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24話 本当はどこかの貴族なの?

 


「私、婚姻中にローレイに何も手を出されていないの。きっと、私のことなんて見向きもしていないから平気よ。私に手を出す人なんていない、いない」


 自虐でもなんでもなく、これは本心。


 婚約中はまだ甘い言葉を囁いてくれていたのに、気弱で、いつも俯いてばかりの根暗な私を、結婚後、ローレイは一切相手にしなかった。反対に明るくて可愛くて男に媚びを売るのが上手い――失礼、愛嬌のあるキャサリンに愛を注いだ。

 前世でも、男に相手されない彼氏いない歴=年齢の干物女だったし、こんな仕事一筋の可愛げのない女を相手にする男なんてこの世にいないでしょう。


「……ジェームズ、この危機管理が皆無のお嬢様の部屋の隣に移ってもいい?」


「はい、すぐに部屋の移動をメイドに申し付けておきます」


「ええ!? どうして!?」


 私としてはいかに自分が安全かをアピールしたつもりだったのだが、一掃された。まぁでも、私を心配してのことだし、アルヴィンが傍にいてくれるなら、安心ね。


 アルヴィンの部屋の移動が決まったところで、私達は積み上げられた書類の山を片付ける作業を再開した。

 会社、家、領地、不測の事態が起きない限り、基本は部下に任せて、私はそれぞれの書類に不備が無いかを確認しつつ、サインをする。予算の申請書などは特に念入りに、本当に必要かを確認し、必要があれば現場に行き、聞き取りを行ったり、会議を行ったり。不測の事態が起きれば、都度、問題解決に取り込む。

 この処理しなければならない書類の数が、兎に角多い。

 ローレイに無茶苦茶にされた傷もまだ癒えていないので、それもあって余計に多い。だから離婚裁判にまで手が回らないというのもあるんだけど。


 あの馬鹿の所為で、なんで私がこんな大変な目に……


「フィオナ様、ローレイ様が仕出かした傷をまた発見しました」


「またか……」


 ちなみに、ローレイが前カルディアリアム伯爵の時にやらかした会社の損害やら不正やら使用人の不当解雇やら税の無駄使いやら、様々な問題のことを、私達は傷と称している。

 私とジェームズでは見つからなかった傷を次から次へと見つけてくれるアルヴィンには、本当に脱帽するとともに、ローレイ、貴方、一体いくつやらかしてるの!? と、殺意にも似た怒りが湧く。


「ローレイ様は本当に好き放題されていたようですね」


「あの人は仕事をなんだと思っているのかしら」


 やる気がないのに、何故、責任ある伯爵の爵位を得ようとする? カルディアリアム伯爵は、貴方達の私利私欲のために使えるお得な爵位じゃないのよ!


「フィオナ様、そろそろ休憩しましょうか」


「え? もうそんな時間?」


「ええ」


 時計を見たら、仕事を始めてもう七時間。あら、もうこんな時間なのね。


「ジェームズからフィオナ様は仕事に没頭すると食事を取るのも忘れてしまうと聞いていましたが、まさにその通りでしたね」


「私の悪いクセの一つなの、指摘してくれてありがとうアルヴィン」


「どういたしまして」


 休憩を取るって思ったら、途端にお腹が空いてきちゃったわ。やっぱり休息を取ることは大切よね、のちの仕事の効率にも繋がるもの。

 遅めの昼食の用意を侍女に言付けし、アルヴィンと一緒にダイニングルームに向かう。

 この家の使用人は全員、私が仕事に没頭すると食事を取ることを忘れると理解しているので、もう慣れたように、分かりましたと返事をしてくれる。

 私は作り置きにしてくれれば良いと言ったんだけど、料理長的にそれは許されないらしく、私の合図とともに最後の仕上げをして、出来立てを提供してくれている。とても申し訳なくて、出来れば時間を守ろうとは思うのだけど、料理長は『こちらがフィオナ様に合わせればいいだけなので、遠慮なく仕事に取り組んで下さい』と言ってくれた。

 なんて出来た料理長……流石は我がカルディアリアム伯爵家の料理長だわ。


「アルヴィンも、休憩が遅れてごめんなさいね。あれなら、私を置いて勝手に休憩に行ってもらってもいいのよ?」


「お気になさらず、俺も仕事は終わらせておきたい派なので」


「そうなの? それは良かったわ」


 ダイニングルームに着くと、テーブルには二人分の食事の準備がされていて、私はその片方に座ると、もう片方にアルヴィンを手招きした。


「俺がフィオナ様と食事をご一緒していいんですか?」


「どうぞ、カルディアリアム伯爵家では許されるの」


 使用人と食事なんて普通の貴族はしないんでしょうけど、私は普通に平民ともしますからね。パン屋で買い食いもするし、ケネディとも一緒に食事をする。とは言っても、ジェームズ含めて、カルディアリアム伯爵家では誰も食事に付き合ってくれないけど。


「では、お言葉に甘えますね」


 だけど、アルヴィンは簡単に了承し、素直に用意された席についた。


「……アルヴィンって、本当はどこかの貴族なの?」


「どうしてですか?」


「いえ、食べ方とか、礼儀作法が綺麗だなと思ったから」


 それに、私との同席に少しも躊躇が見られなかった。まるで、自分もここで食べるのが普通、みたいな感じがした。


「さぁ、どうかな」


 ――またか。

 言いたくないなら、アルヴィンなら上手く誤魔化せるでしょうに、わざと気になるようにしてるとしか思えない。本当に意地悪な人ね。


「はぁ、もういいです」



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