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39話 デリート侯爵

 


「俺にそんな口を利いていいのか、フィオナ? 後悔するぞ? もうすぐ領主会があるんじゃないか?」


「あるけど、それが貴方に何の関係があるのよ?」


「はっ! 分かっていないようだから教えてやる! いいか、領主会はな、陛下含む大勢の領主達の前に立つ必要があるんだぞ!? そんな大勢の中で、お前ごときが領地の報告など出来るのか!? 人前に立つのが苦手なお前が!」


 ああ、そういえば、記憶を取り戻す前までの私は、大勢の前に立つのが苦手で、注目されると顔を真っ赤にして俯いてしまうような女性だったわね。


「お前が俺に頭を下げて、カルディアリアム伯爵の爵位を返すというなら、領主会に出席してやってもいいぞ」


 ……まさか、今まで大人しくしていたのは、この領主会で私から爵位を奪い返すためだったの? あがり症の私が、人前で報告なんて出来ないと思って?


「お断りするわ」


「そうだろう――って、断るだと!?」


「ええ、貴方など一切必要ありません」


「お前っ! カルディアリアム伯爵家の名を汚す気か!? 領主会で棒立ちなど、許されないんだぞ!」


「はぁ、お気遣いどうも」


 あのね、知らないでしょうけど、私が前世、どれだけの会議に出席して、成功を収めてきたと思う? ハッキリ言います、私、こういった会議は大得意なの。学生の頃からそういった人前に立つのが苦手な子に代わって、私が引き受けてきたの。


「いいから俺に任せろ! お前なんかよりも、俺の方が相応しいんだ!」


 本当かよ、そんなに自信あるの? ローレイがどれほど得意なのか知らないけど、絶対に負けない自信があるんだけど。


「……なら、私と一緒に行く?」

「フィオナ様!?」


 私の発言に、傍に控えていたジェームズが困惑したような声を出した。


「ほぉ、まぁいいだろう! お前に俺との格の違いを見せてやるよ!」


「わーい、すっごく楽しみー」


 感情のこもっていない棒読みで答えたのだが、領主会に出席出来ることに気を良くしたローレイは、特に何も反応しなかった。


「ただし、その間に何か問題を起こしたら、出席は取り消すわ」


「……ちっ! いいだろう! どうせその日が来たら、お前は自分から俺にカルディアリアム伯爵の爵位を返すことになるだろうからな!」


「はいはい、お帰り下さい。ああ、ジェームズ、すぐにローレイ達の部屋の移動をお願い、使っていない物置部屋にね」


「はぁ!?」


「さっき伝えたでしょう」


 私の使用人に暴言を吐いた罪は重いのよ。


「俺がカルディアリアム伯爵の座を取り戻したら覚えていろよ! すぐにお前を前よりも酷い犬小屋にでも閉じ込めてやる!」


「はいはい」


 これが負け犬の遠吠えというやつかしら? 耳障りなことで。


「フィオナ様、よろしいのですか!? ローレイ様を連れて行くなんて……!」


「大丈夫だよジェームズ、フィオナ様は敵対する相手には容赦しない方だ。きっと、何かお考えがあってのことだろう」


 アルヴィンはまだ短い付き合いながら――いえ、前世の記憶を取り戻した後からの付き合いだからか、今の私の性格をよく熟知している。


「そうね、安心して。別にローレイにチャンスを与えたわけでも、不安だから連れて行くわけでもないから」


 ローレイは自信満々に俺に代われとか言ってるけど、信用が一切出来ない。てか、最近は私が領主として働いているんだから、報告なんて出来ないでしょう。どうする気なのかしら? まぁ、あれだけ自信満々なんだもの、折角だからお手並み拝見しましょう。


「領主会が楽しみね」


 ローレイなんかに足元を見られないためにも――いえ、木っ端微塵にプライドを潰すためにも、下準備は慎重に、丁寧に、細かく、完璧にしなきゃ。





 領主会――――皇帝陛下も参加するそれは、領地の様子を報告し合い、問題が無いかを確認する場でもあるが、同時に、陛下に直接、自分の優秀さをアピールする場でもある。ここで陛下の目にとまれば、信頼も上がり、領地にとっても有益に働くが、逆に、自分の無能さを露呈する場でもある。

 領主会に招待された領主達は、緊張しながらも、この領主会に挑むことになるのだ。


「おやおや、これは新しいカルディアリアム伯爵ではありませんか」


 領主会の会場である皇室に着くと、すぐに貴族の男性から声をかけられた。


「初めまして、フィオナ=カルディアリアムです。お目にかかれて光栄です、《デリート》侯爵」


「僕を知っているんですね」


「勿論です、デリート侯爵。デリート侯爵ほどの有名な魔法使いを知らない者など、この帝国には存在しないでしょう」


 世間知らずな元のフィオナでさえ、デリート侯爵の名前は知っていた。数ある魔道具を発明した若き発明家であり、魔法使い。


「ちゃんと勉強なさっているようですね。もしかして、他の貴族も覚えているんですか?」


「今日、出席予定の貴族の方は全て覚えております」


「全て? 男爵も? 子爵も?」


「はい」


 貴族同士の繋がりは大切だと聞くもの。大抵、その役割を配偶者である貴族夫人がお茶会を開いたりして補ったりするんだけど、私にはいないので、自分自身で繋がりを持つしかない。


「成程、前カルディアリアム伯爵――ローレイ様とは違うようで、安心しました」


「……夫が何か失礼を?」


「ローレイ様は自分より爵位が下の者に対して見下し方が酷いものでしたから」


 あの馬鹿、領地だけでは飽き足らず、こんな所でもカルディアリアム伯爵の名前を汚すような真似してるのね……!


「本当に申し訳ございません」


「いえいえ、今日はその夫も出席すると聞きましたが、ローレイ様はどちらに?」


「聞き及んでいると思いますが、私達の夫婦関係は破綻しております。皇室までは別の馬車で連れてきましたが、着いた途端、一人でどこかに行きました」


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