 しかし、スヴェンの言うような、神話に出てくるような装備を見つけた記憶がない。

 ……もしかして俺は、重大なイベントを飛ばして、魔王を倒してしまったのでは?



「なあジュリア、俺って本当に勇者なんだよな?」


「なんですか急に。魔王を倒した後でそんな疑問湧いてくることあります?」


「だってさ、勇者だったら伝説の武器とか鎧とか装備してるもんだろ?俺、旅の道中でそういうの見つけた覚えないんだけど」



 あの結婚式で使った指輪みたいに、神秘の力が宿っていれば俺にだってオーラですぐ分かるはずだ。



「魔王との戦いで使ってた剣も、高級品ではあるけど金を出せば誰でも買えるもんだし。もしかしたらそういう伝説の武具を見つけ出す運命を持った本当の勇者が他にいるんじゃないかなって」


「貴方以上の力を持った勇者とか、逆に世界を滅ぼしかねない気がしますが」



 ジュリアが呆れたように言うが、こっちとしては真剣だ。

 もし実在しているのであれば、そんな文化遺産にも等しいものを、今だに放置していることになるのだから。


 

「でも教会には伝承されてるんだろ? そういう伝説の装備みたいなやつ」


「確かにありますよ。千年前の勇者が使った剣や鎧、盾は三種の神器と言われ、伝説の装備として語り継がれてました」


「やっぱりあるんじゃないか!」



 そう言うと、ジュリアはなんだか申し訳なさそうな表情を浮かべて、



「ありますし、スレイも実際に使ってましたけど?」


「え?」



 なんかとんでもないことを言い出した。



「なんだよ! スレイ使ったことあるんじゃないか! 水臭いな、本当!」


「そんなやばい剣とか持ってるなら、見せてくれたっていいじゃん!」


「いやいやいや、知らん知らん知らん! 本当にそんな凄そうな武器持ったことないって!」


「まあ、見た目がだいぶ朽ち果ててましたからね……」



 ジュリアの言葉を聞いて、三人の視線が彼女に集中する。

 どういうことだ?



「剣は確か、四天王の黒龍王とかいうのと戦ってる時にスレイが拾ってましたよ」



 黒龍王のことなら覚えている。

 普段は人間の姿をしているけれど、その正体はとても巨大な黒いドラゴンで、わざわざご丁寧に城まで建てて俺たちを待ち構えていた奴だ。

 最初、あいつのことを魔王だと思ったくらいに、強力な敵だった。


 でも、そんなところに剣なんてあっただろうか?

 あそこにあったのは、確か……。

 ………………、まさか。



「えーっと……もしかして、なんか城の奥の方に置いてあった、古びた剣のことか? あれドラゴンの鱗に弾かれてすぐ折れたんだけど?」


「『やっぱ錆びてんじゃねーかこれ! まだ店で売ってる鋼の剣の方がよっぽど使えるわ!』って悪態ついてましたっけ」



 え、あれ!? あんな朽ちた剣が千年前の勇者の剣!?

 俺の持ってた剣が折れちゃったから、代わりにと思って拾った剣が伝説の武器だと!?


 そう驚いている俺をよそに、ジュリアは続ける。



「武具収集してたギガンテスと戦ってる時に、スレイが相手の攻撃を凌ぐために身代わりに使った鎧があったでしょう? あれが勇者の鎧です」


「あんな雑多に置いてあったらそんな貴重品とは思わないじゃん! ありえんぐらいボロボロの鎧だったしさぁ!」



 ギガンテスの根城には、あちこちから奪ってきたであろう装備品が集められていた。

 あの巨体に近づくために、その中にあった鎧を利用させてはもらったのは覚えている。

 覚えているけど、あんな適当に置いてあったら気づかないって!



「『こんなしょぼい鎧でもお前の目を誤魔化すくらいの役には立ったな!』なんて啖呵を切ってましたね」


「ちょっと、スレイ?」



 なんだか、リオからの視線が痛くなってきた気がする。

 違うんです。

 俺はわざと雑に使ってたわけじゃないんですよ。

 必死に魔王軍と戦うために、その場にあるものを工夫して使っていただけと言いますか。



「そして、ヴァンパイアロードの魔眼を防ぐ時に咄嗟に拾ったのが、伝説の盾です」


「魔眼は防げてはいたけど、結局あいつの血の刃での攻撃であっさり切り裂かれてたあれが!?」



 その盾も、覚えている。

 古そうな盾だけど、丁寧に飾られていたから使えるんじゃないかと思って持って行った奴だ。

 ヴァンパイアロードの魔眼は遮れたけれど、その後の攻撃でその盾は一瞬で金属片の塊になってしまった。



「『ここまで近づけたら、こんな盾なんか必要ない!』って投げ捨ててたあれです」


「ええ……まじで……? いや、その……先代の勇者様、本当にすみません……」



 そんな貴重なものを、使い捨てみたいに使ってたとか、なんてことをしてしまったんだ……。



「そうやって落ち込むと思ったんで黙ってました。伝説の武器と言っても千年前のものなんで、現代の量産品の方がよっぽどクオリティが高いんですよね」


「えーっと、その、あれだ。人間の技術の進歩ってすごいな!」



 スヴェンが肩をガックリ落とした俺を慰めてくれた。

 伝説の装備を台無しにされたのだから、スヴェンも気落ちしているだろうに。

 もう、本当にすみませんでした……。

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