42話 アルヴィンの正体
「……わ、分かり……ました」
力無く頷くローレイ。
残念でしたね、これで貴方がカルディアリアム伯爵の座を手に入れることは、未来永劫出来なくなった。それどころか、このような失態、他の爵位を手に入れることは勿論、貴族全員の笑いものになることは間違いない。
隣で魂が抜けたようなローレイを見ると、自然と口角が上がった。ああ、思っていたよりも、私はこの人のことが嫌いで、鬱陶しかったのね。
***
「フィオナ様、陛下がお呼びです」
「陛下が?」
領主会が終わり、会議室を出ようとすると、デリート侯爵から声を掛けられた。デリート侯爵は皇室で魔道具の研究主任を務めており、陛下と繋がりが深い。
陛下から呼び出し……なんだろ。
「分かりました」
デリート侯爵に案内され、皇室の奥へと進む。そこには、私の補佐官であるアルヴィンも勿論、同行していたのだが――
「アルヴィン、陛下が良いワインを持ってきてくれたかと楽しみにしていましたよ」
「残念ながら、持ってきてないな」
「あーあ、陛下が悲しみますよ」
「俺は一応、仕事中なんだけどね」
「陛下がお酒が好きだと知っているのに、アルヴィンは薄情な男ですねぇ」
「どうせデリートもワインのおこぼれに与りたかっただけだろ」
「バレましたか?」
「――――あの」
私を挟み、アルヴィンとデリート侯爵が親しげに会話をするのを黙って聞いていたが、もう我慢の限界だった。
「お二人は……知り合いなんですか?」
どう聞いても、お互いを知っているようにしか聞こえない会話だが、確認のために尋ねた。
「僕とアルヴィンは幼馴染なんですよ」
「幼馴染……」
前から薄々、アルヴィンがただ者では無いと思っていた。思ってはいたけど、あまり深く考えもせず、過ごしてきた。デリート侯爵と幼馴染って、いや、アルヴィンって一体何者!?
私を見て微笑むアルヴィンが、今まで一番、意地悪に見えた。
「陛下、フィオナ様とアルヴィンを連れて来ました」
「入れ」
扉を開いた先には、陛下が立派な椅子にどっしりと座って待ち構えていて、デリート侯爵とアルヴィンは何も言わずに、その両隣に控えた。
「よく来たな、フィオナ。今日はフィオナに、今回の功績を称えようと思い、こうして呼び出した」
「功績とは、カルディアリアム領のことですか?」
「そうだ。あのままローレイ……《クィクリー》伯爵の子息に任せていれば、領地は取り返しのつかない腐敗に追い込まれただろう。ローレイから爵位を取り戻し、領地運営を回復させたフィオナの手腕は素晴らしい」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
ウィスキー陛下からこうして直接、賛辞を頂けるなんて思ってもみなかったし、素直に嬉しい。嬉しいけど、私は他のことが気になってそれどころじゃない!
「陛下、フィオナ様はアルヴィンのことが気になっているんじゃありませんか?」
「なんだ、まだ話してなかったのか」
「ええ、ギリギリまで黙っていた方が面白いかと思いまして」
わー、いい性格してるー! やっぱりアルヴィンは意地悪ね!
「では改めて自己紹介しますね、フィオナ様。俺は陛下の命によりカルディアリアム領を調査していた、オルメシア帝国の監査員です」
「監査員?」
「ええ、《アルヴィン=プラティス》。プラティス公爵家の四男になります」
「公爵令息!?」
「あはは、驚き過ぎですよ、フィオナ様」
「驚くに決まってるよね!?」
待って待って待って待って。何で? 何で公爵令息がそんな、忍び込むような真似を!?
「プラティス公爵家は代々、オルメシア帝国の監査員として問題のある領地に出向き、原因の特定を行ったり、解決に導いたりしています。その為に、プラティス公爵家に生まれた子供達は、社交界デビューするまではその姿を公表せず、監査員としての経験を積むことになっていて、俺の正体を知る者は数少ないんですよ」
「社交界デビューするまでって……アルヴィン、もう二十歳過ぎてるでしょう? 私より年上よね?」
「俺は四男だからね、この仕事が性にあってたし、陛下に頼んで長くさせてもらってるんだ。俺は優秀だから、ね?」
それは否定しないけども! いや、頭が全然追いつかないけど、つまり、カルディアリアム伯爵家には、オルメシア帝国から監査が入っていたってこと?
「ローレイは好き放題し過ぎですよ。そりゃあ、帝国に目をつけられても仕方ありません」
仰る通りで。ってことは、私が動かなくても、どっちにしろ、ローレイは失脚してたってことね。
「陛下に命じられてカルディアリアム領の役所に入り込み、調査をしていたんだけど、そこに、フィオナ様、君が予想外の行動を起こし始めた」
夫に逆らえない、気弱な伯爵夫人だと聞いていたのに、爵位を奪い返し、領地の立て直しを始めた。
「それで急遽君に近付いて、様子を探ることにしたんです。フィオナ様が本当にカルディアリアム伯爵に相応しいのかどうかを確認するためにね」
「……そうだったのね」
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