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40話 ウィスキー陛下

 


 待遇が落とされたことに不満を持っているのか、終始ずっと不機嫌でしたからね。カルディアリアム伯爵邸を出る際のキャサリンとの小芝居も本当にウザかった。


『ローレイ様、いってらっしゃいませ! 私、ローレイ様のお帰りをずっと待っています! いつまでも!』

『ああ、キャサリン! 俺は必ず、君の元に戻ってくる! その時には、君に似合う大きな花束を贈ろう!』

『ローレイ様、愛しています!』

『ああ、俺もだ! キャサリン!』


 戦場にでも行くんか? ってくらいの別れだった。まぁ彼等にしたら戦場みたいなもんか。きっと、これに起死回生をかけてるんでしょうからね。


「彼は相変わらずですね」

「はい、相変わらず出来の悪い最低な夫です」


 ニッコリと笑顔で毒を吐いた私が面白かったのか、デリート侯爵は驚いた顔を浮かべた後、笑顔を見せた。


「聞いていた通り、とても面白い女性ですね。貴女に、興味が湧いてきましたよ」


 あら、デリート侯爵ほどの方に興味を持ってもらえるなんて、光栄だわ。このままもっと親交を深めれば、良い繋がりが出来るかも!


「デリート侯爵、そろそろ補佐官の元に戻ったら如何ですか?」


「アルヴィン?」


 ――なんて思っていたら、私と一緒に補佐官の立場として付いてきたアルヴィンは、何故か、私とデリート侯爵の会話を邪魔するように、間に入った。どうしたのかしら? 普段、アルヴィンはそんなことしないのに。


「随分、嫉妬深い補佐官ですね」


「……デリート侯爵」


「はいはい、ではこれで失礼しますよ。フィオナ様、また領主会でお会いしましょう」


 そう言うと、デリート侯爵は会釈し、その場を去った。


「どうしたの、アルヴィン? 折角、デリート侯爵と親交を深める機会だったのに」


「彼とはそこまで深めなくても大丈夫ですよ」


「何で?」


「何ででしょう」


 こっちが聞いてるんだけどね。でも、きっとアルヴィンはこれ以上聞いても答えてくれないと思う。

 諦めて領主会の会場である場所まで向かおうと足を進めるものも、出会う貴族出会う貴族が、足を止め、私に声をかけてくるので、対応せざるを得ないことが続き、中々進まない。

 アルヴィンが早めに到着した方が良いと言ったのは、これが原因か……


「私って、もしかして凄く注目されてるの?」


「そうですね、女当主が珍しいですから」


「珍しいの?」


「俺が知る限り、女当主が領主会に出席するのは初めてです」


「――初めてなの?」


「はい、基本、男性が爵位を継ぐのが一般的で、女性が爵位を継ぐのは、一時的な預かりとしての立場が多いですからね。夫を亡くし、息子が成長するまでの繋ぎとか。フィオナ様のように積極的に領主として働く女性はいません」


 嘘でしょ? 女性の社会進出遅れすぎじゃない? 異世界ってそんなものなの?


「領主会の結果は今後の領主運営に関わってくると思いますので、失敗は許されませんよ」


「分かったわ、任せて」


「……流石はフィオナ様。全く緊張されていないようで、安心しました」


「慣れてるからね」


「初めての出席ですよね?」


 今世ではね。アルヴィンは不思議がっていたけど、さっきのお返しに、私は何も反応しなかった。うんうん、意地悪するなら、し返さないとね。



 領主会会場――


「あの女は、俺からカルディアリアム伯爵の爵位を奪い取った極悪人であり、夫である俺を虐げる最低な鬼嫁だ! あいつが領主になってからというもの、カルディアリアム領は腐敗の道を進んでる! フィオナよりも、俺こそがカルディアリアム伯爵に返り咲くべきだ!」


 挨拶を済ませ、やっとたどり着いた先で見た光景は、夫であるローレイが集まった貴族の方々に向かって私の悪口を高らかと叫んでいるもので、ああ、こいつマジで阿保なんだな、と、一気に肩の力が抜けた。


「カルディアリアム伯爵家の恥をこれ以上ばら撒かないでくれます?」


「フィオナ、やっと来たか! お前の悪行もこれまでだぞ!」


 ……連れて来たの間違えたかな。予想以上に自分の首を絞める行為をしてくれてて、こんな男と婚姻を結んでいる私までも恥ずかしくなるわ。駄目だわ、フィオナの男を見る目が無さ過ぎる! なんでこんな男を好きになった、私!?


「黙れ」


「何だと!?」


「今すぐ大人しくしないと、ここから叩き出すわよ」


 ギロリと睨み付けると、ローレイは渋々だが応じ、大人しく席についた。何でこいつ、こんなに阿保なんだろ。


「皆様お静かに、陛下がお見えになります」


「皆、忙しい中ご苦労」


 陛下の登場に、一同、席を立ち、深く長く、会釈をする。

 顔を上げ初めて間近で見た陛下は、前評判通りのかなりのイケメンで、格好良くて素敵なのに、全くときめかなった。何故なら、隣にいるローレイがウザすぎて、それどころじゃなかったから。


「何やら騒ぎがあったとも聞くが、まぁいい、これより、領主会を行う」


「くく、陛下の耳にも俺の声が届いたようだな! 覚悟するがいい、フィオナ! お前の悪行もこれまでだ!」


 陛下の耳に届いたのは、お前の醜態では? と思ったけど、領主会も始まる寸前だったので、心に留めた。なんでこいつって、こんなに自分に自信があるんだろう。ほんと、謎だわ。



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