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26話 有能な男

 


 ローレイとキャサリンには、カルディアリアム伯爵邸の端っこにある小さな使用人の部屋をあてがった。

 彼等が私から奪って住んでいた当主やその妻の部屋に比べれば月とすっぽんだけど、それでも、私が住まわされた物置部屋に比べればマシなんだから、感謝して欲しいものだわ。


「ちなみに、ここが私が以前まで住んでいた物置部屋よ」


 懐かしくなってアルヴィンに紹介がてら部屋の中に入ると、私が住んでいた面影は無く、きちんとした物置部屋の用途として使われていた。整理整頓、綺麗に掃除もされてる。


「カルディアリアム伯爵夫人がこんな物置部屋に追いやられるって……」


「舐めてるでしょ?」


 今となっては懐かしいわ。


 そのまま部屋を出て、普段通ることのない使用人部屋の通りへ。ここら辺一体は最近はあまり使っておらず、物置部屋と化している部屋が殆どで、人通りは殆ど無い。今は、ローレイとキャサリンが日の当たらない五畳程の小さな部屋でそれぞれ暮らしている。

 部屋も一室ずつ与えているし、食事も腐っていないものを三食提供しているし、お風呂だって使わせてあげてる。自分で言うのもなんだけど、私、凄い優しいと思うわ。


「――クソ! 何で俺がこんな部屋に追いやられないといけないんだ! 俺はカルディアリアム伯爵だぞ!」


 ただ、私の優しさはあの人達には一切伝わっていないようで、歩いていると、壁の薄い部屋の中から、ローレイの怒鳴り声が聞こえてきた。


 いや、もうカルディアリアム伯爵じゃないんだってば、執拗いな。


「なんてことなの、私が留守中にこんなことになっているなんて……」


「お母様、私、悲しいです。こんな扱い、酷過ぎます! フィオナ様は、人の心を持たない悪魔です! 私の方が絶対可愛くて、愛嬌があって、健気で、カルディアリアム伯爵夫人に相応しいのに!」


「その通りだキャサリン! キャサリンこそが、俺の妻に相応しい!」


「ああ、ローレイ様! ローレイ様こそ、カルディアリアム伯爵に相応しいお方です! どうかあの悪魔から、私を救い出して下さい!」


「勿論だ、俺の愛しき人、キャサリン!」


「ローレイ様ぁ」


「ああ、キャサリン、なんて可愛くて健気な私の娘!」


 ローレイの部屋の中にキャサリンもミラーシェも集まっているようで、三人の安っぽい悲劇の劇場が廊下中に響き渡り、私もアルヴィンも、揃って頭を抱えた。誰が悪魔だ!


「フィオナ様は、ローレイ様のどこを好きになったんですか?」


「お願い、聞かないで」


 もはや黒歴史だから。


「ここがお気に召さないのなら、離婚届に判を押して、さっさと出て行けば如何ですか?」


 扉を開け、埒が明かない劇場を問答無用で中断し中に踏み込むと、ローレイはキッと、私を強く睨み付けた。


「フィオナ!」


「貴方はもうカルディアリアム伯爵でもなければ、その夫でもないんだから」


「俺は認めていないぞ! まだ離婚届に判を押してない限り、俺達は夫婦だ! それなのにこの俺を、その妻であるキャサリンをこんな貧相な部屋に閉じ込めるなど、有り得ん! 常識を知らないのか!」


「……ツッコミどころが満載過ぎて、どこから話せばいいのか分からないわ」


「同感です。俺からお話しましょうか?」


「お願いするわ」


「なんだ、その男は……まさか、フィオナの浮気相手か!? この俺がお前みたいな地味な女と結婚してやったのに、浮気だと!? どれほど恩知らずな女なんだ!」


「黙れ、この屑男」


「何だと!?」


 どの口が言うか、よ。浮気しているのはそっちでしょうが!


「お初にお目にかかりますローレイ様、俺は新しくカルディアリアム伯爵の補佐官になったアルヴィンと申します。以後――出来ればお見知りおきにはなりたくありませんね」


「はぁ!?」


 おお、アルヴィンも中々言いますね。


「まず最初に、フィオナ様とローレイ様の離婚は成立していませんが、夫婦関係が破綻しているのは明らかです。妻であるフィオナ様に対し、最初に理不尽な扱いをしたのはローレイ様で、フィオナ様が同じことをしても文句を言う筋合いは貴方には無いでしょう。第二に、まだ夫婦であると言いながらそこの浮気女を妻と言い出す貴方の神経を疑います。常識が無いのはローレイ様の方では?」


「なっ!」


「自ら進んで有責で離婚されようとするなんて、酔狂な方ですね」


「お前、誰に向かって――」


「第三、貴方のような出来の悪い男と結婚してくれたにもかかわらず浮気女に現を抜かすなんて、ローレイ様の方が恩知らずな男です」


 言いたいことを代わりに全て代弁してくれるアルヴィン。優秀だわ、流石出来る男! 格好いいー! 素敵! もっといけいけー! 思わず拍手してしまったわ、素晴らしい!


「お前……たかが補佐官の分際で!」


「アルヴィンは私の補佐官です。彼の言葉は私の言葉だと受け取って下さい」


「お前の言葉だろうが、一緒だ! 俺に逆らうなんて何様のつもりだ! どうせいつか俺に泣きついて、カルディアリアム伯爵の爵位を俺に返すことになるんだ! お前に当主の責任など果たせるワケがないんだからな!」


 はぁ、久しぶりにお相手してあげたけど、全く変化が無いわね。



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