朔弥の約束――秋風に舞う記憶~秋~
秋は、過去と現在が交錯する季節。
枯れ葉が舞い落ちるたびに、遥か昔の記憶が風に乗って蘇る。
これは、ある約束の物語――
戦乱の世に生きた二人の魂が、時を超えて繋がる瞬間を描いたもの。
主人公・惟次郎は、一つのペンダントを通じて、長い年月の向こう側にある想いと向き合うことになる。
それは、彼の生まれる以前に交わされた約束。
それは、果たされぬまま消えた未来。
そして、秋風の中に、朔弥様の魂は今も息づいている――。
この物語が、読者の心にそっと秋の余韻を残すことを願って。
秋の風が静かに吹き抜ける夜、惟次郎は胸元のペンダントを握りしめていた。
訪問者の言葉が、枯れ葉の舞う静寂の中に沈んでいく。
「……惟次郎様。あなたの傍には、今も朔弥様がいらっしゃいます。」
夜長の冷えた空気が、淡く月の光を滲ませる。
「……朔弥の?」
訪問者は静かに頷き、ゆっくりと続ける。
「戦乱の世に生き、果たせぬ約束を残して逝かれた方……」
「そして――その約束は、あなたの手元に残されている。」
紅葉が風に舞い、惟次郎は目を伏せる。
静かにペンダントを開くと、月明かりに照らされた紋様が浮かび上がった。
「これは……?」
訪問者の瞳が微かに揺れる。
「それは、朔弥様とその恋人がともに作り上げた証。」
「彼女はただ戦うだけではなく、愛する人と共に未来を築こうとしていました。」
惟次郎の指先がペンダントをなぞる。
「……その恋人とは?」
訪問者は静かに答える。
「黎真様です。」
惟次郎の胸の奥がざわめく。
その名を口にした瞬間、何かが揺らぎ始める。
「黎真……。」
訪問者は続ける。
「朔弥様と黎真様は、戦乱の世で出会いました。」
「剣を交わす中で、互いの心を知り、そして誓いを立てたのです。」
「ともに生きる未来を。」
「しかし、その未来は訪れませんでした――。」
風が優しく吹き抜ける。
惟次郎はペンダントを握りしめる。
その小さな光が、秋の夜の静寂の中で確かに輝いている。
「……朔弥が、この約束を果たせぬまま消えたのか?」
訪問者は静かに微笑み、言葉を続けた。
「朔弥様の魂は、秋風の中にあります。」
「あなたがその意味を受け入れるならば――きっと、答えが見えてくるでしょう。」
惟次郎は胸の奥で、長く眠っていた何かが動き出すのを感じた。
秋の夜風が吹き抜ける中、彼はふっと夜空を見上げる。
月が、静かにそこに浮かんでいた。
**(短編・終)**
秋の物語は、どこか切なさを伴うものが多い。
それは、枯れ葉が舞うたびに過去の記憶が揺らぎ、やがて静かに消えていくからだろう。
朔弥様の物語もまた、時の流れに埋もれながらも、決して消えることのない想いを描いている。
惟次郎は、一つのペンダントを通じて、彼の知らぬ過去と出会い、そしてその約束を知る。
これは、戦乱に生きた人々の心の痕跡を辿る物語であり、
同時に、秋の風の中でそっと囁かれる、未だ果たされぬ約束の物語でもある。
この短編が、読者の心に秋の余韻を残し、
誰かの記憶の片隅で静かに揺れ続けてくれることを願って――。