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32話 また帰ってと言われました

 


 私の一日は、その日の予定によって変わるが、基本、まだ日が出ない朝の五時に起床し、始まる。

 侍女に熱い珈琲を頼み、自分で出来る簡単な身支度をしながら、今日の予定を自分の目で確認する。昼食や夕食は仕事に没頭するあまり遅れることがあるが、朝食だけは基本、時間通りに頂く。


「おはようございます、フィオナ様」


 隣の部屋に移動してきたアルヴィンは、いつも見計らったように私と同じタイミングで扉を開け、鉢合わせる。もう少しゆっくり起きてきても構わないのに、なんて思うけど、主人が先に起きているのに起きないのは、彼等的にもよろしくないのだろう。

 だから少し遅く起きる日がある時は、前もって全員に伝えるようにしている。そうしたら、皆もゆっくり出来るものね。


「おはようございます、フィオナ様」


「お早うモカ、今日もよろしくね」


「はい!」


 モカは今、私の部屋の清掃も任されるようになった。清掃を担当するメイドとしては、主人の部屋を任されるのは最大の評価といえる。ジェームズからモカにその旨を伝えた時には、泣いて膝から崩れ落ちるくらい、喜んだらしい。自分の仕事が正当に評価されるのって、嬉しいわよね。


「おはようございます、フィオナ様」


「おはようジェームズ。家のことで何か問題は無い?」


 こうして、カルディアリアム伯爵邸を任せている執事長に家のことを確認するのも、大切な私の仕事。


「特に問題はありません、あの二人がここにいることを除いては、ですが」


「まだいるのね」


 ミラーシェをここから追い出した後も、ローレイとキャサリンはここに残った。

 誰も味方がいないくて居心地が悪いでしょうに、よくまだ平気でここに住めるわね。私なら速攻出て行くけど。

 ミラーシェが追い出されたことを知ったキャサリンは泣いて喚いて大変だったらしいけど、私は仕事に出ていたので現場は見ていない。ただ、部屋の備え付きの家具等を破壊しそうになった際に、ジェームズが満面の笑みで『そうですか、キャサリン様ともさようならですね』と言うと、固まって動かなくなったらしい。


「裁判の準備は少しずつでも進めているのよ?」

「分かっております。仕事優先、立て直しが最優先です」


 アルヴィンに手伝ってもらい効率が上がったとはいえ、ローレイのやらかしは多方面に広がっていて、処理するのに思った以上に時間がかかっているのが現状。ジェームズもそれを理解しているので、不満では無く、ただの報告として口に出しているのだろう。


「本日はこちらで仕事ではなく、外に出られるのですよね?」


「ええ、会社でワインの試飲に、会議が二件。次は役所に寄って領地の様子の聞き取りと、町を視察して、リンシン孤児院にも寄りたいわ。子供達とちょっと一緒に遊んだり出来たらなって思っているの。あとは帰ってから、それ等の報告をまとめるだけよ」


「また午前様ですか?」


「今日はそんなに遅くならないわよ、多分」


 いつもそんなに遅くまで仕事するつもりないのに、何故だか、時間が経過してしまうのよね。困ったものだわ。


「少しはお休みを取って頂きたいのですが」


「私は大丈夫よ、心配してくれてありがとう」


 毎日三時間は睡眠を取れているし、品質の良いベッドで朝まで寝れて、美味しくて栄養のある朝食が用意されている。これだけで十分、私は元気。


「では行ってくるわ、家のことをよろしくね、ジェームズ」


「かしこまりました。アルヴィン様、フィオナ様をよろしくお願いします」


「ああ、任せて」


 朝食を食べ終え、用意された馬車に向かう。時刻は午前七時、朝の空気が清々しくて、思わず、んー、と、伸びをする。


「さて、今日も頑張りますか」


 ――そう意気込んで馬車に乗り込んだのだが、その意気込みは、残念ながら不発に終わることになった。




 カルディアリアム伯爵家が運営する会社――


「どうぞ! こちらが今日の会議の報告書に、全社員のワインの試飲の感想をまとめたものです! フィオナ様のワインはこちらに用意してあるので、感想を頂ければと思います!」


「……ありがとう」


 到着するなり、挨拶もそこそこにカロンから報告書をまとめて貰ったけど、私の頭の中は?マークでいっぱい。あれ? その会議は私も参加予定では? 報告書の日付を見るに、昨日しちゃったの? ワインの試飲だって、一緒にするはずだったのに。


「どうですか、フィオナ様! 俺だってやれば出来るんですよ!」


「カロンのことは前から信頼しているわ」


 じゃないと、カロンに会社を任せたりしない。


「本当ですか!? 有り難き幸せですフィオナ様!」


 凄く嬉しそうなカロンを目の前にしたら、何も言えなくなるんだけど……え? あれ? なんで私抜きで全部終わらせちゃったの?


「さ! 今日はフィオナ様は必要無いんで、帰って下さい!」


 そんな満面の笑顔で帰れって言われても! 私、前にもカロンに帰れって言われた気がするわ。何これ、デジャブ?

 胸のモヤモヤを残し、言われるがまま、会社の外に追い出された。

 カロンから渡された報告書をさらりと見たけど、問題無く会議も試飲も行われている。あ、ワインの試飲もしないまま追い出されたんだけど……まぁいいか、まだ販売までは日があるし、次に来た時で。


「予定は早まっちゃったけど、役所の方に行きましょうか」


 降りたばかりの馬車に乗り込み、御者に役所に向かうよう指示を出す。


 カロン、どうしちゃったのかしら。私のことが邪魔になったとか、嫌いになった感じでは無かったけど……たまたま時間があったから仕事を終わらせておいたとか? 考えても答えは出ない。


 よし、気を取り直して、次こそは仕事を頑張るわ!




誤字脱字報告ありがとうございます。感謝します。

いいね、ブックマーク、評価、読んで下さる皆様、ありがとうございます。

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