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「ナチュラルボーン勇者の人に言われるとは不思議な感じですけど、まあ褒め言葉として受け取っておきますね」

 こうして、俺たちはデートに出かけたわけだったのだが。



「貴方は本当になんなんですか……」


「そんなことを俺に言われても」



 身長差のせいで下からにはなるが、ジュリアによって睨まれてしまっている。

 別に俺が何かしたわけじゃない。

 それは神様に誓って言える。

 なんなら俺だってデートを楽しもうとしていたくらいだ。

 なのに……



「ちょっと街の外を出歩けば、女性がゴブリン達に攫われる瞬間を目撃して」


「あの子たちがトラウマを抱えずにすんで良かったじゃないか」



 まず最初に、少し街の郊外に出たら、ジュリアと同い年か少し下くらいの少女達がゴブリンの群れに攫われているところを発見してしまった。

 ゴブリンとは、一匹一匹はそこまでの強さはないものの、こうして集団で人間に襲いかかることがよくある魔物だ。

 武器を持ったり道具を使ったりと、人間で言えば、五歳児程度の知能はあるため、厄介な相手でもある。


 奴らは女性を攫うことが多いが……まあ、理由についてはあまり語りたくない。

 彼らが獲物として攫った女性は殺されはしないものの、彼女たちの尊厳を大いに傷つけるような扱いをされるからだ。

 そのくせ、繁殖力はとんでもないので、あっという間に数が増えること増えること。


 なので。



「ゴブリンを見かけたらその百倍はいると思えって言葉もあるし、奴らの巣を叩き潰すのは義務レベルだろ?」


「それはそうなんですが!」



 とりあえず、救助した人達は街に送り返した上で、巣にこもってたゴブリン含めて殲滅しておいた。

 巣の中を確認したが、幸い犠牲者はまだ出ていなかったのが救いだ。

 けれど、ゴブリンは野放しにすると碌なことにならないので見かけたら皆殺し、これ鉄則。

 


「その帰り道に、街目掛けて猛スピードで飛行しているドラゴンを見つけて」


「被害が出る前に討伐できて良かったし、臨時収入も貰えて、いいことだらけだな」



 そんで、山から帰るときに、街に向かって高速で移動しているドラゴンを見つけた。

 戦闘に関しては、前と同じように撃ち落としておしまいだったので割愛する。

 しかし、こんな王都に近い場所でドラゴンが飛んでいるとは珍しいな。



「そしたら、討伐報酬を貰った直後に、金持ちが道楽で連れてたグリフォンが暴走して」


「軽く躾けたらすぐ言うことを聞く良い子で良かったよ」



 魔物をペットにすること自体は法律では禁じられていない。

 極々稀に、人間と仲良くなる魔物もいるからだ。

 それでも上位種を手懐けてるやつは見たことないし、精々コボルトぐらいが関の山。


 なのに、なんでグリフォンなんて強い魔物をペットにしようと思ったかね……。

 幾分気性自体は大人しい方ではあるけれど、グリフォンってドラゴンとタメ張れるくらい強いんだけど。


 暴れてたのも、人間への敵意とかじゃなくて、腹が減って機嫌が悪かったってだけだからまだ良かった。

 もしそうだったら、例え金持ちのペットだったとしても、処分しなければいけないところだったから。


 それでも、多分これから暴れることはないだろう。

 グリフォンに向かって、『今度なんかしたら、またすぐ行くからな』って言っておいたから。



「折角のデートなのに、やってることが魔王討伐の旅の時と変わらなかったんですけど!? 毎度毎度、なんでこの短時間でこれだけのトラブルに巻き込まれるんですか!」


「だから、それを俺に言われても……昔からこういうことに巻き込まれやすい体質だからとしか……」



 俺はなぜか生まれつきトラブルに巻き込まれやすい。

 自分がその騒動の原因というわけではないけれど、事件との遭遇率が多いのだ。

 そのせいで、一時期は俺のせいで不幸になる人間が出てくるのではと思い悩んだこともあったくらいで。

 その時は、スヴェンにボコられて立ち直れたから、今となってはいい思い出だ。



「……まあしかし、全て即座に解決できましたので、まだまだ時間はあります。ここから私の完璧なデートプランを……」



 俺の体質のせいでジュリアの予定通りにデートが進まなくなっているのは、正直申し訳ない気持ちになる。

 ただ、そういう発言をしたら、



「離してくれ!」


「馬鹿野郎! お前も火事に巻き込まれるぞ!」


「でも、あの家には俺の子供と寝たきりの親父がまだ……!」



 こういうことになるからなぁ。

 近くで火事があったらしく、男二人が言い争っている。

 片方の男性が向かおうとしている先には、確かに煙が立ち上っていて。



「すまん、ちょっと行ってくる」


「もー! 本当にもー! スレイのそういう優しいところは本当に好ましいですけど、それでも、もー!!」




   ◆




「まったく、貴方ときたらどこまで勇者っぽく振るまう気ですか。どれもしれっとした顔であっさり解決しますし、英雄になるべくして生まれた定めなんですかね」



 火災に巻き込まれた老人と子供を救出した後、レストランに入りようやく人心地つけたと思ったら、ジュリアが呆れたようにため息を吐きながら皮肉っぽく言ってくる。



「本当に悪かったって。ジュリアとのデートなのに慌ただしくして申し訳ない気持ちはあるんだよ。それでも困ってる人がいるのに見ないふりをするのってなんかすわりが悪くってさぁ」


