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「本当に貴方の料理は面白いですね。錬金術師でもここまでの芸当はできないでしょう」

 どうにかして拗ねたジュリアの機嫌を取ることに成功したが、



「罰として、今日の昼食はスレイが作って下さい」



 などと命令してきた。

 俺は料理をすること自体は嫌いではない。

 嫌いでは、ないのだが。



「あの、本当にいいのか? 俺が作って」


「いいじゃないですか。ここは魔物がはびこる外ではなくて町の中。どんなものが作られようと問題ありません」



 恐る恐る聖女様に聞き返すが、返ってくる答えは変わらず。

 ……大丈夫かな、俺がキッチンに立って。



「そんなに不安がらなくてもいいじゃないですか。スレイの料理はちゃんと美味しいんですから」


「でもお前、野営の時とかは基本的にジュリアが料理作ってたじゃないか。むしろ、俺には絶対に料理させないレベルで」


「こういうところだからいいんですよ。緊急事態でもありませんし」



 俺の肩に顎をのせながら、だらけた様子で許可を出すジュリア。

 旅の途中でも俺が料理を作ることはあったが、危険地帯では俺は料理の手伝いすら許可されなかったというのに。



「なんせ、スレイの料理は美味しいですけど、それ以上に面白いですからね」


「自分でもどうしようもないのがなぁ」


「いいから、さっさと作る」



 そこまで言うのなら、作ってもいいけど。

 ……どうなっても知らんぞ。


 まず用意するのは、スパゲッティ。

 お次にチーズと卵、それにベーコンと黒コショウ。


 まずは卵を割って、ボウルでかき混ぜる。

 そこにすりおろしたチーズを加えて、ドロッとするまでさらに混ぜ合わせていく。

 これでソースの完成だ。



「ここまでは普通ですね」


「レシピ通りに作ってるからな。料理でアレンジとかしないタイプの人間だよ俺は」


「ええ、存じていますとも」



 背後から、ジュリアが俺の調理をのぞき込んでくる。

 料理が得意な彼女が、俺の何の変哲もない料理を見たところで面白くもなんともないはずだ。

 はずなんだけど……。


 続けて、フライパンにオリーブオイルを少し垂らして、小さく切ったベーコンを投入。

 火力は中火ほどで、ベーコンがカリカリになるまで焼いていく。



「ベーコンの焼けるいい匂いがしますね。現時点では」


「変に手を加えてないし、当たり前だろ」


「貴方の場合、当たり前じゃなくなるのが不思議です」



 ほっとけ。


 並行して茹でていたスパゲッティを、気持ち固めの状態でベーコンの入ったフライパンへ投入。

 少し茹で汁も加えて、中火にかけながら、和える。

 ある程度時間がたったら、フライパンの中身を先ほど作ったソースの中に入れて、全体的に絡ませていく。

 そうして絡めたものを再度フライパンに入れ、弱火にかけながら、ソースが固まらないようにかき混ぜる。



「ここからです。ここからがスレイの料理なんですよ」


「そういう期待はしないでほしい」



 好みの粘度になったので、二人分の皿に盛りつけて、その上から黒コショウをかける。

 そして出来上がったのが。








「はい、麻婆豆腐」


「そうはならないでしょ」



 なってるだろうがよ。



「なんでカルボナーラを作ってたのに、こんな共通点が欠片もない辛い食べ物になるんですか。材料も何もかもが違うでしょうに」


「知らねえよ。俺だって何でこんなことになるのか分からねえし」



 そう。俺が作る料理は何故か、最終的に全く別の料理になってしまうのだ。

 途中までは普通なのに、どこかのタイミングで別の料理にすり替わってしまっている。

 本当に俺は自分勝手なアレンジはしていないのに。

 というか、独創性のあるアレンジだとしても、材料から変わってしまっていることの説明がつかない。



「本当に貴方の料理は面白いですね。錬金術師でもここまでの芸当はできないでしょう」


「褒めてるの、それ」


「馬鹿にしてます」



 ちくしょう。



「これだと、スレイは飲食店で働くのも無理ですね。注文と違う料理が出てきたら大体のお客さんが怒ってしまいますし」


「俺のただでさえ少ない就職先の選択肢が減っていく……」



