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25話 浮気女の実母

 


 考えても私には分かりようがないし、害が無く、きちんと働いてくれるならいいわ。本当に危険な人物なら、イリアーナが推薦なんてしないでしょうし。


「うん、今日も美味しい」


 気を取り直して、目の前の料理を一口、口に運ぶ。うんうん、流石は料理長。目の前に並ぶ料理は頬っぺたが落ちそうなくらい美味しくて、お皿一つとっても、料理長のこだわりが感じられた。以前、ここで割れた食器で腐った食事を食べていた頃とは、比べ物にならないわ。


「とても強く見えるフィオナ様が、そんな扱いをされても、よく我慢しておられましたね」


「やだ、私、こう見えて結構、か弱いのよ?」


「ご冗談を」


 全く信用していませんね。でも、前世を思い出すまでの私は、間違いなくか弱い女性よ。

 ローレイに捨てられて一人になったら生きていけないと思うような、か弱い女性。だから、フィオナは決してローレイに逆らわず、全てをローレイの好きにさせていた。


 それがどんなに理不尽なことでも――


「フィオナさん!」


 バンッ! と扉が勢いよく開く音が聞こえると、私達が食事をするダイニングルームにズカズカと断りも無く一人の女性が入って来た。

 歳は前世の私と同じくらい、ケバケバしい化粧をした派手な格好をしているその女性を、不本意だけど私は知ってる。


「ああ、やっと戻って来たのね、《ミラーシェ》。人のお金を勝手に使って、随分贅沢な旅行に行かれたようで」


「何なのその口の利き方は!? 貴女、私達がここに()()()()()()()()のに、何様のつもり!?」


「……フィオナ様、こちらの女性は?」


 ギャンギャンよく吠える犬みたいに私に怒鳴り散らす女性のことを、アルヴィンは怪訝な表情を浮かべながら、尋ねた。

 ああ、そう言えばアルヴィンは初対面でしたね。


「元 《グランドウル》男爵夫人で、キャサリンの実母よ、一緒に暮らしていたの」


「――は?」


 笑えるでしょ? ローレイは浮気女だけじゃ飽き足らず、キャサリンに頼まれ、浮気女の実母までも、家に連れ込んでいたの。それでも逆らわなかった私は、本当に気弱な性格してるわ。


「勝手に使用人を総入れ替えして、会社も滅茶苦茶にして、ローレイ様からカルディアリアム伯爵の爵位も奪ったんですって!? なんて浅ましい女なの!」


 それもこの女、昔から私に対する礼節を一切持ち合わせていないのよね。こうやって何度暴言を浴びせられたことか。


「誰からこの件を聞いたの?」


「友人よ! 旅行中に風の噂で聞いたって教えてくれて、まさかと思って家に帰ってきたら、こんなことに……!」


「ではまだローレイやキャサリンには会っていないのね。私のところにギャンギャン吠えに来るよりも、先に二人に話を聞いて、現状をよく理解された方がいいわよ」


「何ですって!?」


「ミラーシェをお連れして」


「はっ」


「ちょっと、何なの貴方達、放しなさい! 私は未来のカルディアリアム伯爵夫人の母よ!? 使用人風情が触らないで頂戴! 聞いて――」


 使用人に命じ、ミラーシェを強制的に追い出すと、ダイニングルームは一気に静けさを取り戻した。


「……まさか浮気女の母親まで家に招き入れているなんて、驚きですよ」


「アルヴィンがここに来る半年くらい前から、カルディアリアム伯爵家のお金で旅行に出掛けて留守にしていたの。知らなくても無理はないわ」


「本当に好き勝手させていたんですね」


「猛省してるわ」


 ミラーシェ。

 元グランドウル男爵夫人で、今は自身の浮気と浪費が原因で離婚され、独身。家を追い出されたミラーシェを不憫だと思ったキャサリンは、ローレイに頼んで、自分の母親をここに呼び寄せた。


「ミラーシェは元平民で、とても自由奔放な性格をしてるわ。今回の旅行も、新しい恋人と行ったんじゃないかしら」


 きっとこの母親からの遺伝子を、キャサリンは色濃く受け継いだのでしょうね。

 キャサリンは父親の方に引き取られたが、グランドウル男爵の後妻と折り合いが悪く、家出同然、結婚前の同棲として、カルディアリアム伯爵家に転がり込んだ。

 妻である私がいるにも関わらず、結婚前の同棲だなんて、母親に似て節操の無い女よね。


「戻って来たのなら、改めて追い出したら如何ですか? キャサリンも一緒に」


「そうね、余計な真似をしたら、追い出すわ」


「俺なら即刻叩き出すけどね」


「私、前世が女神様のように優しいでしょう?」


「ご冗談を」


 そう言えば、私が女当主になったここで、ローレイ達はどんな生活を送ってるのかしら。家のことはジェームズに任せっぱなしでいたけど……少しは気にしないと駄目よね。

 使用人を総入れ替えし、ローレイやキャサリンを家の片隅に追いやってからというもの、孤児院の一件もあって、完全に彼等のことを忘れていた。仕事に没頭してしまうあまり、興味のないことを忘れてしまうのも、私の悪いクセです。

 ミラーシェも帰って来たことだし、また何か騒動を起こしてもおかしくない。注意しておくにこしたことはないか。


「アルヴィン、昼食を食べ終わったら、一緒に家の中をお散歩しない?」


「家の中のお散歩ですか、いいですよ、お付き合いしましょう」



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