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45話 さようなら

 


 カルディアリアム伯爵邸――



「俺は出て行かないぞ! 実家にも勘当されて行く宛がないのに、ここを追い出されたら、路頭に迷うしかねぇんだよ! 離婚したとはいえ、一度は夫だった男なんだから、最後まで面倒みろ!」


「私だって、今回の件がお父様の耳に入って絶縁を言い渡されたから帰る場所がないんですよ!? それもこれもフィオナ様の所為なんだから、責任取って、私達を永遠に養って下さい!」


「――――阿呆なの?」


 帰って来て、現状を見て一言。

 予想通り、ローレイとキャサリンは二人揃って物置部屋に籠城し、出て行こうとしなかった。いや、他人の面倒を見る義務がどこにあるの? どんな暴君よそれ。


「五月蠅い! いいから、文句言わずに面倒を見ろ!」


「勿論、こんな汚いお部屋じゃなくて、綺麗なお部屋を用意して下さいね! 食事だって、私達に相応しい豪華なものを用意して下さい! メイドだって付けて下さい! お小遣いも毎日贅沢が出来るくらい渡して下さい!」


 要求がえげつないな。誰がその要求を呑むと思ってるの? 呑むわけないでしょ。


「フィオナ様、申し訳ありません。先程から出て行かせようとはしているのですが……」


 申し訳なさそうに頭を下げるジェームズ。


「大丈夫よ、こっちで処理するから」


 周りを見るに、穴の空いた壁に、割れた窓ガラス、大分暴れ回ったのが見て取れる。人の家をこんなに壊すなんて、慰謝料請求に弁償代も上乗せしないと。


「ローレイ、キャサリン、無駄な足掻きは止めて早く出て行って」


「誰が出て行くか! お前さえ余計なことをしなければ、俺はここで、カルディアリアム伯爵として生きていたのに!」


「いえ、それも無理だったと思うけど」


「んなワケねーだろ! 俺はここでお前なんかよりも立派に領主をやってたんだ! 今からでも伯爵の爵位を俺に渡せ!」


 何言ってんだ、こいつ。

 まぁ、ここで仮に私がカルディアリアム伯爵の爵位を渡すと言っても、無駄なんだけどね。


「――――君みたいな愚かな男がカルディアリアム伯爵になるなんて、陛下がお許しになるワケないよ」


「ああ? って、お前、またフィオナの補佐官かよ! 関係ない奴がいちいちしゃしゃり出てくんな!」


 オルメシア帝国のウィスキー陛下は、腐った貴族を野放しにするほど、愚かな皇帝陛下では無い。その証拠に、カルディアリアム伯爵領に、自分の側近である有能な監査員を派遣した。


「改めて自己紹介させて頂くよ、俺の名前はアルヴィン=プラティス。プラティス公爵の息子であり、ウィスキー陛下にお仕えする監査員だ」


「へ……プラティス公爵!? 陛下の監査員!?」


 アルヴィンは言った。

 この仕事をしている上で一番楽しいのは、自分の正体を明かした時の相手の反応だと……うん、やっぱりいい性格してるよ。


「いい加減、姿を見せてくれるかな? それとも、俺をこのままここで待たせると?」


「あ――開けます!」


 アルヴィンの圧に、立て篭り犯はあっさりと扉を開けた。

 私は知らなかったけど、プラティス公爵と言えば、陛下の側近としてそれはそれは有名な貴族らしく、彼等の一声で爵位を剥奪された貴族や、牢獄行きになった者達も数多くいるという。


「ローレイはもうフィオナとの離婚が成立したんだから、さっさとここから出て行ってくれるかな?」


「え……と、あの、ここを追い出されたら、他にいくところが……」


「はぁ、フィオナにあれだけ時間を与えられたのに、君達は一体何をしていたんだか」


 新しく仕事を見つける時間も、住む場所を探す時間も、私は十分に与えてあげた。それをせずにいつまでも不満不平を口にして、私からカルディアリアム伯爵の爵位を奪い返す気でいた貴方達が悪い。そんな未来は絶対に来ないと忠告してあげていたのに。


「そんなもの、他人になったフィオナには関係ないよね? このままここに居座る気なら、それ相応の対応を取ってもいいんだけど?」


「ひっ!」


「ア、アルヴィン様! 私、実は一目見た時から、アルヴィン様のこと素敵だなって思っていたんです!」


「はぁ!? ふざけんなよキャサリン! 俺との愛はどうした!?」


「止めて下さい! 私、貴方がこんな甲斐性の無い人だったなんて思わなかったんです! ローレイには失望しました!」


「なんだと! この尻軽女が!」


 ついさっきまで愛を誓い合っていた相手でしょうに、なんて醜い争い。


「俺を口説いてるつもりなのかな?」

「はい! 私、凄い可愛いでしょう? 私なら、アルヴィン様の隣に立つのに相応しいと思うんです!」


 選ばれると自信満々なキャサリンは、私を見て不敵に微笑んだ。

 ああ、私から一度男を盗ったので、今度だって盗れるに違いないと思っているのね。


「残念だけど、俺は今、フィオナを口説いている最中だから、お断りするよ」


 ――止めて! こんな使用人も沢山いる場でそんなこと言わないで! と内心叫んだけど、口に出してしまったものはもう遅い。ジェームズもモカも驚いた表情を浮かべながら私を見つめたので、そっと視線を逸らしておいた。



 

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