 なんなら、一時はジュリアと喫茶店でも開くことを夢見たこともあったけれど、こんな体質では儚い夢に終わる他ないと気づいた時、結構ショックだった。

 できた料理は我ながら美味ではあるのだけれど、食べる人からすれば不気味なものでしかない。



「これで呪いとかじゃないのが変ですよね。呪いだったら私が解呪できたのに。あー辛い」


「慌てないで食えよ。……嫌がらせでしかないのに呪いじゃないとかどういうことなの」



 辛そうに麻婆豆腐を食べるジュリアを尻目に、軽く落ち込む。

 旅の最中でジュリアが俺に料理をさせなかった理由がこれ。

 普通の気候のところならまだいいけれど、極寒の地でアイスクリームを作り出したり、逆にクソ暑い場所で激辛スープなんぞ作ってしまった日には酷いことになるのが目に見えているからだ。



「本当に味は良いので、こうしてランダムに作られる料理をワクワクしながら待つというのも悪くないですよ」


「そいつはどうも」



 ジュリアが珍しく素直に褒めてくれるが、それでも気分は少し晴れない。

 もしやこの世には俺に適した仕事がないのでは?



「所詮俺は、魔物を倒すことしかできない脳筋野郎ってことか……」


「まあまあ、それで世界救ってるんですからいいじゃないですか。ほらあーんしてあげますよ。聖女様からのあーんなんて、他の男性だったら大金を払ってでもやってもらおうとすること請け合いです」



 そう言って、聖女様は麻婆豆腐を掬ったスプーンをこちらに差し出してくる。

 ニヤニヤした笑顔と共に。

 ……そうやって出されたなら、仕方ない。



「ほら、食べさせてくれよ」



 こちらも口を開き、待ち構える他あるまいて。



「え、えーっと、本気ですか?」


「本気だぞ。ジュリアから食べさせてくれるなら嬉しいし」



 自分で始めたことだろう。

 その責任から逃げるな。

 こちらは食べさせてくれるまで徹底抗戦の構えだぞ。



「いいから食べさせろ。あーん」


「はー! そこまで言うならやってあげましょうとも! なんですかそんなに間抜けにアホみたいに大口を開けて、餌を待つ雛鳥ですか貴方は。別に可愛らしく見えたりとかそう言うのはないんですけど、むしろそんなバカみたいな顔をしているのが見るに耐えないと言いますか? こんな醜態を晒し続けさせると言うのも可哀想ですし? こうして結婚した夫が望むのであれば、まあ、やって差し上げても良いかと思うわけですよ。あ、言っておきますけど、さっき言ったようにこのアーンは人類史上最も高値のサービスですのでそれなりの対価をもらいますけど構いませんね? 具体的には、今日の夜のコトが終わった後は腕枕と愛の言葉を囁くことを要求します。これはスレイに愛されている実感が欲しいからとかではなく、以前申したように世間に対して私たちは表向きは関係良好なおしどり夫婦であることをアピールする義務があるのです。そのためにはこういう隠れたところから親密になる準備をする必要があると言いますか? ほらよく言うじゃないですか、神は細部に宿るって。つまりはそう言うことなんですよ理解しましたね? 理解しろ」


「分かった分かった」



 いつものジュリアの癖を聞き流して、アーンを要求する。

 真っ赤になったジュリアが覚悟を決めて、手を震えさせながらスプーンをこちらに向けたところで、



「失礼します、スレイ殿、ジュリア様! 突然の訪問になり申し訳ありませんが、いらっしゃいますでしょうか?」



 玄関から扉をノックする音と呼びかけの声が。

 この声は、メレディスさんだったか。



「あ、はーい今行きまーす! ほらジュリア、お客様だぞ。一旦それしまえ」


「…………はーい」



 不貞腐れてる。

 俺だって惜しい気持ちになってるんだから、どうにか我慢して欲しいところだ。

 なんせ、騎士団長様が直々にやってこられたのだから。


 また、何か厄介ごとでもあったのだろうか。

 それなら喜んで話を聞くけれど。

 一体何の用かと玄関のドアを開けると。



「うむ、新婚生活はどうだ、スレイ達よ」



 目の前にはメレディスさんの横に、王様の姿が。

 ……うん。



「王様ともあろうお方が気軽にこんなところに来ないでくださいよ!」



 そう叫んだ俺は、何も悪くないと思う。

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