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「まるで王様みたいなことを言いますね、このおっさん」

「ああ王様ですか。乙です」


「そんな軽いノリで挨拶しない!」



 ジュリアは王様のことを何だと思っているんだ。

 本来であれば、ちゃんと敬意を払ってしかるべき相手だというのに。

 そんな不躾なジュリアのあいさつを聞いて、王様は、



「ふむ……乙じゃ、ジュリアよ」


「王様も毒されないでください!」



 おんなじノリで返してきた。

 思わずツッコミを入れると、王様は苦笑いしながらこちらに振り向く。



「だってなぁ。儂だって王とは言えども人間だぞ? なにやら王という肩書を持っている人間は、冷徹で血も涙もない性格な奴と誤解されがちだけど、どんな王も人間らしい感情もあれば疲れもする。気を張らんでいいところでもビシッとしてたら寿命も縮むというものよ」



 そこでいったん区切り、俺とジュリアを見やって、



「それは勇者や聖女にだって当てはまることではないか?」



 そう問いかけてきた。



「それは……」



 俺は、そもそも勇者に向いている人間だと思ったことがない。

 生まれは田舎で、スヴェンやリオと一緒に遊んで暮らしていただけの一般人だ。

 それが、なんの間違いか勇者に選ばれ、ジュリアと旅をすることになっただけの男。

 実際の俺は、ジュリア相手にも臆病になってしまうほどに、勇気なんてない者だ。


 それでも、皆を不安にさせないように、勇者として振る舞っていたところもある。

 そして、その肩にかかった重責を煩わしいと思ったことがないと言ったら、嘘になる。

 王様の言っている言葉を聞いて、俺は身をつまされる思いになった。



「スレイがいくら強いからと言っても、ジュリアがどれほど奇跡の力を行使できても、人間である以上は、お前達にだって喜怒哀楽はある。誰かを好いたり愛することもあれば、逆に他人を憎んだり恨んだりすることもあるだろう」



 王様は、なんでもないように話していることは、当たり前のこと。

 けれど、その当たり前は、今まで忘れていた事実だった。



「今の儂は其方達を長年にかけてこき使ったこの国の王ではなく、お前達を昔から知っているアレックスというおっさんだ。こんなプライベートにまでかしこまった態度をせんでくれ。気が休まらんでな」


「……分かりました。アレックスさん」



 王様――アレックスさんの言葉に従い、肩の力を抜いた態度に直す。

 そういえば、最初にアレックス王と謁見した時も、こういう風に気安く話しかけてくれたっけ。

 昔は王をつけずに、こうしてアレックスさんと呼んでいたものだ。

 今は逆につけないと違和感を覚えてしまうけど。


 本人が王とつけて欲しくないそうなので、口ではそう呼ばせてもらうけれど、変な感じだ。

 ついついアレックス王と呼んでしまう。

 これも大人になると言うものなのだろうか。

 なんて、懐かしがっていたら。



「なんだったら、そこの素直を通り越して考えなしの発言ばかりするジュリアを見習っても良いんじゃないかのう」



 急に矛先がジュリアに向けられた。

 だが、残念でもなく当然だとしか言えない。



「あれ? 王様、さりげなく私のことをディスりましたか? 神からも愛された聖女様で、この世のアイドルともいうべき美貌を持ち、スレイの妻であるこの私のことをバカにしました? 本格的に私たち二人を敵に回す覚悟ができたと言うわけですかね。ならばよろしい、かかってきなさい。我々は陰謀や暗殺や追放には絶対に負けませんよ!」



 そして思った通り、アレックス王に噛み付く聖女様の姿がそこにあった。

 本当にそう言うところだぞ。というか、ずいぶん穏やかじゃないことも言ってないか?

 けれど、アレックス王は、平然とした様子で返す。



「そんなことないぞ。勇者の妻であるジュリアよ。よっ! 世界最高のカップル! おしどり夫婦!」


「いやぁ、そんなぁ……えへへ」


「ガチ照れしてる……」



 この聖女様、おべっかに弱すぎる。

 変なところで素直なやつだ。



「そもそも、お前達を害そうという気はこちらには全くない。個人の感情からも、政治的な判断からもな」


「そうなんですか? 国に帰るまでは、なんだかんだで政治的なあれに巻き込まれると思っていたんですけど……」



 この国に帰る前に、ジュリアが俺に婚約を提案してきたのはそれが理由だ。

 実際帰ってきたら、『領地を治めないか?』みたいな話はされた訳だし。



「ぶっちゃけ、ワンチャン一生飼い殺しか処刑くらいはあると思ってました」


「おいジュリア!」



 折角濁した言い方をしたのに!

 それを聞いたアレックス王は、心底嫌そうな顔をして。



「そんなことせんわい。あの場でジュリアが言ったように、お前達はこの国の全戦力をぶつけても勝てないだろうしな。というか二人に勝てる武力があるなら、お前達に魔王討伐なんか頼まんでこっちで粛々と話を進めてたわ」



 ごもっともな返答ありがとうございます。

 そりゃ、軍属でもない人間を頼る前に、自前の戦力でどうにかするのが王様としては当たり前だ。



「それでも、我々に野心があるとか考えたりはしなかったので? 数年かけてプランを練って、国家転覆を狙っていたとか」


「この国が欲しいんだったら、そんなまどろっこしいことをせんでも、ここに帰って来ずに、二人揃って国に喧嘩売ってそのまま勝つのが一番手っ取り早いじゃろ。この国どころか、世界規模で敵対してもなお優勢だった魔王を相手に勝利してるんだし。もしそうなったら本気で怖いけど」



 わざとらしく怖がったふりをするアレックス王。

 けれど、その目は俺たちのことを全く疑っていないようで。



「しかし、其方達はそうしなかった。魔王を倒す旅は、長く、苦しい道であっただろう。それでも其方達は、我々人類のために、折れず、挫けず、諦めず、何度でも立ち上がってくれた。途中で投げ出さず、苦しむ人たちのために、戦って、戦って、戦い続けてくれた。そして遂には魔王を倒し、この世の中に平穏をもたらしてくれた!」



 どんどんとアレックス王の言葉に熱がこもっていく。



「つまり、二人とも人間に絶望なんかしておらず、我々のことが好きだから頑張ってくれたのだ。まだ幼い其方らを苦境に放り込んでも、魔王に並び立つほどの力を得ようとも、我々を見限らなかったのだ! であれば、それを完遂してくれた以上に信頼に足る行動など、この世のどこにある!」



 心の底から、アレックス王は、俺達のことを信頼していることが伝わってくる。



「そんな純粋すぎる好意を疑い、砂をかけるなんて馬鹿丸出しよ。それを信じられぬ王がいたら、国に滅びをもたらす暗君だ。さっさと追放するか首をすげ替えた方が良いほどのな」


「王様……!」



 笑顔でそう締めくくるアレックス王に、俺は感極まり。



「まるで王様みたいなことを言いますね、このおっさん」



 ジュリアはマイペースに冷や水をぶっかけてきた。



「まるでじゃなくてマジもんの王様なの!」


「すみません。その女一回逮捕された方が良いかもしれないです。国家反逆罪とかで」

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