46話 《完》平和なカルディアリアム領へようこそ
「そ、そんな女よりも絶対、私の方が良い女ですよ!?」
「俺にはどこからどう見てもフィオナの方が魅力的に見えるけどね。まぁいい、悪いけど、君と意味のない議論をするつもりはない。君達がするべきは、ここから出て行くことだけだ」
「そんなぁ!」
「フィオナ、もう一度、もう一度俺と結婚しよう! 今度は大切にするから!」
「絶対に嫌」
ローレイと結婚するくらいなら、今度こそ独身を貫いた方がマシよ。
「さようなら、ローレイ。もう二度と会うことはないでしょうけど、お元気で」
今後、貴方達がどうなろうが、私の知ったことではない。
私に復縁を迫った男と、他の男に乗り換えようとした女、これから二人が一緒になるのかも知らないけど、精々、仲良くすればいい。貴方達の望んでいた結婚がやっと出来るんだから、喜んでもらわないと。
「フィオナ! フィオナ!」
「アルヴィン様ぁ!」
叫ぶ二人は使用人達に連行され、屋敷から追い出された。
「ふぅ、やっと終わったわ」
「お疲れ様でした、フィオナ様」
「ええ、ジェームズもお疲れ様。帰りが遅れてごめんなさいね、陛下から呼び出しがあったものだから」
「大丈夫ですよ。それよりも……アルヴィン様との婚約が決まったようで、おめでとうございます」
「違うから! まだ決まってないから!」
アルヴィンの言う通り、ジェームズは何となくでもアルヴィンがただ者ではないと気付いていたようで、すんなりと彼の正体を受け入れたようだ。そして、彼の言葉をそのまま受け取った。
「おや。アルヴィン様から口説かれているのでは?」
「口――説かれているかもしれないけど、今、保留にしてもらってるの!」
「またローレイ様のようなロクでもない男に引っかかるよりも、アルヴィン様なら、安心してフィオナ様をお任せ出来るのですけどね」
耳が痛い! ロクでもない男に引っかかって迷惑かけてごめんなさい!
「ジェームズは良いこと言うなぁ、流石は、カルディアリアム伯爵家の執事」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
二人共、本当に仲良くなったなぁ。これなら、私と結婚した後も上手くいくよね。カロルともイリアーナとも顔見知りだし、どうしよう、アルヴィンとの結婚を拒む理由がないかも……
「ではフィオナ、じっくり婚約のことを話し合おうか?」
「――――し、仕事が終わってからね」
最後の悪足搔きに仕事を理由に引き伸ばしてみたのだが、仕事終わりの深夜、二人っきりで話し合うことになるのに気付いた時には、もう手遅れ。
数日後には、正式にフィオナとアルヴィンの婚約が決まった。
ローレイとキャサリンの二人は家を追い出された後、あのまま喧嘩別れをし、別々に行動したとは聞いたが、その後の行方は詳しくは知らない。
一度、ミラーシェのところにキャサリンが行ったみたいだが、『こんな貧相な生活、絶対に嫌!』と言って、母の手を振り払ってまたどこかへ行ってしまったらしい。その後の行方は不明。
ローレイは生家であるクィクリー伯爵家へ戻ろうとしたが、塩を撒いて追い払われたらしい。その後の行方は不明。
もう私には関係ないので、どうでもいいですけど。
「フィオナ」
「あら、アルヴィン、お帰りなさい」
ローレイに滅茶苦茶にされたカルディアリアム領は、皆の尽力あって、正常に戻った。
「今回の監査はどうでした?」
「ん-、まぁ、様子見といった所かな」
アルヴィンは監査員の仕事は卒業したものの、陛下から頼まれた時は、カルディアリアム伯爵である私の婚約者を名乗り、様々な貴族のもとへ行って監査を行っている。
「アルヴィンは本当に仕事が好きね」
「フィオナに言われたくはないけどね」
「っ! 急にくっつかないで下さい!」
「婚約者なのに?」
隙あらばスキンシップを図ろうとするアルヴィンには、困ったもの。全然慣れない私も、困ったもの。
「陛下に、暫くは仕事をいれないようにお願いしたから、二人でゆっくりしようか」
「いえ、私は仕事が山積みなので」
もっともっと、カルディアリアム領を豊かで住みやすい場所にしていくのが、今の私の目標。
「では、俺も手伝うから、早く終わらせようか」
「……ありがとう」
これからもカルディアリアム伯爵として、アルヴィンと一緒に、この地を平和に、統べていく。
完




