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23話 あいつ等、まだいるのね

 


 *****



 役所での引き継ぎは私が予想していたより早く終わり、別れてから三日後には、アルヴィンはカルディアリアム伯爵邸に来た。

 あまりの速さにジェームズも驚いていたけど、早目に部屋を用意してもらっていて良かったわ。

 アルヴィンの部屋は、ジェームズの隣に用意した。

 執事長と補佐官。重要な役割を持つ二人の部屋はここカルディアリアム伯爵邸の中でも広くて、豪華な分類に入るのだけど、アルヴィンは来た初日に、執務室で仕事をしている私に向かって、文句を言い付けた。


「部屋を移して下さい、フィオナ様の隣の部屋に、今すぐ」


「――えっと、何故?」


 私の隣? 本来、そこは夫であるローレイの部屋で、今は追い出して屋敷の隅っこの部屋をあてがっているから、今は空室なんだけど……


「何故って、それはこちらの台詞です。どうしてまだ、ローレイ様とその愛人の女がここにいるんですか?」


「ああ、まだいるのね」


 仕事優先で、あいつ等のことをすっかり脳内から消していたわ。確認を込めてジェームズに視線を移すと、ジェームズは、ふぅ、と肩を揺らしながら、大きなため息を吐いた。


「はい、何度もお話しているのですが、一向に出て行く気配がありません」


「無理矢理追い出したら如何ですか? なんなら、俺が今から追い出しましょうか?」


「離婚届に判を押さないのよ」


「どういうことですか?」


「言葉通りよ、自分から離婚を言い出したクセに、判を押すのを渋っているの」


 初めはお情けで家に置いて上げていたんだけど、いつまでも出て行かないから、さっさと離婚届に判を押して出て行けと通告したら、『誰が離婚届に判なんて押すか!』と、破り捨てられた。

 あれだけ離婚すると私を脅しておいて、実際は離婚を渋るなんて、本当に情けない男。


「出来れば素直に判を押して出て行って欲しいのだけど、このままごね続けるなら、裁判するしかないわね」


 何せ、偽装は重罪だ。

 特に、ここ《オルメシア帝国》では、私達貴族に関わることには厳しい取り組みがあり、それは婚姻によるものも同じ。貴族の婚姻は爵位が絡むので特に慎重になる。

 貴族間の婚姻、離婚には陛下の許可が必要で、書類を偽装するということは、陛下を欺いたも同意とみなされ、問答無用で牢獄行き。下手な真似は出来ない。


「あの愛人だけでも追い出せば如何ですか?」


「行く宛てがないみたいだから、可哀想じゃない」


「君はどれだけ慈悲深いのかな?」


「折角だから、真実の愛とやらを貫いてもらおうと思って」


 これは半分本気で、半分冗談。

 二人して私を散々コキおろしてくれたので、どうせなら一緒に地獄を見てもらおうかなって。まぁ、今の今まで二人の存在を完全に忘れていたんですけどね。


「浮気の証拠は勿論、押さえてあるんですね?」


「当然。浮気の証拠どころか、数々の不正の証拠もしっかり手に入れてるから、裁判になっても負ける要素はどこにも無いわ」


 あの人達、私が何も出来ないと思ってやりたい放題、証拠残し放題でしたからね。舐められたものよ。


「なら早く裁判を起こして離婚すれば如何ですか? 離婚すれば、彼等をまとめて追い出せるんでしょう? 婚姻を結んだままでは、新しい恋も始まりませんよ」


「あの人達のことはどうでもいいわ、あんな羽虫、後からでもどうとでもなるもの。それよりも、こっちの書類のことなんだけど、これはどう対処するのが正解かしら? 折角アルヴィンが補佐官になってくれたんだもの、今はしっかりと学びたいわ」


「……信じられない、自分の婚姻を後回しにするなんて……」


「フィオナ様はご自身の結婚に全く興味がないようでして、私共も大変困っております」


 呆れ果てるアルヴィンに、それに追随するように深く溜め息を吐くジェームズ。

 そんなにおかしいことかしら? 別に自分の結婚に全く興味が無いわけじゃないのよ? 勿論、いつかは私だって素敵な結婚――この場合再婚か、再婚が出来たらなぁって思うけど、どうしても、目の前にしなくてはならない仕事があれば、そちらを優先してしまう性格なだけ! この所為で前世、何度、『そんなんだから婚期を逃すのよ』と母に嫌味を言われたことか……! これは社畜時代からの呪いだわ!


「追い出す気がないのなら、尚更、俺の部屋を移して下さい」


「最初の主張に戻ったわね。どうして? 私が離婚しないことと、部屋を移すことにどんな関係があるの?」


「例え彼等の味方がいなくなったと言っても、家にいる以上、もし何かされたらどうするんですか? もしかしたら、無理矢理襲われるかもしれない。貴方とローレイ様は一応婚姻関係にあるんですから、何をされても文句は言えないんですよ? 不測の事態に備えるためにも、傍に誰かいた方がいいでしょう。そして、それはジェームズよりも俺が最適です」


 一応、ちゃんと施錠してるんだけど……って訴えは聞き入れてくれないわよね。

 まぁ、ジェームズは父の代から使える執事で御年六十五歳ですから、争い事になったら弱いでしょうし、それなら、若くて力のあるアルヴィンの方が、何かあった時には対処出来るでしょうね。



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