「別に責めてませんよ。それで困ってる人を知らんぷりするような男だったら、私は貴方に好意を抱くことはなかったんですから。……あくまでちょっと。ちょっとだけですからね」



 あいも変わらず照れ隠しが下手な女である。

 大体、ジュリアも俺に文句を言えた立場ではない。



「なんだかんだ、ジュリアも俺と似たような人間だしな。傷ついた人がいたらすぐに治しにいくし、悩んでいる人がいるなら相談に乗ってあげる。親しい人間にだけ口が悪いのが玉に瑕だけど」



 さっきのゴブリンに攫われそうになった女の子達や、火事で負傷した人達を回復魔法で癒してくださったのは、この目の前にいる聖女様だ。

 しかも、治したことへのお礼も『貴方達が無事だったのなら、それが何よりの報酬です。どうかお気をつけて下さいね』と言って、全部断ってたほど。

 俺の前ではだらけた事を言うが、ジュリアの本質はとても優しい女の子と言うことを俺はよく知っている。



「やれやれ、このジュリアがそんな良い子ちゃんだとでも? 怪我を治してあげるのなんて私には朝飯前なんですよ? ちょっとした労力で賞賛とか名声とか得られるならコスパ最強じゃないですか。それに悩みを聞くのも相手の弱みを握ることにもなりますからね」



 悪どい顔をしながら不穏なことを仰るジュリア。

 ……どーしてこの子は無駄に悪ぶるのかねぇ。



「そんなこと言いながら、治療した相手から感謝されたら本当に嬉しそうにするし、相手の悩みが解決したら安心したように笑うじゃんかよ。つーか、握った弱みで脅迫したところなんて見たことないんだけど」


「そんなもの、表に出したら評価がダダ下がりになるからこっそりやってるに決まってるでしょう。この店だって、その悩める子羊から聞いた情報で選んだんですから」


「で、どんな悩みだったんで?」


「『この店の料理が美味しすぎて太りました。そのせいでレストランは何も悪くないのに逆恨みしてしまいました』と懺悔されましたよ」



 可愛らしいお悩みですこと。

 あとしれっと教会で懺悔を聞く仕事やってるあたり真面目だな。



「……今更だけど、ジュリアも、食べすぎるなよ」


「貴方も知っているでしょう。私、食べたものが全て胸に行く体質なので」



 そう言いながら、ジュリアは自分の豊満な胸を両手で持ちあげて、揺らしてくる。



「こんな人がいる中で変なアピールするな! ほら、注文した料理来たし!」


「お待たせしました。カルボナーラとボロネーゼ、フォッカチャとチーズグラタンに、カプレーゼでございます」



 少し、ほんの少しだけその光景に目を奪われながらも、ジュリアに叱咤した。

 そんなやかましい俺たちをよそに、黙々と目の前のテーブルに料理を並べていくウェイターさん。

 さすがプロだ、違うなぁ。


 若干俺の方に多めに並べられた料理を、それぞれで置き直していく。

 俺はカルボナーラを、ジュリアは残り全ての皿を、近くに寄せる。



「相変わらずジュリアはたくさん食べるなあ」


「女性に対して大食いだなんて失礼ですよ。相変わらずスレイはマナーもデリカシーもない男ですね」



 そんだけの量を一気に頼む奴に言われたくない。

 注文するにしても、もうちょっと踏め段階を。



「俺も結構食べる方なのに、今ある料理だけでも俺の三倍くらいは食べてるだろ。あの質量がその体のどこに行ってんだよ」


「ですから、ここに」


「だから胸を強調せんでいい」



 そういうアピールするのをやめてくれ。

 負けるだろ。俺の理性が。



「真面目な話、治療魔法ってかなり体力を使うんですよ。怪我した人の失ったエネルギーを私が代わりに補填している形ですから。さっきの女の人や、火災にあった人達の治療をしてたら、そりゃお腹も減りますよ」


「へー、そうだったんだ」



 俺も少しだけではあるけど回復魔法は使える。

 主に小さい頃から怪我しまくってた俺自身の治療のために必死で覚えたものだけど。

 確かに、怪我した日は異様に腹が減っていた気がする。

 ……うん?



「あれ? じゃあ、あの旅の最中で俺の怪我を治すのってかなり危なかった?」



 俺の拙い魔法で空腹になるくらい体力を持っていくのなら、それよりはるかに効果の大きいジュリアの魔法なんて、さらに負担が大きいのでは?

 そう思い、問いただすと、



「そこそこエネルギー枯渇している状態は続いてましたよ。何度かぶっ倒れそうになりましたし。だから道中もっしゃもっしゃ食べながら移動してたわけですね」



 ジュリアは、ちょっと風邪をひいたみたいなノリでとんでもないことを言い出した。



「なんでそんな大事なことを言わなかったんだよ。それを知ってたら、俺ももうちょっと気をつけて……」


「優しい貴方のことですから、そうやって心配すると思ったんですよ。私がやりたくてやったことだから気にしないでください。大体、そんなの気にして魔王討伐が遅れたら元も子もないじゃないですか。まあ、今は差し迫った脅威もないんでバラしましたけども」



 ……やっぱり、コイツ。



「……お前、自分で考えてるより、かなり聖女だと思うぞ」


「そうですか? ナチュラルボーン勇者の人に言われるとは不思議な感じですけど、まあ褒め言葉として受け取っておきますね」



 ジュリアはよく分かっていなさそうな表情をしながら、そのままボロネーゼを食べ始めた。

 命懸けで俺を助けてくれたことを、偉ぶるでもなく、極々自然なことと思っているかのように。


 ……そりゃ、神様も贔屓しますわ。

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