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35話 再婚か……

 


 何やら煮え切らないパン屋のおじさんから出来立てのパンを受け取ると、店の近くにあったベンチに腰かけた。

 今日の出来立てはクリームパンで、かぶりつくと甘いクリームが口の中いっぱいに広がる。

 うん、やっぱり美味しいー! 勿論、カルディアリアム伯爵家の料理も美味しいけど、それはそれ、これはこれ。お行儀悪く外で大きな口で頬張る背徳感も合わさって、美味しい。


「カルディアリアム伯爵ともあろう方がパン一つで喜ばれるなんて、お手軽ですね」


「そう? あ、パンのお金、出してくれてありがとうね」


「お気になさらず」


「アルヴィンはどれだけイケメンなの?」


「…………推測するに、格好良いと仰ってくれているんですかね」


 こうやってサラリと女性に奢っちゃうとこが、凄いわ! そりゃあモテるわよ! (二回目)


「フィオナ様はローレイ様と離婚後、いつ頃、再婚する予定なんですか?」


「――――多分、しないと思うけど」


「は?」


 だって非モテ過ぎて、自分が結婚する未来が一ミリも見えない! 今世、奇跡的に結婚していたけど、爵位目当てのロクでもない男だったし、もういっその事、前世同様、ずっと独身を貫こうかな、なんて考えていたところだったりする。

 え? そんな決意しなくても、誰も私を選ばないって? 分かっています!


「嘘でしょう? 跡継ぎはどうするんですか? カルディアリアム伯爵家を途切れさせる気ですか? まさか、考えていないことはないですよね?」


「――――勿論よ」


「考えていませんでしたね」


 忘れてた! そうだわ、貴族ってそうだった! 跡継ぎが必要なんだった! え、どうする? 今からでもジェームスに頼んで相手探しとく?


 貴族間で愛のない結婚なんて、よくあることだ。

 親同士が勝手に決めたもの、政略的なもの、古くからのしきたり。その中で女は、跡継ぎになる子供を産むことを強く求められる。日本じゃもう女性差別、時代錯誤だけとね。

 カルディアリアム伯爵家には、長女である私しかいないから、必然的に私が跡継ぎになり、夫になったローレイがカルディアリアム伯爵を継いだ。子供がいない家は――


「養子を取るしかないかしら」


 究極これしか思い付かない。

 小さい頃から立派な当主になれるよう、教育していけば……って待って、子育ての経験がない私に、いきなり子育てなんて出来る? いや、無理じゃない。


「初めからそこに着地するんですか?」


「立派な当主になってくれるのなら、血の繋がりは気にしないわ」


 前世の会社経営と同様に考えるのも変かもしれないけど、血の繋がりのある家族で経営しているところもあれば、血の繋がりがない優秀な方を外部から迎えて跡継ぎにしている会社もあった。優秀で立派な方なら、血の繋がり関係なく、安心して跡を任せられると思うのよね。

 ああ、そう言えば、前世の会社で一時期、社長の馬鹿息子が入社したな……『自分が次期社長だー!』なんて威張り散らして、無茶な企画通して、業務をめちゃくちゃに引っかき回して……あの時は、本気で退職届を出す寸前だった。結局、全ての企画を練り直して、立て直して、合間に馬鹿息子がしてた不正の証拠を集めまくって、解雇に追い込みましたけど。

 あんな馬鹿息子が跡を継いだりしたら、会社の未来はお先真っ暗だったわ。


「跡継ぎ云々の前に、新しい恋は考えないんですか?」


「こ……い?」


「なんでそんな、知らない単語に初めて出会ったみたいな感じなんですか。まだ若いのに恋愛に興味なさすぎでしょう」


 前世と年齢合わせて六十歳、彼氏も出来ず、やっと結婚出来た相手はカルディアリアム伯爵家目当ての屑男なら、恋に消極的にもなるでしょうよ。


「別に、結婚を完全に諦めているワケじゃないのよ? 勿論、良い相手がいたら結婚したいわ」


 最初の結婚相手を壮大に間違えてしまっただけに、良い相手を選ばなきゃってプレッシャーは強いけど! だってまた、ロクでもない男に引っかかって、カルディアリアム領を滅茶苦茶にされたら溜まったもんじゃないでしょう?

 それなら、一生独身の方が――――


「結婚相手が俺なら、喜んで引き受けてくれますか?」


「………………はい?」


 意味不明な質問過ぎて、頭で理解するのに時間がかかった。どうしてそんな質問に? 相手が俺? アルヴィンが結婚相手なんて、それは――


「私とアルヴィンじゃ、釣り合わないでしょ」


 胸を張ってハッキリと断言する。私とアルヴィンじゃ、どこをどう見ても釣り合わない。


「それは残念ですね」


 心がこもっていない、冷めた声。

 何で? どうしてそんな反応? 泣きたいのはこっちなんだけど。


「そうよアルヴィン、自分の顔、ちゃんと鏡で見たことある? 私とアルヴィンじゃ、全然釣り合わないじゃない」


「………………はい?」


 さっきとは逆に、今度はアルヴィンの方が長い沈黙のあと、ほうけた声を出した。


「自分で思ってる以上に、アルヴィンはイケメンなのよ! その上、女性に優しいし気遣いが出来るし、仕事は出来て、非の打ちどころがないんだから! そんな相手と私じゃ、月とスッポンよ」




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