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「何カマトトぶってるんですか。どうせ毎日見ることになるくせに」

「こっちとこっち、どっちが私に似合ってますか?」



 食事を終えた俺たちは、服屋で自分たちの着る服を探していた。

 俺の方は、適当な服とズボンを何着か選んで買ったのだが、ジュリアも女の子ということで色々目移りしているようだ。

 ただ、



「……どっちでも似合ってるんじゃないかなぁ」



 ジュリアの問いかけに、俺は目線を向けることなくそう返す。



「スレイ、ちゃんとこちらを見て考えましたか? 適当に返事してるだけだったら最低男の称号を与えますよ」



 そんな俺の態度に不満そうな声を出す聖女様。

 けど、その、なあ。



「直視できるわけないだろ! それ女物の下着じゃないか!」



 見ろよ周りの女性客からの視線。

 なんか『そういうプレイなんですか?』と言わんばかりに突き刺さる多くの眼差し。

 俺が今、可視化できない針の筵になっているのが分かりませんか?



「何カマトトぶってるんですか。どうせ毎日見ることになるくせに」



 火に油を注ぐな。

 周りのボルテージが一段階上がった気がするぞ。

 というか気がするだけじゃない。

 実際キャーキャー言ってるのが聞こえるから。



「はいそれ以上は黙ってなさい! 普通の服なら俺も見て考えるけど、そういうのは自分で決めてくれよ!」


「それが結構買い直してたもんでしたから、自分で選ぶのも面倒になってきまして。どうせなら自分好みの女に仕立て上げようと企む夫の意見でも取り入れたほうが手っ取り早いかと」



 あいも変わらず人聞きの悪いことを言いよってからに……!

 というか、そもそもだ。



「下着なんてそんな買い直すことあるか? 流行り物の服なら分かるけども」



 ジュリアの胸当ては特注品だ。理由はあえて言わないが。

 だというのに、それを一々買い直すのは面倒だと思う。

 男には分からない女性の事情というものでもあるのだろうか。

 そう言うと、ジュリアは深いため息を吐き。



「すぐ胸が入らなくなるんですよ。今つけてるのもかなり窮屈になってきたので、買い直してるんです」


「………………そうか」



 まだ、成長しているのか。

 タダでさえデカいのに。



「……何いやらしい顔してるんですか、スレイ。冗談とか、からかい抜きで人前に出せない顔つきになってますよ。毎晩私をいじめてるくせに、こんなことで興奮するとはとんだ変態勇者ですね」



 ガチ目のトーンで忠告された。

 いや、でも、この話の流れなら見ちゃうだろ。

 それがジュリアの胸のことなら尚更と言うか。


 だが、そんな男の悲しい習性など女性陣には関係ないらしく、周りがヒソヒソ話しているのが聞こえてくる。

 やばい。すっごい居た堪れない。



「そういう話をこんなところで振らないでくれ……頼むから……」


「おやおやおやおや、これはスレイのとんでもない弱点を見つけちゃいました。今回は私の勝ちということでよろしいですか?」



 勝ち誇るジュリアの顔が腹立たしい。

 しかし、この場には俺の味方はいないという事実。



「俺が悪かったです! もうそれで良いからやめてくれ! 周りの視線が突き刺さるように痛いから!」


「ふっ……敗北を知りたい……!」



 そう言ってドヤ顔をするジュリア。

 なんで俺は、こんなしょうもないことで打ちひしがれているのだろうか。



「仕方ないですね。今度はちゃんと服の方を選ばせてあげますよ。よーく考えて選んでくださいね」


「分かったよ……」



 項垂れながらもジュリアの次の提案を了承する俺。

 下着を選ぶよりはかなりマシだ。

 というか、俺はこっち目的だったはずなんだけど。

 なんで俺は今、突然羞恥プレイをさせられたのだろう。



「それでは、こちらの服とこっちの服、どっちが良いですか?」


「えーっと……!?」



 ジュリアが持っていた服は、普通の服ではなかった。

 少なくとも普段着にするべきものではない。

 だって、



「お前それメイド服と学園服じゃねえか!? なんでそんなものがここにあるんだよ!」



 どっちの服も見覚え自体はある。

 メイド服の方は王城の内部で何度も見たし、学園服は王立魔法学園のものだ。

 どちらも再現度は高いと思うけれど、なんでそんなものを買おうとしてるんだコイツは。



「この店、そういう需要を満たすためのコーナーもありますので」


「どういう需要だよ! いや、やっぱり言わなくていい! なんとなく察しはついたから!」


「それはもちろん夜の生活の」


「言わなくていいって言ってんだろ!?」




   ◆




「で、なんで両方とも買ったんだよ……」


「スレイがどちらも好きそうだったので」


「一言も語ってないけど?」


「目は口ほどに物を言うって言葉がありましてね」



 それだと俺が節操ないみたいに聞こえるからやめろ。

 ちゃっかり普通の服も買ってやがったし……。



「頼むからさっきみたいに店内とかでああいう事言わないでくれ。恥ずかしさで死ぬわ」


「そしたら私が弔ってあげますね」


「マッチポンプじゃねえか」



 本当にいい性格してやがる。



「この服を使うにしても、どういう感じにします?」


「質問の意図が分からないんだけど」


「どっちが上とかそういう話ですよ」


「こんな道中でそういうこと言うのやめんかい」



 そう制止するが、ジュリアの口は止まらず。



「私って結構辛辣な喋り方してるのに、それでも私のことが大好きですし、もしかしてスレイってMだったりします?」


「そう言う趣味はねえよ! 旅に出た当初はマジでお淑やかな喋り方だったのに、なんか数日もしないうちにボロが出たからビックリしたくらいだわ!」



 勇者と聖女として初めて会った時は、ジュリアって丁寧な喋り方だったっけ。

 俺に対して失礼がないようにと気遣われていたのを覚えている。

 最初の魔物との戦いで、怖がりながらも逃げようとはしなかったりと、責任感のある真面目な子だなと思ったんだけども。

 なんか数日もしないうちにメッキが剥がれていく様を見るのは、正直少し面白かった。



「これでも聖女たれと育てられたもので、それっぽく振る舞う術は身につけさせられましたとも。まあ? スレイ的にはこう言う喋り方の方が好きなんですよねぇ? それとも、最初みたいに貴方に従順な聖女様キャラの方に好みが変わったなら、そういう方向もいけますよ? 他の方々にはそう言う喋り方ですから」


「俺の前では気楽にやってほしいし、好きな方で良いよ。どっちの喋り方の聖女でも本質は変わってない、俺の好きなジュリアのままだしな」



 どっちもジュリアの一部だしな。

 本質は変わってないんだから。



「……さてと、今日の夕食の材料でも買いに行きますか。今日はとろろと牡蠣とスッポンとほうれん草でなにを作りましょうかね」


「なんだよそのラインナップは?」


「気にしないでください。食べたらすぐ分かるんで」


「まあジュリアの料理ならなんでもいいけどさ」



 どんな料理でも、ジュリアの作ったものなら美味しいだろうし。

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